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† 十三の罪――崩壊への序曲(弐)
しおりを挟む「たもんまるの去った方角から、大規模な魔術行使の波動があった。厳重な障壁で閉ざしておったみたいじゃが、悪魔の勘は誤魔化せぬ」
「勘かよ」
「ベリアル、なの?」
「あれほどの出力――ご主人さまと吾輩がここにおる以上、おそらくはあやつのしわざじゃろう。波長からして、攻撃だな。よほどしぶとい相手だったようじゃが、ある時を境にすっかりとぎれた」
「戦闘が終わったっつーことか」
「……あやつが敵を倒しきったのか、もしくは信じがたいが、敗れたのか――あの公爵にこれほどの魔力を使わせる相手とあらば、その両方もありうるやもしれぬな」
「ベリアルが相手じゃさすがの多聞さんでも…………」
「もう朝焼けっつーことは、遅めに見積もっても多聞さんが到着してから半日は経って――――」
そこまで口にして、目を瞠る。
「朝焼けなんかじゃ――――」
林原が日没と共に出て行ってから、まだ数時間だろうか。時計はとっくにやられちまったし、居場所を特定されないよう通信機も捨てたので、細かい時間は分からないが、夜明けには早いはずだ。
「東京が、燃えてる…………」
受け止めきれない現実を、三条が代弁する。
「……まさか包帯のヤツ、もう動きやがったか!? いや、林原は茅原と決着つけに行くような口ぶりだった――林原のおっさん、やられたのか? 茅原の手が空いたんなら、打って出てもおかしくねぇ!」
朱くにじんだ空は、東京湾のときと違い、完全に市街地がある方向だ。
(……また、なのか――――)
また俺は、罪のない人間が理不尽な目にあうのを見過ごすのか。
あのときは弱すぎた。あまりに無力で、何もできずに終わってしまった。だから、俺は奇跡に手を伸ばしたんだ。届かない奇跡をつかむために――――
(そのために俺は、人間の有限を捨てたんだ……!)
今は妖屠になった上に、最強の悪魔が味方してくれている。迷う余地はないし、許されない。
「桜花! 考えごとは後だ。敵の現状確認と市民の安全確保が急務と提案する」
「あちらの手の内も知らぬのにか?」
眉をひそめるベルゼブブ。
「明日になったからって弱るような相手でもねーだろ。ここで悩んでる間にも、犠牲者が出るかもしんねーんだ……俺たちにやれることを全力でやる。理由なんて、後付けでいいだろが」
三条桜花は静かに、しかし、力強く拳を握る。
「……そうだよね。逃げてちゃ進めないもんね――これより、現場に急行する!」
その瞳には、確固とした意志が宿っていた。
† † † † † † †
「どうしてそんなに強いの?」
年端もいかぬ少女は、純朴なまなざしで彼を見上げる。
「どうしてそんなに――かなしい目をしてるの?」
その問いに、自嘲するかのような笑みを浮かべる大男。
「……平和のために戦っている身でありながら、平和になったら存在する価値を失ってしまう。僕たちは自分で自分の首を絞める囚人だ。裁かれることなく生き続ける、なんていう裁きを下され、この手で奪ってきた命を悔みながら過ごす、脱殻の勝者」
「じゃあにげようよ。たもんまるが戦わなくたって――――」
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