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† 八の罪――剣戟の果てに(陸)
しおりを挟む行政省に侵入した国防陸軍きってのエリートは、息もつかせぬ内にガードマンを一蹴。執政官が不在であったため、部隊より持ち出した最新の小型地対地ミサイルで執政官官邸をロックした。生天目鼎蔵が利害のためなら人命も平然と犠牲にし得ると知る人質の職員や政府関係者は、絶望ですっかり青ざめている。
しかし、ただ一人、このような状況にも関わらず、むしろ愉しんでいるかのように、苦笑いをこぼす若者がいた。
「それ程の武勇を有しながら、こうも愚かしい凶行に奔るとは。貴殿はこのようなところで死すには惜しい方よ」
「そりゃ覚悟の上さ。日本が生まれ変われるなら本望だよ」
襲撃者は銃を突きつけたまま、自嘲するように微笑む。
「貴殿が死のうと、世界は何も変わりはしない。だが、貴殿がいれば変えられることもある」
「我が武勇は日本のためにこそ! 他に手がないのなら……こうでもしなきゃ救えないのなら、喜んで行使しよう」
その口上を受けて、さも残念そうに美青年は切れ長の目を伏せた。
「そう自らに言い聞かせて、死に急いでいるのであろう? 大陸より帰還するも、戻るべき場を失い、存在理由と生きる希望を見出せず自暴自棄になった挙句、護るべき筈の国に責任転嫁して散り際を飾り付ける気か。本末転倒なのは貴殿のほうと見受けるが?」
ハッとしたように、この男に見入る犯人。
「勘違いなさらぬよう。私は貴殿の行いそのものを非難している訳ではない。ただ、貴殿程の力があれば成功させることもできたがゆえに、憂いでいるだけのこと」
「……君なら勝算があると……?」
「そうさな――貴殿程の味方がいれば、の話になるが」
「お前……何者だ?」
「しがない外交官だ――――」
そう返すと、彼は声を落とし、付け加える。
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「ア、アダマース……!?」
満足気に首肯して、おもむろに歩み寄る青年。
「そこなら政府も手が出せない。これ程の大事をしでかして揉み消せるような社会ではないことぐらい、お分かりであろう? 駆け込み寺も選ばねばな。世間を欺いて生きるとあらば、裏組織以上に適した隠れ蓑は無い。なにせ、とある軍人が戦地に赴く折、自らが敵兵になすであろう所業が耳に入らぬよう、保護していた少女の預け先に選んだのだとかな。確か、三条桜花といったか。アダマース入りすれば、彼女との再会も果たせよう」
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