忠誠の騎士とコクエンの姫

秋桜

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第6話「人助け」

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第6話「人助け」

「おい!! 地代が出せねえってどういうことだ!?」
 怒号の主は、細見だが態度がデカいだけの男だった。ベローチェから見れば、取るに足らない相手だが、フソク村の住人達はすっかり怯えてしまっている。
 恐らく、これは日常茶飯事なのだろう。
「ですから、ここの土地代は、先日、貴方のお仲間にお渡ししたでしょう!?」
「ああ? 俺は受け取ってねえぞ? だから俺にも渡せっつってんだよ」
 そう言いながら、男は近くにあった木桶を蹴り飛ばした。すると、村人は怯え、遂には子供が泣き出してしまった。
「うるせえなあ……って、なあんだ地代ならあるじゃねえか……っ!!」
 男は、泣いている子供の母親に目をつけた。一歩、また一歩と近づいてくる。母親は子供を庇うようにして立っているが、恐怖で脚が竦んでいるだけだった。スカートの中の脚はがくがくと震えている。
 男は近づきながら舐め回すように母親の身体を見た後、不気味に舌なめずりをした。母親の身体は、全体的には細いが、目鼻立ちは整っており、服の上から見ても分かるほどふっくらとした乳房を持っていた。
「離して!! いやあ!!」
 男が母親の手首を掴み、彼女を強引に引き寄せた!
 母親が抵抗すればするほど、男は興奮し、鼻息を荒くしていった。嫌よ嫌よも好きのうち、とでも思っているのだろうか?

 ここまでベローチェたちは、現場に向かうこともなく、ただ窓から様子を伺っているだけだったが、そろそろ助けに入る頃合いだ。
 というのも、ベローチェの傍に控えるスカビオサから微かに殺気を感じたからだ。
「スカビオサ、少しは抑えろ」
「ベローチェ様」
「いい、皆まで言うな」
 ベローチェは唇に指を添え、村を助ける口実を考えていた。助ける理由などいらないと物語ではよく聞くが、生憎、ベローチェはそういう性分ではなかった。
 男の態度を見れば、フソク村の住人達が日々、どのように虐げられているかは一目瞭然だ。毎度来ては、声を荒げ、地代などと適当に理由付けて、物資を略奪しているのだろう。
 しかし、実のところベローチェとは何ら関係がない。むしろ、フソク村から見れば、ベローチェは客人だ。巻き込みたくないと思うのが、当然であろう。
 フソク村の住人達は、理不尽に行われる略奪に辟易し、すっかり抵抗する意欲を無くしている。だからこそ、女性の悲鳴が木霊するのだ。
 では、ここでスカビオサを投入し、目の前で理不尽に虐げる男の首を刎ねたらどうなるだろうか?
 恐らく、唐突に訪れた殺戮に恐怖で震え上がるだろう。村人はベローチェたちを恐れ、助けに入ったはずの自分たちが今度は、男の立場に置かれることになるだろう。
 故に、助ける口実は、双方が納得するものでなければならない。

 ベローチェはスカビオサを連れて、広場に躍り出た。
「そこまでだ」
「あん……?」
 有無を言わせぬ声色にベローチェを見た男は、目が虚ろになり、ぼうっと立っていた。スカビオサは、早々と母親を救出し、村人達の元へ返してやった。
 ベローチェは、男の目を見ながら、音を空気に乗せて、彼の脳内へ直接語りかけた。
「貴様は、誰だ」
 すると、男の身体がぶるりと震え、彼は力なく答えた。
「俺は……ゾク」
「ゾクよ、貴様は他に仲間がいるな?」
「はい……」
「案内しろ」
「仰せの、ままに……」
 ベローチェの命令を聞いたゾクは、急に村人達へ背を向け、歩き出した。一連の流れを見ていた村人達は、不気味で仕方がなかった。ベローチェがゾクに語りかけていた時、村人からしたら彼女もまた無言で立っているだけにしか見えなかったからだ!
「あの……」
 村長と思わしき人がベローチェへ声をかけようとするが、彼女は魔眼の行使に集中している為、代わりにスカビオサが一礼を持って応える。
「すぐに戻ります」
 村人はそれ以上追求はせず、彼らを見送った。
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