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第一章(約11万字)
第64話:8年前
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◇
——八年前。
魔族たちが眠る深夜二時。
この日は、雪が降る極寒の夜だった。
収容施設を抜け出したラッシュは、冷たい空気が肌を刺す中、アリアの手を引きながら夜闇に紛れて海を目指していた。
「ラッシュ、どこ行くの?」
「後でゆっくり話す。俺を信じてついてきてくれ」
「ふーん。わかった」
ラッシュは人間大陸を目指している。
魔族社会での扱いに嫌気が差したラッシュは、人間大陸への亡命を企てたのだ。
亡命とは言っても、どこかの国に保護を求めるとかではない。
十二歳の人間と何の繋がりもない少年ができる範疇を超えているからだ。
ラッシュの作戦は、単に魔大陸の国境を越えることで人間大陸へ逃げ込むこと。
そんなことができるのか? というところだが、理論上は可能。
魔大陸と人間大陸との間に人の行き来はないのだが、実は海峡で隔たれたそれぞれの大陸との間の距離は、約三・八キロメートルほどしかない。
さらに、この海峡は冬の寒い時期には凍ってしまうため、歩いて渡ることができる。
リスクを跳ね上げかねないアリアを連れての脱出を計画したのは、ラッシュが彼女に対して特別な感情を抱いていたからに他ならない。
本来ならアリアには事前に伝えておくべきだったが、秘密を持たせることがアリアの負担になると考えたラッシュは今日この時まで黙っていた。
「魔族に見つからないよう、今夜中になるべく遠くまで移動する」
「見た目ですぐ見つからない?」
魔族と人間は見た目で区別できる。
特徴的な目や角の有無、肌の色からしてラッシュたちは普通の魔族とは違う。
収容施設の抜け出しは御法度であり、すぐ二人の捜索が始まることを考えると、一般の魔族に紛れて遠くへ移動するなど普通はできない。
「森を突っ切る」
「も、森には魔物が……」
「俺たちなら大丈夫だ」
「む、むちゃくちゃだよ……」
魔族に見つかり連れ戻されることなく無事に人間大陸に逹するには、森の中を延々と移動し、数百キロ進んで海峡に辿り着くしかない。
食料は魔物を倒して調達し、雪解け水を飲んで喉の渇きを凌ぐしかない過酷な環境。
だが、ラッシュには気力さえ保てればどうにかなるという自信があった。
——八年前。
魔族たちが眠る深夜二時。
この日は、雪が降る極寒の夜だった。
収容施設を抜け出したラッシュは、冷たい空気が肌を刺す中、アリアの手を引きながら夜闇に紛れて海を目指していた。
「ラッシュ、どこ行くの?」
「後でゆっくり話す。俺を信じてついてきてくれ」
「ふーん。わかった」
ラッシュは人間大陸を目指している。
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亡命とは言っても、どこかの国に保護を求めるとかではない。
十二歳の人間と何の繋がりもない少年ができる範疇を超えているからだ。
ラッシュの作戦は、単に魔大陸の国境を越えることで人間大陸へ逃げ込むこと。
そんなことができるのか? というところだが、理論上は可能。
魔大陸と人間大陸との間に人の行き来はないのだが、実は海峡で隔たれたそれぞれの大陸との間の距離は、約三・八キロメートルほどしかない。
さらに、この海峡は冬の寒い時期には凍ってしまうため、歩いて渡ることができる。
リスクを跳ね上げかねないアリアを連れての脱出を計画したのは、ラッシュが彼女に対して特別な感情を抱いていたからに他ならない。
本来ならアリアには事前に伝えておくべきだったが、秘密を持たせることがアリアの負担になると考えたラッシュは今日この時まで黙っていた。
「魔族に見つからないよう、今夜中になるべく遠くまで移動する」
「見た目ですぐ見つからない?」
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「俺たちなら大丈夫だ」
「む、むちゃくちゃだよ……」
魔族に見つかり連れ戻されることなく無事に人間大陸に逹するには、森の中を延々と移動し、数百キロ進んで海峡に辿り着くしかない。
食料は魔物を倒して調達し、雪解け水を飲んで喉の渇きを凌ぐしかない過酷な環境。
だが、ラッシュには気力さえ保てればどうにかなるという自信があった。
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