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真・らぶ・TRY・あんぐる 四十三
しおりを挟むもちろんそれは、愛の告白ではない。
いや、愛の告白は愛の告白なのだが、それは留美に対してのものではない。
留美に自分の本当の気持ちを、つまり自分が好きなのは由香だと告白しようというのだった。
留美は確かにいいコである。 少々常軌を逸しているところがあるとはいえ、不快であると決め付けられはしない。
自分も彼女のことが前よりもっと好きになっているのは事実だ。 だがそのきっかけは例の媚薬であるとしか考えられないために今まで数々の複雑な思いを抱えてきた。
だが、これ以上自分の気持ちを隠して交際を続けるのは彼女に対しても、そして由香に対しても失礼過ぎるほど失礼である、とようやく佑は悟ったのだ。
無論のこと
「留美の気持ちは媚薬によるものだ」
などとそんなことは到底言えない。
言えるわけはない。 それは失礼を通り越して『残酷』というものだからだ。
だから
(それだけはひた隠しにしよう)
佑はそう思っていた。
当たり前の話だが、佑は由香の気持ちを知らない。
由香本人も持て余していた
「留美が好き」
という想いをまるで知らない。
留美はそんな大事な事を吹聴して歩くような悪女ではないからである。
「ごめん」
絨毯に額をぶつけんばかりの勢いで頭を下げる。
「僕は」
迷いを断ちきるように軽く頭を振り
「僕は留美ちゃんよりも由香ちゃんの方が好きなんだ。 もうこれ以上自分の心に嘘はつけないし、これ以上君の好意に甘えているわけにもいかないよ」
今やっと表に現れた佑の悲痛な心の叫びだった。
「でも留美ちゃん、その事が君を悲しませたなら、いや悲しませたに決まってるけど」
今度はブンブンと頭を振る。
「僕をぶっても蹴ってもいい」
留美にはそんなことはできまいし、たとえ無理にしたとしてもダメージは知れている。 そう気づいた佑は
「な、なんなら留美ちゃんのご両親、そ、そして」
自分が今から言い出すことの恐ろしさについつい声が震える。
「ウチの母さんに言いつけてくれてもいいよ……」
そこのところがよくわからないので眉をひそめ怪訝な顔をする留美。 彼女にとって佑美は未だに『素敵な優しいお母さま』なのだ。 百戦錬磨の水瀬幕僚長ですら彼女にビビっていたことを露知らぬから仕方ない。
「ただ……由香ちゃんと仲違いをするなんてことはしないで欲しいんだ。 悪いのは僕なんだから」
そこまで聞くと、押し黙っていた彼女は唐突に口を開いた。
「佑クンには何をしてもいいんだ?」
「う、うん」
佑の返事を聞いて、留美は行動を起こした。
即ち、佑に対してキスをしたのである。 彼の首の後ろに両手をかけ、引き寄せて深く、深く。
「んっ!??? んんんっ??」
佑がじたばたしていたのにも構わずキスを続けていた留美はしばらくしてから顔を離し、にっこりと微笑みながら
「あたし、知ってたよ?」
「る、留美ちゃん……知ってたって……」
「ん、佑クンのユカちゃんへの気持ち、知ってた」
佑は狼狽したという言葉では表現しきれないほど狼狽していた。
「どどどどどうして」
いつもより更に一段悪戯っぽい表情になった留美は
「あのね、佑クン……あれだけね、露骨にね、ユカちゃんにね、秋波をね、おくってればね、誰でもね、気づいちゃうとね、思うんだけど?」
「いや、それはその……」
「佑クンあたしとデートしてるときでも、ユカちゃんの顔ばかり見てたじゃない?」
「え?」
佑本人はまるで気がついていなかった。 完全に無意識だったのだ。 そして実は由香も気づいていないのだった。
「でも」
留美はその可愛らしい顔に満面の笑みをたたえて佑に告げる。
「あたしはそれでも佑クンが好き」
「えっ?」
「それに、あたしユカちゃんも好きだもの。 好きな人同士が好きあっててもいいじゃない」
夢にも思っていないことを言われ、佑は混乱した。
「えっ? で、でも」
「まだ納得できない?」
「う~」
唸って頭を抱える佑に、留美はこう尋ねた。
「あのね佑クン、尊いものってのは多い方がいいと思う?」
「そ、れは多い方が少ないよりもいいと思うけど。 だけど」
「愛は尊くないの?」
「え?」
「愛は尊くないって思う?」
「そ、そりゃ尊いと思うけど」
「じゃあ、愛だって多くあって問題はないんじゃない? ううん」
軽くかぶりを振って続ける。
「多い方が世のため人のためよね」
と可愛らしく首をかしげる。
「愛が多い方が素晴らしい世の中になるんじゃないかな?」
スゴイ理屈だというか、とんでもない理屈だというか……まことにもって留美の本領発揮というところだ。
もちろんこれは一時しのぎでもウソでも方便でもない。
留美は本気でそう考えているのだ。
ただ、いくらなんでも無制限にというのではない。
彼女にとっては、佑も由香も、本当に好きで好きでたまらない相手だからなのである。
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