上 下
34 / 52

真・らぶ・TRY・あんぐる 三十一

しおりを挟む

さて、時間は少しさかのぼり、留美と由香をかばってケガをした佑が医務室に運ばれて行ったその直後。

育嶋家の電話が鳴った。
素早く佑美が電話を受ける。
「はい、育嶋でございます」
こういう場合には例の『でしてよ』という言い回しは使わないらしい。
「え? はい、……はい……で、容態の方は……はあ、全治一週間。 はい……はい、わかりました。 失礼致します」
冴英が興味津々といった感じで
「ね、ママ? どこから?」
一般的な母親なら娘をたしなめるかも知れないが、そうでない佑美は冴英とそれから英介に向かって
「学園高等部の医務室からでしてよ。 佑が大ケガをしたそうよ。 なんでも全治一週間、自宅療養も可能だそうでしてよ?」
そう言って目を伏せる。
「どうも最近、妙だ、と思っていたけれど、ぼーっと歩いていて車にでもぶつかったのかしらね?」
英介の行動は早かった。
佑美の言った『大ケガ』という単語を聞いた途端、佑を迎えに行く準備をしていたのだ。
ほとんど消防隊の出動もかくや、と思わせるその早さは、彼も決して息子をないがしろにしているのではない、と伺わせる。
「それじゃ行ってきますね、佑美さん」
そう言って、小学生の娘の前にもかかわらず妻にキスをする。
当然、ディープなやつではないが。
佑美は軽く笑って見送った。
それを見ながら
「いいなーママとパパ、仲良くて……あたしにもパパみたいな相手、見つかるかなあ?」
佑美はニコ、と微笑み
「当たり前でしてよ? 何ていっても冴英ちゃんはママの、このあたくしの娘なのですからね?」
母の言葉に、軽くほお紅をつけたような顔で
「えへへ……」
と照れ笑いすると
「でも、お兄ちゃん大丈夫なの?」
と今更ながらの疑問を少し不安そうに口にした。
こういった時でも、『両親の仲睦まじさ』や『自分も母のように、ステキな相手と出逢えるか?』の次にやっと『兄の安否』が来るのは、彼女の心の中で佑がどういう位置にあるか、を象徴的に示しているといえよう。
「なにも心配する事はなくってよ?」
少しは心配してやって欲しいものである。
「全治一週間なんてちょっとしたケガでしてよ」
娘を安心させる方便とはいえ『そりゃあんまりな!』言い草であった。
佑だからこそ、その程度で何とか済んだのである。
しかし、今の佑の状態を目の当たりにすれば、冴英はもとより佑美と英介だって驚くだろう、と思われる。


多分。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...