上 下
16 / 52

真・らぶ・TRY・あんぐる 十五

しおりを挟む
次の日、留美は佑のクラスを訪ねたが、ご承知の通り彼は欠席していた。
「え? 今日佑クンはお休みなの?」
A組の委員長が緊張しながら答える。
「え、ええ……そうです」
そのこたえを聞いて、留美は少し眉をしかめた。
が、軽く会釈をして
「教えてくれてありがとう」
立ち去ろうとした留美を、一瞬遅れて委員長が呼び止める。
「あ、あの、水瀬さん……」
留美は婉然と振り返って尋ね返した。
「何かしら?」
「い、いえ……何でも……」
佑や由香と一緒のときとは態度がえらく違う留美の、気品というか気迫というか……に気圧されそれ以上何も言えない委員長であった。

その留美の態度というのは、実のところ防御方法であり、また逆に留美のサービス精神の表われでもある。
このため、大部分の男子は留美を『理想の美少女』と思っているのである。
……その『実態』は如何なるものか、読者諸賢には見当がついていると思う。

それはさておき。
留美は無論、佑に会いに来たのだが、休みだと聞いて予定を変えた。
というより予定を変えざるを得なかった。
今日、佑を自宅に連れて行き、両親に紹介しようと思っていたのだが肝腎の彼が休みではそういうわけにもいかない。
というわけで、留美は佑のお見舞いに一人で行くことにした。
由香も一緒に行ったのでは、さすがに話がややこしくなるだろうからだ。

そして、放課後。
留美は、佑の家を訪れた。 学校から直接なので制服のままだ。
玄関のチャイムを鳴らすと
「はーい?」
という声とともにドアを開けてその美女が現れたとき、留美は自分がファッション雑誌の中に入り込んでしまったかと思った。
留美の母親もかなりの美人なのだが、その母より1ランク上の美しさだといってよかったのだ。
ショートカットにした髪はいわゆる『烏の濡羽色からすのぬればいろ』というやつで艶があり、絹糸のように細く柔らかそうだった。 眉は整っていて、もし描いたものだとするならかなりの芸術的腕前だろう。 瞳は澄んでいて、宝石を思わせた。 鼻筋も通っていてすっきりと高い。 唇の形もよく、口紅ではありえないしっとりとした色が忘れられない印象を与える。
プロポーションも素晴らしく、ファッションモデル、それもスーパーモデルだと名乗ったとしてもどこからも文句は出ないに違いない。 割とシンプルだが生成りの白いブラウスとシックな黒のスエード地のパンツがよく似合っていた。 後で聞いたところによると、フェイクファーならぬフェイクスエードだということだったが。
化粧っ気がないのに女らしさは抜群で、しかも佑の母親であるからにはどう考えてもアラフォー、つまり40代近辺なはずなのにとても子供がいるような年格好に見えないのだ。
面差しが少しばかり佑と似ているその女性に、留美はなんとなくどぎまぎしていた。
彼女は留美をしげしげと見て、ふと何かに気づいたように
「あら? あなた……昨日すれちがったわね?」
すれ違っただけの、一面識もない相手のことをよく覚えているものである。 それだけ留美が美少女だということかもしれない。
「あ、えーと……すみません、覚えてなくて……」
留美の方は、佑のことを考えていたために周りに注意を払う余裕はなかった。 というか、すれ違った相手は他にもいるので、いちいち記憶していない。
「よろしいのよ。 あたくしの記憶力が衰えてないのを確認したかっただけですもの」
そう言って麗しく微笑むその美貌に、留美はまた見惚みとれてしまった。
(き……綺麗な人……この人が佑クンのお母さん?)
玄関先を見る限り自分以外のお客が来ている様子もなく、更に言うならお客が別の来客を迎えに出ることはあまりない筈である。
それに、チャイムを押す前に確認した表札によれば『育嶋英介・佑美ゆうみ・佑・冴英さえ』と連名になっていた。
そういうわけで、彼女が佑の母・佑美であることは推測できたのだ。

「それで我が家に何の御用?」
優しく尋ねられ、留美は少し緊張しながら
「あ、その……あたし佑クンとお付き合いさせていただいてる水瀬留美と言いまして」
「佑と?」
佑美は目を丸くした。 そんなふうに驚くのは、彼女としてはあまりない事だった。
「それって何かの間違いじゃなくって?」
「え、どうしてですか? こちら育嶋さんのお宅ですよね?」
「ええ、そうだけど……」
小声で続けて
(あの子にこんな素敵な子と付き合える甲斐性があるとは思えないのだけど)
あまりにも失礼だが、言ったのは母親である事だし、普段が普段なので言われても仕方がないと言う感じがする。
幸運にも留美にその小声の部分は聞こえていなかった。 誰にとっての幸運かはこの際言及しない。
「昨日もお邪魔しましたし……間違えてないと思うんですけど」
「え、昨日?」
「はい、お留守でしたけど」
「ああ! それじゃやっぱり昨日すれちがったのはあなたね?」
「はあ、あの、そうかもしれません」
「で、今日は佑のお見舞いに来てくれたのかしら?」
留美が答えようとしたとき佑美は慌てたように
「あらごめんなさいね? こんな可愛いお客さんを玄関口で待たせるなんて……どうぞ入ってちょうだいな、汚いところですけどね」
そう言いながら、留美の手を取って家に上げた。 そして、佑を呼ぶ。
「ちょっと佑くん、いらっしゃい! 可愛らしいお客さんよ!」


その声に、佑よりも先に彼の妹の冴英、そして父の英介が反応した。
……これはつまり、彼の機敏さが劣っている……というよりは、寝込んでいたために支度をする時間がかかったからである。
しかし、寝込んでいる息子を一階から呼びつけにする母親というのも困ったものだ。
病気ではなく知恵熱なので致し方ないかもしれないが。

そして、
佑が身づくろいをして二階から降りてきたときには、父母と妹は留美とすっかり打ち解けて、仲良くなっていた。
やはり彼の機敏さにも少しばかり問題があるかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...