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真・らぶ・TRY・あんぐる 十五
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次の日、留美は佑のクラスを訪ねたが、ご承知の通り彼は欠席していた。
「え? 今日佑クンはお休みなの?」
A組の委員長が緊張しながら答える。
「え、ええ……そうです」
そのこたえを聞いて、留美は少し眉をしかめた。
が、軽く会釈をして
「教えてくれてありがとう」
立ち去ろうとした留美を、一瞬遅れて委員長が呼び止める。
「あ、あの、水瀬さん……」
留美は婉然と振り返って尋ね返した。
「何かしら?」
「い、いえ……何でも……」
佑や由香と一緒のときとは態度がえらく違う留美の、気品というか気迫というか……に気圧されそれ以上何も言えない委員長であった。
その留美の態度というのは、実のところ防御方法であり、また逆に留美のサービス精神の表われでもある。
このため、大部分の男子は留美を『理想の美少女』と思っているのである。
……その『実態』は如何なるものか、読者諸賢には見当がついていると思う。
それはさておき。
留美は無論、佑に会いに来たのだが、休みだと聞いて予定を変えた。
というより予定を変えざるを得なかった。
今日、佑を自宅に連れて行き、両親に紹介しようと思っていたのだが肝腎の彼が休みではそういうわけにもいかない。
というわけで、留美は佑のお見舞いに一人で行くことにした。
由香も一緒に行ったのでは、さすがに話がややこしくなるだろうからだ。
そして、放課後。
留美は、佑の家を訪れた。 学校から直接なので制服のままだ。
玄関のチャイムを鳴らすと
「はーい?」
という声とともにドアを開けてその美女が現れたとき、留美は自分がファッション雑誌の中に入り込んでしまったかと思った。
留美の母親もかなりの美人なのだが、その母より1ランク上の美しさだといってよかったのだ。
ショートカットにした髪はいわゆる『烏の濡羽色』というやつで艶があり、絹糸のように細く柔らかそうだった。 眉は整っていて、もし描いたものだとするならかなりの芸術的腕前だろう。 瞳は澄んでいて、宝石を思わせた。 鼻筋も通っていてすっきりと高い。 唇の形もよく、口紅ではありえないしっとりとした色が忘れられない印象を与える。
プロポーションも素晴らしく、ファッションモデル、それもスーパーモデルだと名乗ったとしてもどこからも文句は出ないに違いない。 割とシンプルだが生成りの白いブラウスとシックな黒のスエード地のパンツがよく似合っていた。 後で聞いたところによると、フェイクファーならぬフェイクスエードだということだったが。
化粧っ気がないのに女らしさは抜群で、しかも佑の母親であるからにはどう考えてもアラフォー、つまり40代近辺なはずなのにとても子供がいるような年格好に見えないのだ。
面差しが少しばかり佑と似ているその女性に、留美はなんとなくどぎまぎしていた。
彼女は留美をしげしげと見て、ふと何かに気づいたように
「あら? あなた……昨日すれちがったわね?」
すれ違っただけの、一面識もない相手のことをよく覚えているものである。 それだけ留美が美少女だということかもしれない。
「あ、えーと……すみません、覚えてなくて……」
留美の方は、佑のことを考えていたために周りに注意を払う余裕はなかった。 というか、すれ違った相手は他にもいるので、いちいち記憶していない。
「よろしいのよ。 あたくしの記憶力が衰えてないのを確認したかっただけですもの」
そう言って麗しく微笑むその美貌に、留美はまた見惚れてしまった。
(き……綺麗な人……この人が佑クンのお母さん?)
玄関先を見る限り自分以外のお客が来ている様子もなく、更に言うならお客が別の来客を迎えに出ることはあまりない筈である。
それに、チャイムを押す前に確認した表札によれば『育嶋英介・佑美・佑・冴英』と連名になっていた。
そういうわけで、彼女が佑の母・佑美であることは推測できたのだ。
「それで我が家に何の御用?」
優しく尋ねられ、留美は少し緊張しながら
「あ、その……あたし佑クンとお付き合いさせていただいてる水瀬留美と言いまして」
「佑と?」
佑美は目を丸くした。 そんなふうに驚くのは、彼女としてはあまりない事だった。
「それって何かの間違いじゃなくって?」
「え、どうしてですか? こちら育嶋さんのお宅ですよね?」
「ええ、そうだけど……」
小声で続けて
(あの子にこんな素敵な子と付き合える甲斐性があるとは思えないのだけど)
あまりにも失礼だが、言ったのは母親である事だし、普段が普段なので言われても仕方がないと言う感じがする。
幸運にも留美にその小声の部分は聞こえていなかった。 誰にとっての幸運かはこの際言及しない。
「昨日もお邪魔しましたし……間違えてないと思うんですけど」
「え、昨日?」
「はい、お留守でしたけど」
「ああ! それじゃやっぱり昨日すれちがったのはあなたね?」
「はあ、あの、そうかもしれません」
「で、今日は佑のお見舞いに来てくれたのかしら?」
留美が答えようとしたとき佑美は慌てたように
「あらごめんなさいね? こんな可愛いお客さんを玄関口で待たせるなんて……どうぞ入ってちょうだいな、汚いところですけどね」
そう言いながら、留美の手を取って家に上げた。 そして、佑を呼ぶ。
「ちょっと佑くん、いらっしゃい! 可愛らしいお客さんよ!」
その声に、佑よりも先に彼の妹の冴英、そして父の英介が反応した。
……これはつまり、彼の機敏さが劣っている……というよりは、寝込んでいたために支度をする時間がかかったからである。
しかし、寝込んでいる息子を一階から呼びつけにする母親というのも困ったものだ。
病気ではなく知恵熱なので致し方ないかもしれないが。
そして、
佑が身づくろいをして二階から降りてきたときには、父母と妹は留美とすっかり打ち解けて、仲良くなっていた。
やはり彼の機敏さにも少しばかり問題があるかもしれない。
「え? 今日佑クンはお休みなの?」
A組の委員長が緊張しながら答える。
「え、ええ……そうです」
そのこたえを聞いて、留美は少し眉をしかめた。
が、軽く会釈をして
「教えてくれてありがとう」
立ち去ろうとした留美を、一瞬遅れて委員長が呼び止める。
「あ、あの、水瀬さん……」
留美は婉然と振り返って尋ね返した。
「何かしら?」
「い、いえ……何でも……」
佑や由香と一緒のときとは態度がえらく違う留美の、気品というか気迫というか……に気圧されそれ以上何も言えない委員長であった。
その留美の態度というのは、実のところ防御方法であり、また逆に留美のサービス精神の表われでもある。
このため、大部分の男子は留美を『理想の美少女』と思っているのである。
……その『実態』は如何なるものか、読者諸賢には見当がついていると思う。
それはさておき。
留美は無論、佑に会いに来たのだが、休みだと聞いて予定を変えた。
というより予定を変えざるを得なかった。
今日、佑を自宅に連れて行き、両親に紹介しようと思っていたのだが肝腎の彼が休みではそういうわけにもいかない。
というわけで、留美は佑のお見舞いに一人で行くことにした。
由香も一緒に行ったのでは、さすがに話がややこしくなるだろうからだ。
そして、放課後。
留美は、佑の家を訪れた。 学校から直接なので制服のままだ。
玄関のチャイムを鳴らすと
「はーい?」
という声とともにドアを開けてその美女が現れたとき、留美は自分がファッション雑誌の中に入り込んでしまったかと思った。
留美の母親もかなりの美人なのだが、その母より1ランク上の美しさだといってよかったのだ。
ショートカットにした髪はいわゆる『烏の濡羽色』というやつで艶があり、絹糸のように細く柔らかそうだった。 眉は整っていて、もし描いたものだとするならかなりの芸術的腕前だろう。 瞳は澄んでいて、宝石を思わせた。 鼻筋も通っていてすっきりと高い。 唇の形もよく、口紅ではありえないしっとりとした色が忘れられない印象を与える。
プロポーションも素晴らしく、ファッションモデル、それもスーパーモデルだと名乗ったとしてもどこからも文句は出ないに違いない。 割とシンプルだが生成りの白いブラウスとシックな黒のスエード地のパンツがよく似合っていた。 後で聞いたところによると、フェイクファーならぬフェイクスエードだということだったが。
化粧っ気がないのに女らしさは抜群で、しかも佑の母親であるからにはどう考えてもアラフォー、つまり40代近辺なはずなのにとても子供がいるような年格好に見えないのだ。
面差しが少しばかり佑と似ているその女性に、留美はなんとなくどぎまぎしていた。
彼女は留美をしげしげと見て、ふと何かに気づいたように
「あら? あなた……昨日すれちがったわね?」
すれ違っただけの、一面識もない相手のことをよく覚えているものである。 それだけ留美が美少女だということかもしれない。
「あ、えーと……すみません、覚えてなくて……」
留美の方は、佑のことを考えていたために周りに注意を払う余裕はなかった。 というか、すれ違った相手は他にもいるので、いちいち記憶していない。
「よろしいのよ。 あたくしの記憶力が衰えてないのを確認したかっただけですもの」
そう言って麗しく微笑むその美貌に、留美はまた見惚れてしまった。
(き……綺麗な人……この人が佑クンのお母さん?)
玄関先を見る限り自分以外のお客が来ている様子もなく、更に言うならお客が別の来客を迎えに出ることはあまりない筈である。
それに、チャイムを押す前に確認した表札によれば『育嶋英介・佑美・佑・冴英』と連名になっていた。
そういうわけで、彼女が佑の母・佑美であることは推測できたのだ。
「それで我が家に何の御用?」
優しく尋ねられ、留美は少し緊張しながら
「あ、その……あたし佑クンとお付き合いさせていただいてる水瀬留美と言いまして」
「佑と?」
佑美は目を丸くした。 そんなふうに驚くのは、彼女としてはあまりない事だった。
「それって何かの間違いじゃなくって?」
「え、どうしてですか? こちら育嶋さんのお宅ですよね?」
「ええ、そうだけど……」
小声で続けて
(あの子にこんな素敵な子と付き合える甲斐性があるとは思えないのだけど)
あまりにも失礼だが、言ったのは母親である事だし、普段が普段なので言われても仕方がないと言う感じがする。
幸運にも留美にその小声の部分は聞こえていなかった。 誰にとっての幸運かはこの際言及しない。
「昨日もお邪魔しましたし……間違えてないと思うんですけど」
「え、昨日?」
「はい、お留守でしたけど」
「ああ! それじゃやっぱり昨日すれちがったのはあなたね?」
「はあ、あの、そうかもしれません」
「で、今日は佑のお見舞いに来てくれたのかしら?」
留美が答えようとしたとき佑美は慌てたように
「あらごめんなさいね? こんな可愛いお客さんを玄関口で待たせるなんて……どうぞ入ってちょうだいな、汚いところですけどね」
そう言いながら、留美の手を取って家に上げた。 そして、佑を呼ぶ。
「ちょっと佑くん、いらっしゃい! 可愛らしいお客さんよ!」
その声に、佑よりも先に彼の妹の冴英、そして父の英介が反応した。
……これはつまり、彼の機敏さが劣っている……というよりは、寝込んでいたために支度をする時間がかかったからである。
しかし、寝込んでいる息子を一階から呼びつけにする母親というのも困ったものだ。
病気ではなく知恵熱なので致し方ないかもしれないが。
そして、
佑が身づくろいをして二階から降りてきたときには、父母と妹は留美とすっかり打ち解けて、仲良くなっていた。
やはり彼の機敏さにも少しばかり問題があるかもしれない。
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