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真・らぶ・TRY・あんぐる 二
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しかし、そのとき『あること』が頭をよぎり、佑は青ざめた。
といっても、もともと色白なのでほぼ目立たず、本人以外だれも気づかなかったが。
顔を上げつつ留美はつづけた。 ……より正確には由香による口移しが続いた。
(知っててくれたんですか?)
「知っててくれたんだ……。 うれしい!」
だんだんと緊張のほぐれてきた留美はいつもの調子を取り戻しはじめ、ホッとして留美の背後からの口移しを中止した由香なのだった。
それ以上続けても意味がないから当然である。
「……で、有名ってどんなふうに?」
「え」
次から次へとたたみ込まれる感じで、今や完全に受け身になった佑。 とてもそんな質問に答えられるものではない。
もともと受け身で生きてきた彼であるからなおさらのこと。
「ねえ、どんなふうに?」
佑の当惑顔も、ましてや背後の由香のあきれ顔も意に介さず、ニコニコほほえみながらたずねる留美。
「いや……あの……その……そんなことより、なんの御用件でしょう?」
やっと話を本筋にもどすべくそれだけを言うと、留美は改まって
「あ、ごめんなさい」
ぺこん、と可愛らしく頭を下げ、そして向き直る。
「育嶋佑クン、……その……あたし」
んくっ、と生唾を飲み込む仕草をして続ける。
「あなたが好きなんです。 お付き合いして下さい」
「え」
一瞬の沈黙ののち、教室は騒然となった。
教室のほぼ全員が聞き耳をたてていたのである。
教師がいなくて幸いだった。 休み時間だから当然とはいえ。
「あ……あの……水瀨さん……」
「『水瀨さん』はやめて」
そして上目づかいに
「『留美』って呼んでくれる? 佑クン?」
とおねだりするのだった。
だが、佑の方はそう簡単に『留美』と呼ぶわけにはいかない。
なにせ、相手は校内人気ベスト二〇に入ろうかという美少女だ。
あまつさえ、ここは自分の教室で級友たちの目の前なのである。 なかなかその告白に応えられるものではない。
ましてや、もともと気の弱い彼にしてみればなおさらだ。
しかも、ナイショにしていたが実を言えば、佑は、彼に告白した留美ではなく、付き添いである由香の方に想いを寄せていたのだ。
いや、現在進行形で想いを寄せているのである。
さあ、困った。
何せ、目の前に可愛い女の子が二人で、しかも、そのうち一人は自分に愛を告白した校内でもかなりの美人。
かたや、その友人にして佑が想いを募らせている相手。
板挟みもいいところである。
断って突き放せばいい、と考える人は育嶋佑という男子のことがよく解っていない。
それに、『ある事情』がすげなく断り突き放すことが出来ない状態に佑を追い込んでいたのである。
(じ、地獄だ……)
と佑は思っていた。
しかし、それは間違っていた。
彼にとっての、今以上の『地獄』が待っていることを知らなかったのだ。
当たり前と言えば当たり前である。
予知能力がない、それどころかインスピレーション関係がダメダメな佑なのだ。
分かったらそっちの方がびっくりである。
「ね? 留美って呼んで」
「は、はい、留美さん……」
「留美ちゃん」
「は?」
「留美ちゃんって呼んで。 さん付けなんて堅苦しいでしょ?」
口元に笑みを浮かべたいたずらっぽそうな表情で留美が要望する。
「じ、じゃあ……留美ちゃん……」
「なあに?」
「そ、その……つまり……」
佑は答えに窮し、その場から消えるか逃げるかしたいと真剣に考え始めた。
と、そのとき神の助けか悪魔の慈悲か、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。
由香がハッとして
「あ、戻らなきゃ! 先生に叱られちゃうわよ。 留美、先に行くわよ?」
と言うと、留美は振り返り
「あン、ユカちゃん、待ってよ」
そしてまた佑に向き直った。
「あ、次の授業始まるから、また後で。 ね?」
にこ、と微笑んでそう言った彼女は、由香を追って小走りに自分の教室に戻っていった。
……呆然としている佑、及び彼のクラスメートをおきざりにして。
間の悪いことに、佑のクラスの次の授業は数学だった。
あまつさえ抜き打ちテスト。
採点後、数学教師の近藤先生は他のクラスと比べてこのクラスだけ平均点があまりに悪いのに頭をかかえた。
が、この際、近藤先生の苦悩に言及している場合ではない。
そして、昼休み。
佑のクラスメイトの間では、水瀬留美が育嶋佑に告った、と言う話題で持ち切りだった。
しかしどうひいき目に見ても、『佑が留美に』ならわかるが、『留美が佑に』というのはいくら目の前で見たとはいえ
「水瀨さんが育嶋に告白るなんて……まるっきり信じられない!」
という意見が大多数であった。
無理もない。
佑は影の薄い、これといった特徴のない生徒である。
少なくとも、あまり親しくない知り合い……といったレベルのクラスメイトたちにはそういう印象であった。
クラスメイトですらそうなのだから、世間一般のイメージは推して知るべし。
この事件があるまでは。
そんな彼に校内人気ベスト二〇以内の美少女が告白したのだから、それはもう驚天動地が青天の霹靂を引きつれて、優曇華の花を見にきたような騒ぎだったのである。
といっても、もともと色白なのでほぼ目立たず、本人以外だれも気づかなかったが。
顔を上げつつ留美はつづけた。 ……より正確には由香による口移しが続いた。
(知っててくれたんですか?)
「知っててくれたんだ……。 うれしい!」
だんだんと緊張のほぐれてきた留美はいつもの調子を取り戻しはじめ、ホッとして留美の背後からの口移しを中止した由香なのだった。
それ以上続けても意味がないから当然である。
「……で、有名ってどんなふうに?」
「え」
次から次へとたたみ込まれる感じで、今や完全に受け身になった佑。 とてもそんな質問に答えられるものではない。
もともと受け身で生きてきた彼であるからなおさらのこと。
「ねえ、どんなふうに?」
佑の当惑顔も、ましてや背後の由香のあきれ顔も意に介さず、ニコニコほほえみながらたずねる留美。
「いや……あの……その……そんなことより、なんの御用件でしょう?」
やっと話を本筋にもどすべくそれだけを言うと、留美は改まって
「あ、ごめんなさい」
ぺこん、と可愛らしく頭を下げ、そして向き直る。
「育嶋佑クン、……その……あたし」
んくっ、と生唾を飲み込む仕草をして続ける。
「あなたが好きなんです。 お付き合いして下さい」
「え」
一瞬の沈黙ののち、教室は騒然となった。
教室のほぼ全員が聞き耳をたてていたのである。
教師がいなくて幸いだった。 休み時間だから当然とはいえ。
「あ……あの……水瀨さん……」
「『水瀨さん』はやめて」
そして上目づかいに
「『留美』って呼んでくれる? 佑クン?」
とおねだりするのだった。
だが、佑の方はそう簡単に『留美』と呼ぶわけにはいかない。
なにせ、相手は校内人気ベスト二〇に入ろうかという美少女だ。
あまつさえ、ここは自分の教室で級友たちの目の前なのである。 なかなかその告白に応えられるものではない。
ましてや、もともと気の弱い彼にしてみればなおさらだ。
しかも、ナイショにしていたが実を言えば、佑は、彼に告白した留美ではなく、付き添いである由香の方に想いを寄せていたのだ。
いや、現在進行形で想いを寄せているのである。
さあ、困った。
何せ、目の前に可愛い女の子が二人で、しかも、そのうち一人は自分に愛を告白した校内でもかなりの美人。
かたや、その友人にして佑が想いを募らせている相手。
板挟みもいいところである。
断って突き放せばいい、と考える人は育嶋佑という男子のことがよく解っていない。
それに、『ある事情』がすげなく断り突き放すことが出来ない状態に佑を追い込んでいたのである。
(じ、地獄だ……)
と佑は思っていた。
しかし、それは間違っていた。
彼にとっての、今以上の『地獄』が待っていることを知らなかったのだ。
当たり前と言えば当たり前である。
予知能力がない、それどころかインスピレーション関係がダメダメな佑なのだ。
分かったらそっちの方がびっくりである。
「ね? 留美って呼んで」
「は、はい、留美さん……」
「留美ちゃん」
「は?」
「留美ちゃんって呼んで。 さん付けなんて堅苦しいでしょ?」
口元に笑みを浮かべたいたずらっぽそうな表情で留美が要望する。
「じ、じゃあ……留美ちゃん……」
「なあに?」
「そ、その……つまり……」
佑は答えに窮し、その場から消えるか逃げるかしたいと真剣に考え始めた。
と、そのとき神の助けか悪魔の慈悲か、次の授業開始を告げるチャイムが鳴った。
由香がハッとして
「あ、戻らなきゃ! 先生に叱られちゃうわよ。 留美、先に行くわよ?」
と言うと、留美は振り返り
「あン、ユカちゃん、待ってよ」
そしてまた佑に向き直った。
「あ、次の授業始まるから、また後で。 ね?」
にこ、と微笑んでそう言った彼女は、由香を追って小走りに自分の教室に戻っていった。
……呆然としている佑、及び彼のクラスメートをおきざりにして。
間の悪いことに、佑のクラスの次の授業は数学だった。
あまつさえ抜き打ちテスト。
採点後、数学教師の近藤先生は他のクラスと比べてこのクラスだけ平均点があまりに悪いのに頭をかかえた。
が、この際、近藤先生の苦悩に言及している場合ではない。
そして、昼休み。
佑のクラスメイトの間では、水瀬留美が育嶋佑に告った、と言う話題で持ち切りだった。
しかしどうひいき目に見ても、『佑が留美に』ならわかるが、『留美が佑に』というのはいくら目の前で見たとはいえ
「水瀨さんが育嶋に告白るなんて……まるっきり信じられない!」
という意見が大多数であった。
無理もない。
佑は影の薄い、これといった特徴のない生徒である。
少なくとも、あまり親しくない知り合い……といったレベルのクラスメイトたちにはそういう印象であった。
クラスメイトですらそうなのだから、世間一般のイメージは推して知るべし。
この事件があるまでは。
そんな彼に校内人気ベスト二〇以内の美少女が告白したのだから、それはもう驚天動地が青天の霹靂を引きつれて、優曇華の花を見にきたような騒ぎだったのである。
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