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真・らぶ・CAL・てっと 六十一
しおりを挟むとは言っても、そのままそれをカミングアウトしてしまうと事態は悪化し、絶好ならぬ絶交状態に舞い戻りかねない。 そんなことは佑はもとより留美も由香も、治だっても望んではいないのである。
そこで留美は
「佑のクラブの後輩なんだもん、今度きちんとユカにも紹介するね、ってことじゃない?」
と保留状態にすることにしたのだった。
「あ、そうなの」
あっさりと由香が流したところを見ると、それは功を奏したと言えるだろう。
(よ、よかった……)
と、一安心した佑だが、由香は由香で
(それじゃ治くんにも、そのとき謝らなきゃなー)
と考えていたのだった。
今まで一番の悩みだった、恋人由香との関係修復が叶ったのは嬉しい佑。
今は一応の小康状態といっていい。
だが、湧きいずる泉のようにつきないのが悩みというものなのだった。
それでなくとも佑は苦労性でひっきりなしに杞憂をしている。
次の悩みは実体があるだけマシかもしれない。
その悩みというのを一言で言うと
「治との関係をどうするか?」
ということで、色々な意味で大問題だった。
一度承諾してしまったものは仕方がないが、治の病気が完治した今、あえて恋人という関係でなくても……と思える。
佑にとって怖いのは、やはり由香の反応なのだった。
そんなわけで後顧の憂いは取り除いておきたいが、井沢正から治の完治情報を聞いてからというもの、妙な喪失感を覚える佑である。
客観的には、治に絆されて愛情を抱きはじめているのだ、とあっさりすっきり丸解かりで、交流を深めていけばいいというところなのだが、当事者の佑としてはなかなかそう簡単にはいかない。
治がオトコの子だということを置いておいても、自分には今、由香と留美というふたりの恋人が居るわけで、彼を加えて三人となるともうなんというか、事態は複雑になり、佑の気持ちは更に複雑となるのだ。
(どうしよう……)
と悩む純情少年なのだった。
もっと複雑なのが、実は治だった。
(あれ? でも、先輩は留美さんと由香さんとも付き合ってて、そして留美さんは先輩のこと不潔だとか不実だとか微塵も思ってなくて……)
留美の明るい素敵な笑顔は、治の感じるところ、少しもちっともまるっきり、曇りも翳りもないのである。
不思議と言えば不思議なはなしだ。
治の常識では、男が二人の女性と付き合っている……というのは二股といって、不実や不潔の代表である。
更に治の考えは進んでいった。
(だけど先輩……佑さんはぼくと……オトコのぼくとも突き合うことにしてくれた……留美さんとそして輝明さんの見ている前で……って、え? ええっ?)
状況がムチャクチャで一般常識からかけ離れている状態、だということは、こうして治の心にもやっと浮上した。
自分と佑の関係はさておいて、なおも考える治。
(だけど、ぼくは留美さんも好きで……由香さんに誤解されて落ち込んでる先輩を慰めてあげたいけど、そんな心の余裕は……)
そして治は煮詰まった。
お風呂に入って追い炊きして眠りこけたわけでは無論なく(せーぢ註・身体に危険が危ないのでやめましょう(笑))、悩みに悩んで思考停止に陥ったのだ。
(あー! もう! わけわかんないよー!)
それはしょうがない。
佑たち三人も自分が当事者だからまだマシなのである。
もし他の人のことだったとしたら、治と同じように「わけわかんないよー!」と心の中とかで叫び出しかねないのだ。
ともあれ、思考停止に陥っただけ、心の余裕ができて進展はあった。
悩みに悩んで思い詰め状態が続くから、どうにもならなくなるワケである。
思考停止というと言葉が悪いが、それは一種のブレイクスルーの方法なのだった。
(ともかく! 留美さんにぼくの気持ちを)
と自分の想いを告白することを決意した治。
佑と由香、二人の感情を無視している格好なのだが、彼らの感情のことは思いもよらなかった。
恋する薄幸の美少年は更にワガママなのである……恋した男や乙女よりも、更に。
だがしかし、そんな治の思いの紆余曲折を知ることもない佑たち三人は、今日も今日とて同級生といろいろ仲良くやっている。
そんなこんなで、お互い相手の気持ちに気づくはずもなく、お互い様はお互い様なのである。
そして、留美はというといつものごとくいつもの通り、マイペースを保っている。
ある意味、ゴーイングマイウェイという感じだが、そうは思わせない柔らかく優しい雰囲気を漂わせている留美である。
悩みらしい悩みなど無いようだ。
もちろんそれは誤解で、留美にも留美なりの悩みはある。
目下のところ、それは料理の上達度であった。
つまり、留美は留美なりで他の二人とはかなり方向性が違う悩みなのだ。
したがって今回、詳細な追跡は避ける。
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