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真・らぶ・CAL・てっと 四十六
しおりを挟む「本当にごめんね」
思ってもいないところで謝られて、治は更にどきまぎしていた。
「純情な治クンに変なもの見せちゃって。 でも」
「で、でも?」
「たぶんどの女の子でも似たようなものだと」
そう言ってから、留美は何かに気づいたようだ。
「あ、もしかして」
治の動悸は激しくなった。
「あそこ、見ちゃった?」
「あそこ?」
ややあって、意味を理解した治はブンブン音がしそうな勢いで首を横に振りながら
「み、み、みみみみ見てません!」
と、ほとんど絶叫で否定する。 彼ら以外の人が家にいなかったのは幸いであった。
「そう、よかった」
ニコッと微笑んだ留美はペロッと舌を出して
「あたし、この歳になってもまだ……生えてないから」
と続けた。
衝撃の告白を聞いた治は口をパクパクさせて、何も言えない様子だ。
「ひょっとしたら丸見えで、それでショックなのかと思ったの」
治にとっては今の留美の言葉の方が痛恨の一打というやつで、卒倒寸前なのであった。 以前の彼なら確実に発作を起こしているだろう。
その様子を見て、留美も失言に気づいた。 照れ隠しにエヘ、と赤らめた顔で微笑んで
「話を元に戻すね? ショックの原因のあたしが言うのもなんだけど」
と、治の瞳を覗き込んだ。
「別に佑のことキライになったってワケじゃないんでしょ?」
またもやブンブンと音がしそうな勢いで、しかし今度は頭を縦に振った治。
危うく脳しんとうを起こしかけてふらついたところを留美は支えながら
「だったら佑のこと思い出してみて? そして抱きしめられてるトコも」
「え?」
治が耳を疑ったのも無理はない。
よく考えてみれば留美は、いやよく考えるまでもなく、とんでもないことを言っているのだ。
これはつまり、彼氏の浮気を認めているようなものである。
それどころか、治に自らの恋人を『相手』として推薦し促進し奨めている以外のなにものでもないではないか。
もっとも、留美にとっては当然の論理の帰結である。
例の『あたしが好意を抱いている相手が、好意を持っている別の人と好きあっていても構わない』という論理?によるのだ
治は一瞬戸惑ったようだったが、不自然だなどと露ほども思っていないのはその表情から伺える。
それは状況に流されてのことだろう。
そして、その状況に持ち込んだのは留美であることに異を唱える人もないだろう。
通常の彼はそれほどとんでもない発想をしないから間違いない。
彼女の口から佑の名前を聞いたとたん、治は佑の腕の中で安らいでいる自分の姿を思い描いた。
すると今まで激しかった鼓動が穏やかになり、こわばっていた顔がゆるんでくる。
彼の表情の変化を見てとった留美は、にっこりと首をかしげて目を覗き込み、感想を促した。
「ね?」
「は、はい! ぼく、やっぱり先輩が好きなんですよね」
留美に言うというよりは自分に言い聞かせるような口調である。
「そうよ。 治クンは決して浮気者じゃないわよ?」
力強く頷く留美。
「あたしの裸を見ちゃったのがショックだっただけなのよ。 ね?」
(そ、そうなのかな)
うなだれるようにうつむき、考え出す治。
留美は慈しむように、恋敵であるはずの美少年の頭を優しく撫でた。
彼女としてはそうせずにはいられなかったのだが、彼としては複雑な思いだったろう。
それが治の表情にも表れていたが、彼はうつむいた姿勢だったので留美は気づかない。
「んーん、イイコね? それにあたしは」
うふ、と微笑んで更に言葉を続ける。
「治クンのことキライじゃないから、ね?」
「そ、それって?」
などと聞き返すことも出来ないほどに混乱していた治だった。
(き、キライじゃないって、それはつまり)
再び治の頬が上気しはじめたが、その変化に留美は気づかない。
いや気づいていたとしても、彼が佑との際どい行為を想像してしまい、心拍数が上がっきたのだと思うのが関の山だ。
行動が大胆な割に一途な彼女は、まさか治が自分に恋心を抱きはじめたなどとは全然思っていなかった。
全く思っていなかった。
ちっとも思っていなかったのだった。
つまり留美は、心ならずも意味深な言葉と態度で、美少年の心をかき乱した罪作りな美少女になってしまったわけだ。
いつもはそんなにカンが鈍いわけではないが、今は彼の心の乱れに気づかずに
「でもやっぱり安静にしてた方がいいみたい」
と優しく言い聞かせ、またもや数多くの男子を魅了する笑みを見せて
「それじゃ、あたし失礼するね」
と微笑みながら手を振り、ふわりとチェックのプリーツスカートの裾をひるがえしてターンするようにその場を去ったのだった。
というわけで、留美が去ったその直後に、治の体温がどっと上がり、顔を真っ赤にして倒れ伏したことを彼女は知らない。
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