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真・らぶ・CAL・てっと 十三・五
しおりを挟むインタルード
ここ伯乃区の上桐邱・別館の裏庭では、井沢正と、彼が師匠と仰ぐ美人大学院生・上桐御世が向かい合って紅茶を飲んでいた。
彼としては、彼女が上に『超』が2、30個は付くだろうマッドサイエンティストなのが重要であって、美人という部分はそれほどでもない。
しかし、美人が嫌いとかいうわけでもないのだ。 美醜は二の次なだけである。
今日、ここに正がいるのは他でもない。
御世に報告に来たのだ。
自作の惚れ薬の副作用と育嶋佑の体質が相まって、北条治の難病を治療する特効薬となっている事をである。
彼から報告を聞いた御世は、よかったよかった、と喜色満面であった。
幼さを感じさせる姿は愛らしく、喜んでいると尚更であった。
兄や姉に溺愛されているのがよくわかる。
「それって、正くんも人助けしたいい子ってことよね」
と告げる。
御世のそのきゃぴきゃぴした雰囲気はとても大学院生には見えない。
下手をすると6つも年下の正よりも幼い表情を見せるのだ。
彼は無論、それが御世特有のものだと知っている。
先ほど彼女の姉がダージリンを注いでいってくれたのだが、正にはその価値はあまりわかっていない。
凛として、つつましやかな美貌の彼女はその後、二人の話の邪魔になるからと屋敷の奥へ引っ込んだ。
今頃は、兄の悟とお茶会をしているのだろう。
作法通りカップも熱してあるので、はじめのうちはテーブルに置いておくしかない。
それを知らず、最初のときには指に軽いやけどをしてしまった正であった。
そのときカップを割らなかったのは僥倖である。
「いい子って、師匠それは」
ものすごく珍しいことに、たじろぎながらも、悟解だとは言えない正なのである。(なお、正確には『誤解』だ。)
彼は話をそらすように
「しかし、つくづく思うのですが」
佑他S・C部員が見たら目を丸くし、顎を外しかけてしまうだろう光景だった。
正が柔らかく微笑み、あまつさえ敬語を使っているとは!
「次震を引きおこすなんて、師匠は本当に格が違います。 この井沢正、満腹しました」
『満服』は『感服』の間違いだが、『次震』は別に間違いではない。
それは『次元震』の略である。
その次元震というのは、普通は4次元連続体もしくは多次元宇宙を対象として起きる『地震』のことだ。
しかし、この場合はその常識を覆し、4次元連続体及び多次元宇宙を巻き込んだ『地震』のことを指すのであった。
「でしょでしょ? 正くん。 でもねでもね、縁ちゃんったら、すっごく怒ったのよぉ?」
それは怒るのが当たり前である。
首でも絞められなかっただけで感謝すべきだろう。
「鬼木さんは、師匠のスケールに慣れてないだけでしょう、きっと」
そんなもん、一生慣れる気はないっ!と彼女は言うだろう。 いや、大声で叫ぶかもしれない。
第一、それは彼女達の知人、親類、見ず知らずの人々に多大なる影響を及ぼしたのだ。
その『影響』の大部分は『迷惑』以外の何ものでもなかった。
はっきりと言ってしまえば
『その次震が起きた瞬間、色々な人が、色々な所で、色々な時間と、色々な所に瞬時にとばされた』
のである。
時空間の歪みのためであった。
実は、佑や留美もある所にとばされたのである。
だがそれはこの話の本論ではないのでまた別の機会にご覧に入れるとしよう。
「それに更に凄いのは、きちんと空間の歪みを愁復(せーぢ註・正しくは『修復』)しちゃったことですよ。 行方不明者は一人もいなかったんでしょう?」
「うん!」
あどけなく笑いながらVサインを出して
「全員、きちんと連れ戻したのよ? 縁ちゃんもホッとしてたし、お姉ちゃんも誉めてくれて。 これって人助けだよね?」
「もちろんそう思いますとも!」
お前ら以外の誰が思うかっ!というツッコミをものともしないだろう師弟。
彼らは、今日も今日とて片や無自覚に、片や確信犯的に無差別な迷惑をまき散らすのだった。
それを最前線で付き合わされる佑と縁の二人の境遇には、涙を流さずにはいられない。
……合掌。
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