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真・らぶ・CAL・てっと 十三

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さて次の日。
佑と留美は、連れ立って登校していた。
彼の家から学校への道。
その途中に彼女の家があるので、留美が早めに待っていれば大体はそうなるわけである。
ちなみに、由香は朝練とやらで二人よりずっと早く登校している。
幽霊部員だったのがウソのような熱心さだった。
「佑?」
「な、何?」
びくっ、とする佑。
後ろめたいことがあるのがみえみえで、それを見逃す留美ではない。 しかし
「昨日、ちゃんと治クンに謝った?」
と、そしらぬ顔をして訊ねるのだから、留美もなかなか人が悪い。
「あ、謝ったよ」
佑の方は人がいいというか、気が小さいというか、尻腰しっこしがないというか、であるから、最初はなっから勝負にならない。
「ふーん? それならいいんだけど」
「そ、それで、北条と飛騨野さんって、イトコ同士なんだってね」
必死で話をそらそうとする。 留美は微笑んで
「うん、あたしも茗ちゃんから聞いた」
「でも、あまり似てないよね」
「イトコだったら似てる方が珍しいかもね」
「飛騨野さんは元気いっぱいだけど、北条は体弱いし」
すっかり、というほどでもないが話題が変わって落ちついた佑。
その心のスキを突くように、留美は笑顔のまま、ズバリと訊ねた。
「昨日何かあったでしょ」
「ななな何かって?」
「何が、あったの?」
「いやその」
「な、に、が、あ、っ、た、の!?」
「る、留美……目が怖いよ」
「佑が、大人しく白状してくれたらいいの。 そうすれば怖くなくなるから」
本当かな?と思いつつも告白する佑。
彼女の視線と、この場の空気に耐えられるほどの、堪え性もなければ、不屈の精神もないのである。
もっとも、彼女相手にはそんなものは無いのが『男子』というものかもしれないが。
「北条と」
「治クンと?」
「その、キス、しちゃって」
「ずっるーい!」
何がずるいのか、よくわからないが、つい後ずさる佑。
「ここんとこ、あたしも佑とはキスしてないのに」
そういうことか、と納得する暇もない。
「留美、声が大きいよ。 ここ通学路」
「だから!?」
「いやそのじつは、奪われて」
「じゃ、奪い返しに行ってきて!」
と言い放ち、急に態度を変えて、小首を傾げ
「っていう冗談はさておいて」
と、微笑んだ。
「じ、冗談って」
「だって、あたしとユカだって、同性なのに……でしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど」
気圧けおされる祐。 そんなことで気圧されるな、と言いたくなるが、これでも昔よりはマシなのだ。
「だったら、佑と治クンもそうなったって、別におかしくないでしょ?」
相も変わらずとんでもない発想であった。
「そ、そうなのかな」
説得されるな、とツッコミを入れたくなるほど、『超論理』に納得しやすい佑なのだった。
「見てみたかったな、佑と治クンのキスシーン」
「ちょ……留美何を」
留美は、うふうふと、可愛らしいがどこか怖い含み笑いを洩らして
「あたしだって、健全な女子高生ジョシコーセーだモン。 あんな可愛いコと自分のカレシのキスシーン、見たいと思っても、無理ないじゃない?」
佑は思わず、自分の額を押さえていた。
どこが『健全』でどこが『無理ない』のかまるっきりわからない。 その発言に留美が怒っているのか、喜んでいるのか、完全に分からなくなった佑であった。
もちろん、留美は喜んでいたのである。
別に彼女にそういう素質があるということではない(とも言い切れないが)。
例によって、『あたしの好きな人同士が、好きあっていても無問題』という信条の故なのである。
治のことが、かなり気に入っていたのだ。
困ったものである。
……佑限定で、本当に困ったものである。

留美には言わなかったが、治にキスされた他にも色々なことがあったのだ。
茗がお茶を持って来たすぐ後、彼と彼女の両親が帰ってきたのである。

茗が含み笑いしながら治の部屋から出ていった。
そして、そのすぐ後に帰ってきたらしく、彼女は、一旦出た部屋へ、すぐ舞い戻ってきた。
「どうしたの?」
「父さん母さん達、帰ってきた」
「じゃ、僕はそろそろ」
帰るね、と言う前に、治の両親が入ってきたので佑は帰る機会を逃した。
「あ、お帰りなさい」
治がベッドに入っているのを見て、婦人のほうが慌てて駆け寄る。 どうやら、彼は母親似らしかった。
「まあ、治くん具合が悪いの?」
息子を気づかって声をかける。
佑が目に入っていない様子だ。
「あなたは?」
すらりとした体躯を黒のスーツでつつみ、実直そうなこと以外ではまるでホストか何かのような、スタイリッシュな男が佑に訊ねた。
気圧されて、佑はまたもや後じさりをしたい気分になった。
「ど、どうも……」
ベッドに入ったままの治は、佑を自分の両親に紹介した。
「クラブの先輩なんだ」
「それはそれは」
深々と、治の父親らしき男に頭を下げられ、慌てて佑も頭を下げて挨拶をする。
「どうも、初めまして。 育嶋佑といいます」
ベッドの治を見て怪訝な顔をしていた二人に茗が、治に目配せしながら補足した。
「センパイが治くんの具合が悪かったの、でウチまで送ってくれたのよね?」
この場合、『センパイ』というのは留美のことなのだが、彼女はあえて伏せている。
面白くなりそうだからである。
割と茶目っ気たっぷりのこのイトコに、治は度々たびたび驚かされているのだが、今はそんなこと考える余裕はない。
「え? う、うん、そうだけど」
言うまでもなく、治の両親は誤解した。
「まあまあまあ! 息子がお世話になりましてありがとうございます!」
治の母親は、涙ながらに佑にすがりつかんばかりだ。
「いえ、ぼ、僕はなにも……」
実際、治を送ってきたわけではないので、正直にそう言う佑。
「今時珍しい! 人助けをしてしかもそれをひけらかさないとは!」
これは治の父の言葉である。
どうも二人して感激屋な上に、早呑み込みなのらしかった。
茗や治の早呑み込みぶりは遺伝なのだろう。

というわけで、佑は下にも置かないおもてなしをされたのであった。
その合間に治の病気のことや、家族全員が治をどんなに心配しているかということ、更には佑が治の世話を焼いてくれたのがこの上なく嬉しいことなどを散々に聞かされたのである。
もともと治をいたわる気持ちがあった佑であるが、そんなに頼りにされるというのはまた別の話で、プレッシャーがかかってしまったのだ。

彼が、もともとプレッシャーに弱い性格なのは、読者諸氏にもそろそろお気づきのことと思う。
もしも治か佑、どちらかが女の子だったとするならば、ずるずると家族ぐるみのお付き合いに発展し、更には将来の約束までさせられかねなかった。
そして、その様子からかんがみるに、治がカミングアウトをしたとしても
「相手が佑さんなら……」
と許してしまいそうな雰囲気だったのである。
ありがた迷惑なのだが、そのことを顔にすら出せない佑。
それとは逆に、治は嬉しそうだった。
事実、佑といると元気になってくるのである。
治の両親も、そして叔母夫婦つまり茗の両親も嬉しそうで、とてもその雰囲気に水を差せる佑ではない。
茗は楽しそうだった。
半分ニヤケてたと言ってもよい。
そして、何度も帰ろうとしたのだがそのたびに引き留められ、彼がやっと自宅に帰れたのは9時も近かった。

つまり、そういうことを、留美や由香に知られるのは大いに問題があり、故に伏せているのだった。
特に、由香はまるっきり知らないのだから。
茗はそんなことをペラペラ喋るような放送屋ではないようであり、従兄弟のゴシップを敬愛する先輩に告げる理由もない。
だが、佑自身は、御存知の通り戦々恐々としていた。
このまま、なしくずしに治と交際をすすめられる、というカタチだったからだ。
おまけに、留美にまで『見てみたかった』などと言われては、完全にどうしていいかわからなくなったのだった。
(確かに、北条は可愛い後輩で、助けてやりたい……でも、このままだと流されてしまいそうだし、かといって突き放せないし)
問答無用に、情の移っている佑なのであった。
気が強くて兄を兄とも思っていないような妹に比べ、素直で大人しくてはかなげでしかも目の離せない治は愛くるしいことこの上なかった。
しかもサラサラの髪に大きな黒い瞳、未だ第二次性徴前のようなすべすべの頬、線の細いおとがい、華奢な体つきetc.etc.……の、その主がことあるごとに自分を慕ってくれるのだ。
恋人、とまでは思えない佑も弟くらいまでは思っていた。 ちなみに彼には弟はいないので、彼の想像する弟像というのはかなり偏ってはいたが。

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