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真・らぶ・CAL・てっと 十二
しおりを挟むそのお願いを耳にした佑は治から離れ、軽く後ずさって逃げ腰になった。
「キ」
いくらなんでもそこまで一足飛びに関係を深めることなど、想像してすらいなかったのだ。
治もかなり性急であるが、病気の為に先がないと思っているのだ。 しかたがないかもしれない。
「キスはちょっと……」
少し上気し、ほんのりと赤く染まった治の顔が、その言葉で憂いを帯びる。
「だめ……ですか?」
沈んだ様子の後輩に、いたわりたい気持ちと、愛おしさを感じつつも
「友達にキスはしないんじゃないかと……ロシア人じゃないんだし」
「じゃあぼくロシア人になります!」
無茶苦茶なことを口走る治であった。
「北条」
言えたのはそこまでで、そんな無茶な、という言葉は口から出て来ない。 彼の必死さが伝わってしまったからだ。
「ごめんなさい、変なこと言っちゃって……でも、ぼく」
目を伏せるその仕草は、彼のか弱さを感じさせ、かばってやりたい気持ちを引き起こす。
「男とか女とか関係なしに、先輩の、ことが、好き、だ、から……」
途切れ途切れに述懐する治を見つつ、心の中で自問自答する。
(そりゃ、北条は可愛い後輩だよ? はずみとはいえ、「友達からなら」とも言ったよ? でも、彼は男の子なんだし、僕は同性とキスをするのはちょっと)
そこまで考えて、ふと佑は我に返った。
(考えてみたら、北条に優しく接して、なるべく近くに居ればいいだけで、恋人になる必要はないんじゃ?)
今まで雰囲気に呑まれてしまい、彼を恋人にするのを前提に事態が進んできた。
が、必ずしもそうでなくともよいことにやっと気づいたのである。
弱者をいたわる心と恋愛感情が、治の可憐さの前にごっちゃになり、流されていたのを自覚したのだ。
「北条、まだ早いと思うんだ」
「え? 早い?」
治の両肩に手を置き、じっとその瞳を見つめてコトを先送りにする口実を口にする。
「もっとお互いよく知り合ってから」
「ぼく、先輩のことよく知ってます」
「え?」
思わぬ反撃に戸惑う佑。
「水瀬さんて恋人が、いるのは知らなかったけど、でも去年、通学の途中でずっと見てきました」
留美の推理は正解であった。
「だから……先輩にも、ぼくをもっと知って欲しい」
そう言ったあと、一拍おいてうつむき、続ける。
「そう思うのはわがままですか?」
「北条……」
「ぼくに触れて欲しい、そう思っ、ちゃ……いけ、ませんか?」
その愛らしい瞳から涙が溢れている。
(泣き顔まで愛くるしいのは反則だよ……)
と、そっちの方のケはまるでないハズの佑でさえ、そんなことを思った。
それほど、その魅力は凄まじかったのである。
「わかったよ」
再び佑は治を抱きしめた……先ほどよりも幾分強めに。
「少しの間なら、こうしていてあげる」
「先輩」
治の行動は速かった。
佑がそれを許した、ととった彼は目を閉じ、愛する先輩の首を抱くようにして唇を触れ合わせたのだ。
「んむっ?」
甘く、柔らかい唇だった。
留美や由香のそれに負けず劣らずなそれは、ノーマルな性嗜好の彼ですら少しの間恍惚としてしまう程だった。
ただ、さすがに舌が動員されるには至らなかったが。
その折りも折り、ドアがノックされた。
「!」
慌てて離れる二人。
その動悸はかなり激しくなっていた。
「な、なに?」
「ごめん治くん、遅くなったけどお茶とお菓子。 お茶切れてたから買いに行ってたんだ」
そう言いながら入ってきたのは茗だった。
言葉どおりに、お茶とお菓子を乗せたお盆を持っている。
「お、お構いなく」
佑の頭の中では例によって考えが空転し、グルグル回ってバター化していたが、なんとかそれだけを言う。
治の方はベッドの上に正座し、そっぽを向いている。
「治くん、せっかく育嶋センパイがお見舞いに来てくれたのにうれしくないの? 壁の方なんか見ちゃって」
慌てた治は、ベッドの端へと腰かけ直した。
「い、いやうれしいよ茗ちゃん」
二人が動揺しているのを悟った茗が、含み笑いをもらす。
「あれあれ~? もしかしてお邪魔だったかな~?」
茗のからかうような――いや、実際からかっているのだが――口調に顔を真っ赤にする先輩後輩の二人。
実はBL好きな茗は加えて言う。
「治くん体弱いから、手加減して下さいね? 育嶋センパイ」
「め、茗ちゃん!」
佑は目を白黒させていた。
(こ、こっちが手加減して欲しいよ)
年下の、しかも男の子に唇を奪われるとは思ってもみなかった佑である。
治が、まさか実力を行使してくるとは、完全に予想外で、いきなりで、不意をつかれたのだ。
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