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真・らぶ・CAL・てっと 十一

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そして。
当たり前の話であるが、佑は留美と遭遇した。
北条・飛騨野家から自宅へ帰ろうとする留美。 そして学校から北条家へと向かう佑。
二人がわざわざ遠回りをしない限り、出会うのは当然なのだった。
「あれ? 佑?」
「あ、留美? どうしたのこんな所へ」
「それはこっちの」
そこまで言って、留美にはピーンときた。
「治クンに謝りに来たの?」
ズバリと核心を突かれて佑は驚いた。
「え? 何で留美が北条のこと知ってるの?」
偶然に他ならないのだが、留美はうふっ、と悪戯っぽく微笑んで言った。
「ナイショ」
「な、ナイショって」
相も変わらず恋人に振り回されている佑である。
「佑ったらスミにおけないんだから」
「す、スミにおけないって」
友人ならいざ知らず、恋人にそんなことを言われては佑もどうしていいかわからない。
もっとも、彼がどうしていいかわかる状況というのは、確率的にかなり少ないが。
「せっかく会ったんだから、治クンの家まで案内するね。 それに」
「それに?」
「久しぶりに佑と一緒なんだモン」
そう言いながら顔を寄せる。
いや、去年と違い2年になってからは同クラスなのだからそれほど離れてはいない筈なのだが、それでも留美は佑と一緒にいたいのであった。
彼女も『乙女』なのである……佑とは別の意味で。
「いい機会だから言っとくけどね、佑?」
急にそう言われ、精神的に後ずさる。
「な、何?」
「佑が何か一人で悩んでるのはあたしもユカも気づいてる。 でも、そのうち話してくれるだろうって思ってるから黙ってるんだよ? 恋人だモン」
ぽっ、と頬を赤くする。 そして続けて
「でもね?」
「でも?」
「治クンみたいな可愛らしいコを悲しませるのは、ダメ!」
これは、可愛くなければ悲しませてもいい、という意味ではない。
佑は黙っていた。
何を言えばいいのかわからなかったのだ。 それを肯定ととった留美はにっこり笑って
「慰めてあげてね?」
それは留美に言われるまでもなく、謝るし、慰めもするつもりなのだが、何ゆえに彼女が治とのことを知っているのかよくわからない。
まさか治が留美に、佑への気持ちを打ち明けた、などとは想像の範疇外はんちゅうがいだから当然であった。
考えてみると、留美がどうして治の自宅を知っているのかを追及してしかるべきなのだが、そしてそれを追及すればどうして留美が治とのことを知っているのかがわかる筈なのだが、佑の頭の中では治とのことを留美がどこまで知っているのかが不安だった。
じゃあ訊けよ!って話でもあるわけだが、ご承知の通り、訊けないのが佑なのである。
「で、でも」
「ん?」
佑の顔をのぞきこむ留美。
「いいの? 留美?」
「いいのって何が? 治クンを、慰めに行くのが?」
「そ……そう……」
「当たり前でしょ?」
くすっ、と笑った留美は続けて
「治クントコに行かないようなら、あたしの好きな佑じゃないモン」
「留美……うん、ありがとう」
そう言って頬にキスをする。
その大胆な行動はギャラリーがいないからである。 一人でもいたらこんなことができる佑ではない。
唇に、ではなかったのが、少々、かなり、だいぶ不満だった留美だが、まあそれはそれ。
そんなふうに話しているうちに、二人は北条家に到着したのであった。

「じゃあ佑、あたしはこれで」
「え、来ないの?」
「だってあたしがいると邪魔でしょ?」
治にとっては確かにそうかもしれないが、佑にとっては多分そうではない筈だ。
「治クンが来て欲しいのは佑で、あたしじゃないモンね?」
「それはそうかもしれないけど」
なんとなく心細い佑なのである。
「だから、佑が一人でいった方が、治クンも喜ぶと思うし」
そういう所はさすがに鋭い。
「……うん、わかった。 じゃあ留美、また明日ね?」
「うん、佑。 愛してる」
「僕もだよ」
人の家の前で――実際は裏口だが――やってる場合か、と言いたくなるような事をしている二人である。
「じゃあね?」
そう言って、留美は帰宅していった。

「ごめんくださーい!」
「はーい?」
出てきたのは茗だった。
「あれ? 飛騨野さん?」
「え? 育嶋センパイ?」
お互いに顔を見合わせ『理解不能』なカオになる。
が、茗は素早く回復し
「あ、治くんのお見舞いに来てくれたんですね? どうぞ上がって下さい」
と早合点をした。
まったくもって『呑み込み茗』と仇名を付けられないのが不思議であった。
「ここが治くんの部屋です」
状況がさっぱり理解出来ないながらも、佑は茗に連れられて治の部屋の前までやってきた。
「ほ、北条?」
ノックの後、そう声をかける。
「誰?」
部屋の中から誰何すいかの声が聞こえた。
「ぼ、僕だよ。 育嶋佑」
「せ、先輩?」
一瞬の沈黙の後
「……何しに来たんですか?」
という冷たい声。
「ここじゃ話ができないから、入ってもいいかい?」
しばらくの沈黙の後
「はい」
という治の承諾にやっと彼の部屋に入ることができた佑であった。
「北条……」
治は横になったまま布団をかぶっていた。
「その、大丈夫?」
「何がですか?」
「体の具合は大丈夫?」
「優しくするのはやめてください」
「え?」
治の拒絶にきょとんとする佑。
「ぼくに応えてくれないなら、優しくしないで……期待させるだけなんて……残酷です」
涙声だった。
「北条……」
自分でも信じられないのだが、彼に対して愛しさの込み上げてくる佑だった。
「先輩には水瀬さんて人がいるんでしょう?」
いや、留美のみならず由香もいるのだが、それはまだ知らない治である。
「その水瀬さんが、ね?『治クンに優しくしないと怒るわよ』ってさ」
「ええっ?」
思わず布団をはねのけ起き上がる。 留美の発言は――事実ならだが……いや実際事実なのだが――治の想像を絶していた。
「あのときは」
治が佑に『返事』を求めた時のことである。
「僕の言い方が悪かったよ。 ごめんね? 口下手なんだよ、僕は」
佑の言葉に、見上げるように彼を見る治。
「でも、君もせっかちだよ? 人の話は最後まで聞こうね?」
その言い含めるような口調に
「ごめんなさい……」
今度はしゅん、としてうなだれる。 頭を上げたり下げたり……まるで平和鳥のようだった。
「あのとき僕は『僕には恋人がいるけど、君がよければ、まずは友達から』って言おうとしたんだよ?」
「先、輩……それって」
「うん」
佑は頷いて
「君がよければ……ね?」
「でも『男の子を恋人として見ることはできない』って」
「うん」
にこ、と笑って続ける。
「今はね? でも人間には『慣れる』ってことがあるから」
そう言って治を軽く抱きしめる佑。
イマイチ言葉の使い方がわかっていないようである。
だが、治は陶酔していた。 愛しの先輩に抱きしめられているのだ。
何を言われようと、脳内で自分の都合のいいように変換されてしまうのである。
「それなら」
「ん?」
治の腰を抱いたまま、彼の目を覗き込み、治も佑の目を覗きこむ。
「キス……してくれますか?」

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