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真・らぶ・CAL・てっと 七
しおりを挟む――そして
北条治が、佑に消極的な告白をしてから、およそ一週間。
留美も由香も、まだそのことを知らなかった。
佑はそんなことを話す心境ではなかったし、治に対する返事すら避けている状態だった。
井沢正と浅間浩のS・C迷惑コンビは知っているが、彼らはそんなに口が軽くなかった。
人をからかったりゴタゴタを引き起こしたりはするが、いちいちその結果を宣伝するようなシュミがないのだ。
しかし、治は佑の心境を理解しているのか、特に何も求めてこなかった。
求めては来なかったというものの、放課後、2年の教室にやってきてクラブに誘う事はしていた。
だから例によって流されやすい佑はクラブには出ていたのである……恋人ふたりのお誘いも特に無かったので、相談する相手もおらずに困り果て悩みながら。
しかし、今のところ治は佑に何も要求していない。
そう、『返事』すらもである。
つまり、佑が勝手に困っているだけなのだ。
つくづく彼は、取り越し苦労の権化である。
が、ついにその時は、やってきた。
治がもじもじしながら
「せ、先輩」
ほとんどひと気の無くなった部室のすみで、治がそう口にした時、佑はギクリとした。
「な、何かな?」
「この間の、返事は」
「へへへ返事?」
焦りで吃ってしまう。
ここ何日かでわかったが、治は控え目で大人しく素直な性格である。
しかも、本当に科学が好きで入部してきたらしく、そちらの知識もけっこう豊富で、佑とはかなり話が合った。
更には『先輩』『先輩』と慕ってくれるのだ。
しかも、かなりの美少年、とくる。
これでほだされないほど、佑は氷の精神に恵まれていなかった。
が、しかし、なんといっても治は同性で、彼の恋心は惚れ薬の故なのは明々白々だ。
井沢副会長も『陽性』だと保証していたから最早完全に間違いがない。
つまり、期待させておくのもかえって残酷なのだが、だからといって冷たく『ごめんなさい』できるような佑ではなかった。
そんなことができるくらいなら、こんなに状況に流されまくる人生をおくっていない。
煮詰まった佑は、それでも『保留』しようとした。
かつての彼なら頭の中で考えがバターになっているところだから、いくらか進歩している。
しかしながら、その言い方がまずかった。
「ぼ、僕は男の子を恋人として見ることはできないよ……」
そういってうつむくように頭を下げる。
一瞬の沈黙の後
「ごめん」
そしてその後に
「僕には恋人もいるし、それでもよければまずは友達からなら」
と続けようとした。
が、既に治の表情は暗く沈んだものになり、大きい瞳の縁から涙を溢れかけさせて
「そう、ですよね? 先輩は優しいから、こんなぼくにそれでも今までよくしてくれたんですよね」
とか細い涙声をだす。
「ほ、北条?」
「ありがとうございました。 今までわがままいってご迷惑をおかけしてすみませんでした! 失礼します!」
叫ぶように言い、駆けだして出ていった。
佑は後も追えず、ただ呆然としていた。
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