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そのにじゅうさん

ぶかぶか猫耳パーカー

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「先輩、先輩、先輩!!!」
 雑誌を見て大体の欲しい上着のイメージが定まって、早速街へ出払っていたラスは帰寮するなり紙袋片手に激しく扉を開いた。
 勢い良く入って来たラスを、リシェは「やかましいな」と嫌そうな顔で迎え入れる。
「可愛いのみつけた!!先輩に似合う服!!」
「頼んでないぞ、そんなの」
 何勝手に買って来てくれたんだ、とリシェは興味なさげに言った。一方のラスは、鼻息荒くしながら大きな紙袋から一着のパーカーを引っ張り出すと広げて見せる。
「んん?」
 白と黒を基調とした、猫の耳がくっついた帽子付き。
「先輩に絶対似合うと思って!!」
 その支払いは一体誰がするのだろうか。リシェはそう思うとたちまち顔を曇らせてしまう。ラスの趣味と自分の趣味は全く合わないというのに、何故このように派手そうなものを買ってきてしまうのだろう。
「これ!!着てみて下さい!!」
 フードの部分は大きな耳だけではなく、大きなボタンで目を象っていた。確かに可愛い服といえば可愛いのだが。サイズ的にも、小柄なリシェが着るにはブカブカな気もする。
 ラスはあえてそれを選んだのだろう。
「その上着の代金は誰が払うんだ?まさか俺じゃないだろうな??」
 買う気もなれないものにお金を払いたくはない。
 別にお金に困っている訳ではないのだが、頼んでもいないのに押し付けられたくなかった。
 ラスはにっこりと微笑みながら「嫌だなぁ」と言う。
「俺が着て欲しいものなのに、先輩にお金を出させる訳にはいきませんよぉ。これを見た瞬間絶対先輩が着ると可愛いって思ってついつい買ってきてしまったんです。これはプレゼントですよ」
「…そうか。ならいいんだけど」
 ラスに言われるままにその服に袖を通す。やはり大きめサイズでガバガバだったが、どうにか着る事が出来た。
 こうか?とラスを見上げる。
 すると彼は心底嬉しそうな顔で「そうそう!!」と叫んだ。
「デカいんだが」
「それがいいんです!!!先輩、もう堪らないです、めちゃくちゃ似合う!!猫耳パーカー最高じゃないですか!!恐竜バージョンもあったんだけど、こうなったらそっちも着て欲しい位!!んあぁあああ、もう!どうしよう、あー!!可愛い!!」
 ラスは感激のあまりリシェの周りを狂ったようにぐるぐるしながら色んな角度で眺めている。オーバーサイズ過ぎて、手の先がほんの少ししか出ない上に膝上まで服が長いのでかえって不恰好な気がするのだが。
 そもそもこの服は一体誰向けなのだろうか。
「先輩、最高ですよ!今度これを着て俺をデートして下さい!」
「ラス」
「はい!!」
 帽子ですら顔半分隠れてしまうのだ。
 これでは転んでしまいそうで怖い。
「大き過ぎる。ブカブカだ」
 その訴えに、ラスはじっとリシェを眺めた。確かに服が大き過ぎて、小さな彼だと逆に服に着せられている感が否めない。
 猫耳の頭をひょこひょこさせながらリシェは「動き辛…」と呟いた。
「うううん」
 ラスは一旦冷静になり腕を組んで考えこむ。思えば、一目見た瞬間にその手にした服を真っ先に買ってしまったのだ。サイズもまともに見ないで。考え無しだった。
 ちょっと考えた後、彼は分かりました!と顔を上げる。
「先輩」
「ん?」
 ブカブカのパーカー頭がへにょりと揺れる。同時に猫耳もへにょりと垂れた。
「今から一緒にサイズ交換に行きましょう」
「ええ」
 俺も行くのか?と面倒そうにリシェは問う。ラスは勿論ですよと彼の頭を撫でた。
「サイズぴったりじゃなくて、ちょっと大きめがいいですね。余裕持たせた方が可愛いです!」
「お前の基準は可愛いで決めるのか」
 そこまで言うなら自分が着ればいいだろう、と呆れてしまう。
「いいや!俺が買うんだから先輩には文句言わせませんよ!さ、一旦脱いで下さい。袋に詰めて交換しに行きましょう!」
「お前の上着を買いに行ったんじゃなかったのか」
「勿論買いましたよ。俺はちゃんと試着したので満足なんです!さあ、先輩!行きますよぉ!」
 自分の上着を買うだけで良かったのに、何故こうなってしまうのだろうか。リシェは面倒そうにしながら、渋々とラスの言われるままに準備を始めていた。
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