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そのじゅうはち

ラスの恋はまだ一方通行

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「さて、先輩」
 ラスはいつものようにニコニコしながら両手をわきわきさせていた。
「またか」
 先輩といちゃいちゃしたくなる周期と名付けられたラスの発作は、周期というよりは三日に一回の頻度だと思う。課題を片付け、自分の学習机でううんと身を伸ばしながら「良く飽きないな」と言った。
 ラスはそんなリシェの背後から軽く抱きつくと、飽きる訳無いじゃないですかあと蕩けそうな表情を見せる。
「先輩がなかなか俺に応じてくれないなら自分から押した方が良いって思うのです」
 抱きつかれたリシェは無表情のままで課題に使っていた教科書やノートを鞄に仕舞いながら、あぁと気怠そうに唸った。
「そもそも」
「?」
「先輩の好みのタイプって何なんですか?」
 抱き締める事でお互いの顔が違くなる。
 椅子を軽く軋ませながら、ひたすらリシェにくっついていた。
「好みのタイプ?」
 鬱陶しそうにしながらも、すっかり慣れ切った様子のリシェは若干拗ねるように質問してくるラスの腕を掴んだ。彼は常に香水の香りを漂わせるので、嫌でも移り香が残ってしまう。
 がっつり付けないだけまだマシだが。
「そうそう。先輩の好みのタイプ。どういう人が好きだとか、聞いた事が無いなーって…あ、でも」
 ハッとリシェの首筋に埋めていた顔を上げた。
「?」
「えーっと、あれですよ。背が高くて優男風の美形で敬語使うタイプは抜きにして下さい。あれはいけません。先輩を駄目にしてしまいますから」
「は?」
 何を言っているのか、とリシェは眉を寄せた。
 妙に具体的なのが気になってしまう。
「それ以外でお願いします、先輩」
「その背が高くて優男風の美形の敬語使う奴に何か恨みでもあるのか?」
 しかも優男ときた。同性じゃないか、と呆れてしまう。
 ラスはリシェから身を離すと、ギリギリと奥歯を鳴らしながら「めちゃくちゃありますよ!」と断言する。
「向こうでは先輩を独り占めしているくせに、こっちでも欲張って先輩を狙うのですから…俺だって先輩を独り占めしたくてたまらないのに、あの人は隙あれば邪魔をしてきて。今回ばかりは絶対譲らないんだから…あっちでも存分にべたついてきたのにまだ足りないのか…んぐぐぐぐ」
 一人でぶつぶつ言いながら勝手に怒り悔しがるラス。
 椅子に座ったまま、彼と向き合うリシェは困惑した様子で「大丈夫か?」と首を傾げた。
「何一人で怒っているんだ?頭大丈夫か?」
「大丈夫ですっ」
「そうか。それなら良かった」
 ラスは改めてリシェにどうですか?と問いかけた。
「好きなタイプとか」
「別に俺は考えた事が無いな」
「えぇ…」
 期待に添える回答を期待していた訳ではないが、リシェは同じ年頃相応の思考にやや欠けているのかもしれない。あまりにも寂しい回答だと思わずにはいられなかった。
 ラスは椅子に座ったままのリシェを見下ろしながら「じゃあ」と口を尖らせる。
「?」
「俺を好きになって下さいよ」
 渾身の告白。
 しばらくお互い無言になった。
 数秒、間を置いていた。ラスはそれすらも長い時間だと感じてしまう。
 やがてリシェの方から口を開いた。
「嫌だ」
 めちゃくちゃ嫌そうな顔で突き放す。
「えぇえええ…!」
 間を開けてからの答えがそうなってしまうなんて。
 あまりにもはっきりした回答を受け、ラスは脱力してしまった。
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