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そのにじゅうなな
目覚める性癖
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リシェは延々と喋ってくる相手を前に死んだような顔をしていた。
移動教室の授業が終わり、元の教室へと戻ろうとする最中で保健医のロシュと遭遇してしまったのだ。彼はリシェの姿を見るなり即座にこちらに駆け寄るとよく分からない事をひたすら話し始めていた。
何やら元の世界がうんたらとか、ラスがたまに言う事を説明している様子だが意味が分からないのでどう反応したらいいのか分からない。
だんだん飽きてきて、やがて無表情を決め込んでいた。
「…ですから、どうにかして思い出してくれるように色々な方法を考えているのです」
「…………」
そうは言っても知らないものは知らない。
リシェはロシュの話が終わったのを見越した後、ようやく口を開く。
「もういいですか?」
出来るだけ彼には関わりたくないのが本音だった。
これだけ目立つ美形なのに、変な危険性を感じてしまう。しかも彼と多少でも関わっていると、仲を誤解した生徒らに変な嫌がらせを受けてしまうのだ。
ここは男子校だというのに。
中性的な外見のせいか、ロシュは生徒達に非常に人気らしく彼の姿を見る為に仮病を使い保健室へ赴く者も居るという。果ては他校からわざわざやって来る者も存在するらしい。物好きもいい所だ。
それなら黙っていても懐いてくる生徒らを相手にしてくれればいいものを、何故か彼はリシェを見るなり近付いてくる。払っても払っても周辺を纏わりついてくる夏の虫の如く、ロシュはリシェに非常に執着していた。
リシェの蛋白過ぎる反応に、ロシュは「リシェ!!」と悲痛な声を上げる。
「わ、私の話を聞いていましたか?」
「聞くも何も…言っている意味が本気で分からなくて」
理解してくれと言われてもさっぱり意味が分からないからどうしようもない。
ロシュははぁ…と溜息と同時に肩を落とす。
「これもまた神様の悪戯なんでしょうかねぇ…どうしてこの子に記憶が付いてこないのか…」
「そういう訳なので俺はこれで」
失礼します、と言いかけたその時。
「お待ちなさい!!」
すかさずロシュの手が伸びてリシェを捕らえた。
「ぎゃあああ!!」
小柄過ぎるリシェの体はまんまとロシュの腕の中にすっぽりと収まってしまう。ロシュの優男風の外見からは想像も付かぬ位の力強さで、完全にホールドしてきた。
何ですか!とリシェはロシュを見上げて訴える。
これではまた余計に周囲から誤解されてしまうではないか、と慌てながらじたばたともがいた。
「抱き締めると何かを思い出すかもしれないと」
「全く思い出せないって言ってるじゃないですか!」
ぐぐぐっとロシュの腕を引き剥がそうとするリシェ。
相手が教師の一人なので余計タチが悪い。廊下を歩く無関係の生徒らは、何かリシェがやらかしたのかと怪訝そうな面持ちで通り過ぎていく。
お互い譲らない姿勢を貫き続けていると、ロシュから「もう…」と観念したかのような声を上げた。
「これではまるで私が変質者みたいじゃないですか…どうして思い出してくれないのでしょう」
十分変質者じゃないか!と思わず言ってしまいそうになった。
何故思い出せないのかと責められても知らんがなとしか言いようがない。というか、いい加減に諦めて欲しい。
「いい加減に離してくれませんかね」
うんざりしたようにリシェはロシュに言った。本来ならばあり得ないであろう彼の様子に、余計ロシュは悲観的になってしまう。
こうなったら無理矢理にでも思い出させるしかないのだろうか。
「はぁ…こうして抱き締めているというのに全くの無反応っていうのも寂しい。本当に寂しい」
「当たり前でしょ…」
というかそこまで親しくもない相手に抱きつかれて喜ぶ変態など居るはずは無い。必死に足掻くリシェは、「鬱陶しい」と吐き捨てる。
「どうしても思い出せないならあなたの体に訴えるしかありませんよ」
暴れていたリシェの耳元でロシュは囁く。
「………!」
一気に全身に悪寒が走った。
なんだこいつ気持ち悪い!と全細胞が逆立つ感覚に陥る。同時にリシェは背後のロシュの懐目掛け思いっきり肘打ちしていた。突然の攻撃を受けてしまった彼は思わずうぅっと呻きよろめいてしまう。
その隙を見計らい、リシェは彼から一気に離れた。
「り、リシェ…っ、そんな乱暴な」
「この変質者!!俺に近寄るな!!ばーか!!!」
腹部を押さえふらつく相手に、リシェはありったけの侮蔑を込めて怒鳴る。既に相手が教師だという事は勿論、本来ならば敬愛するべき相手だという事も頭から飛んでいた。
「まっ…待って下さ…り、リシェ」
可愛いリシェの名を呼ぶも虚しく。
彼は脱兎の如く逃げ去ってしまった。
「はぁ…ああもう…っ」
そんな二人の様子を影から見ていたオーギュスティンは、非常に冷めきった面持ちで「ああ、良かった」と背後からロシュに声を掛けていた。
見ていたのか、と腹を押さえたままのロシュは恨みっぽい目でオーギュスティンを振り返る。
「悪趣味ですね」
「あの子がいよいよ危ないと思ったら手助けするつもりだったんですよ。あれだけ拒否出来れば上出来だ。まさか肘鉄を喰らわせるとは思わなかったですけど」
「………」
「これを機会にあの子にちょっかいを出すのは辞めて貰いたいものですね。いきなり痛いのを喰らいたくないでしょう?」
ロシュは身を捩り呻く。最初は痛みでキツいのだろうと思っていたが、何やら様子が違う感じがした。
不思議そうにオーギュスティンはロシュを見る。
「…どうしましたか?」
うぅう…と唸っている彼の表情を確認すると、謎に満たされた様子が見受けられた。思わずドン引きするオーギュスティン。
「え…なんです…その顔…」
ロシュは何故かうっとりした様子。それなのに、打たれた腹部を押さえたまま呟いていた。
「き…気持ちいい…」
「………は?」
なんだそれ…とオーギュスティンはロシュから数歩離れる。関わってはいけないタイプだったのかと今更思った。なんだか怖い。
うっとりした顔のままのロシュはふらつきながら、呆然とする同僚をスルーしてその場から立ち去って行った。
移動教室の授業が終わり、元の教室へと戻ろうとする最中で保健医のロシュと遭遇してしまったのだ。彼はリシェの姿を見るなり即座にこちらに駆け寄るとよく分からない事をひたすら話し始めていた。
何やら元の世界がうんたらとか、ラスがたまに言う事を説明している様子だが意味が分からないのでどう反応したらいいのか分からない。
だんだん飽きてきて、やがて無表情を決め込んでいた。
「…ですから、どうにかして思い出してくれるように色々な方法を考えているのです」
「…………」
そうは言っても知らないものは知らない。
リシェはロシュの話が終わったのを見越した後、ようやく口を開く。
「もういいですか?」
出来るだけ彼には関わりたくないのが本音だった。
これだけ目立つ美形なのに、変な危険性を感じてしまう。しかも彼と多少でも関わっていると、仲を誤解した生徒らに変な嫌がらせを受けてしまうのだ。
ここは男子校だというのに。
中性的な外見のせいか、ロシュは生徒達に非常に人気らしく彼の姿を見る為に仮病を使い保健室へ赴く者も居るという。果ては他校からわざわざやって来る者も存在するらしい。物好きもいい所だ。
それなら黙っていても懐いてくる生徒らを相手にしてくれればいいものを、何故か彼はリシェを見るなり近付いてくる。払っても払っても周辺を纏わりついてくる夏の虫の如く、ロシュはリシェに非常に執着していた。
リシェの蛋白過ぎる反応に、ロシュは「リシェ!!」と悲痛な声を上げる。
「わ、私の話を聞いていましたか?」
「聞くも何も…言っている意味が本気で分からなくて」
理解してくれと言われてもさっぱり意味が分からないからどうしようもない。
ロシュははぁ…と溜息と同時に肩を落とす。
「これもまた神様の悪戯なんでしょうかねぇ…どうしてこの子に記憶が付いてこないのか…」
「そういう訳なので俺はこれで」
失礼します、と言いかけたその時。
「お待ちなさい!!」
すかさずロシュの手が伸びてリシェを捕らえた。
「ぎゃあああ!!」
小柄過ぎるリシェの体はまんまとロシュの腕の中にすっぽりと収まってしまう。ロシュの優男風の外見からは想像も付かぬ位の力強さで、完全にホールドしてきた。
何ですか!とリシェはロシュを見上げて訴える。
これではまた余計に周囲から誤解されてしまうではないか、と慌てながらじたばたともがいた。
「抱き締めると何かを思い出すかもしれないと」
「全く思い出せないって言ってるじゃないですか!」
ぐぐぐっとロシュの腕を引き剥がそうとするリシェ。
相手が教師の一人なので余計タチが悪い。廊下を歩く無関係の生徒らは、何かリシェがやらかしたのかと怪訝そうな面持ちで通り過ぎていく。
お互い譲らない姿勢を貫き続けていると、ロシュから「もう…」と観念したかのような声を上げた。
「これではまるで私が変質者みたいじゃないですか…どうして思い出してくれないのでしょう」
十分変質者じゃないか!と思わず言ってしまいそうになった。
何故思い出せないのかと責められても知らんがなとしか言いようがない。というか、いい加減に諦めて欲しい。
「いい加減に離してくれませんかね」
うんざりしたようにリシェはロシュに言った。本来ならばあり得ないであろう彼の様子に、余計ロシュは悲観的になってしまう。
こうなったら無理矢理にでも思い出させるしかないのだろうか。
「はぁ…こうして抱き締めているというのに全くの無反応っていうのも寂しい。本当に寂しい」
「当たり前でしょ…」
というかそこまで親しくもない相手に抱きつかれて喜ぶ変態など居るはずは無い。必死に足掻くリシェは、「鬱陶しい」と吐き捨てる。
「どうしても思い出せないならあなたの体に訴えるしかありませんよ」
暴れていたリシェの耳元でロシュは囁く。
「………!」
一気に全身に悪寒が走った。
なんだこいつ気持ち悪い!と全細胞が逆立つ感覚に陥る。同時にリシェは背後のロシュの懐目掛け思いっきり肘打ちしていた。突然の攻撃を受けてしまった彼は思わずうぅっと呻きよろめいてしまう。
その隙を見計らい、リシェは彼から一気に離れた。
「り、リシェ…っ、そんな乱暴な」
「この変質者!!俺に近寄るな!!ばーか!!!」
腹部を押さえふらつく相手に、リシェはありったけの侮蔑を込めて怒鳴る。既に相手が教師だという事は勿論、本来ならば敬愛するべき相手だという事も頭から飛んでいた。
「まっ…待って下さ…り、リシェ」
可愛いリシェの名を呼ぶも虚しく。
彼は脱兎の如く逃げ去ってしまった。
「はぁ…ああもう…っ」
そんな二人の様子を影から見ていたオーギュスティンは、非常に冷めきった面持ちで「ああ、良かった」と背後からロシュに声を掛けていた。
見ていたのか、と腹を押さえたままのロシュは恨みっぽい目でオーギュスティンを振り返る。
「悪趣味ですね」
「あの子がいよいよ危ないと思ったら手助けするつもりだったんですよ。あれだけ拒否出来れば上出来だ。まさか肘鉄を喰らわせるとは思わなかったですけど」
「………」
「これを機会にあの子にちょっかいを出すのは辞めて貰いたいものですね。いきなり痛いのを喰らいたくないでしょう?」
ロシュは身を捩り呻く。最初は痛みでキツいのだろうと思っていたが、何やら様子が違う感じがした。
不思議そうにオーギュスティンはロシュを見る。
「…どうしましたか?」
うぅう…と唸っている彼の表情を確認すると、謎に満たされた様子が見受けられた。思わずドン引きするオーギュスティン。
「え…なんです…その顔…」
ロシュは何故かうっとりした様子。それなのに、打たれた腹部を押さえたまま呟いていた。
「き…気持ちいい…」
「………は?」
なんだそれ…とオーギュスティンはロシュから数歩離れる。関わってはいけないタイプだったのかと今更思った。なんだか怖い。
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