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そのじゅうきゅう
立ち聞き
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「全く、今の子は変なきっかけで言い争いをするんだから…」
休み時間の最中、教室から戻ったオーギュスティンは軽く愚痴を呟いていた。向かい合う席のヴェスカは「んあ?」と顔を上げる。
「ほー、珍しく困ってんすか?」
普段平然としていて生徒らの問題は我関せずというようなイメージが付いてきそうなオーギュスティンだが、意外に生徒の事で頭を抱えるのが新鮮な気がした。
いや、我関せずというのは語弊があるかもしれない。
彼は常に穏やかで、冷静に判断出来る性質だ。生徒らの悩みにもある程度的確に判断してアドバイスを与えるのだろう。彼の悪い話はまず耳にしなかった。
「そういう訳では無いんですけど。言い争っていた生徒が真面目な子達なので意外で」
先程のリシェとスティレンの取っ組み合いの喧嘩を思い出し、彼は椅子に腰を掛けて一息吐いた。
「はは…まぁ、そんなもんですよ。…で、誰と誰がやってたんすか?」
「転校生の二人ですよ。リシェとスティレンの従兄弟同士で…本当に何してるんだか」
大喧嘩なんてするのか…と二人の顔を思い出す。どちらかと言えばスティレンの方は神経質そうで口煩そうな印象だが、一方のリシェは大人しく静かな印象があるだけに取っ組み合いの喧嘩をするなどとは想像し難かった。
従兄弟同士ならばお互い気兼ね無く接する事が出来るのだろう。
「何が原因なんすか?」
オーギュスティンとヴェスカが会話している中、職員室へ戻って来た保健医のロシュは二人の会話に思わず立ち止まった。彼らはそれぞれタイプが違うものの、妙に息が合っている。
元の世界でもお互いそうだったのだから、どうしても噛み合ってしまうのは無理も無いかもしれない。
「リシェが自分で買ってきた新発売のガムを落として探していた目の前で、スティレンがそのガムを勝手に食べていたっていう事から喧嘩が始まったようで」
「ガム!!」
何とくだらない事で喧嘩をしているのか。
それでも本人達は必死なのだろう。大人の世界と違い、子供の世界は狭い。その狭い中での出来事なのだから彼らもムキになってしまう。
「それを止めて来たって事っすか。はぁ、お疲れ様」
「理由を聞いて脱力しましたよ。ガム如きでこんなに大騒ぎするなんて…全く」
ある程度話を盗み聞きし内容を把握したロシュは、それとなくそそっとオーギュスティンの席に近付いた。ぐったりして頭を抱えていた彼は、ロシュの存在に気が付く。
「…何ですか?」
「え?いや…その、あの子の話を耳にしてしまったものですから」
「………」
担任であるオーギュスティンの頭の中では既にロシュは変質者リストのトップに降臨している。リシェの事に関しては特に敏感な彼の手から引き剥がしてやらないとならない。
「特に何も無いので大丈夫ですよ…何か気になる事でも?」
「ガムを従兄弟同士でお互い取り合ってたって位っすけど…どうしたんですか、ロシュ先生?」
続けてヴェスカもロシュに問い掛ける。
「はぁ、ガムですか…」
変に意味深に呟くロシュ。どうしたんすか?と不思議そうなヴェスカに、オーギュスティンは「放っておきなさい」と冷たく返す。
「どうせこの人の事だから、その取り合っているガムになりたいって思ってるに決まってるんです。特定の生徒に対して異常なまでに執着している危険人物なんですから」
長い付き合いの為に嫌というほど彼の性癖が分かるのだ。
「そんな事ありませんけど…」
とは言うものの、そんな彼の表情はどこか恍惚感に満ち溢れていた。
確実に、そのガムの立場になって妄想している顔である。
「えぇ…何か引くんだけど…」
その様子に、正直なヴェスカは自分の気持ちを隠す事なく顰めっ面になった。一方のオーギュスティンは至って普通の顔だ。
「そのうち嫌でも慣れますよ。これでこの人は普通なんですから」
人から羨ましがられるレベルの美形なのに勿体無い。神様は完璧な者を作りたがらないのだろうか。ここまで中身がおかしいのも無いと思う。
「はぁあ…ガムになりたい…」
ガムになってリシェに噛まれ、うっかり飲み込まれてみたい。
そしたらあの子の一部になれるだろうに。
ロシュはその場でぼんやりと妄想しながら、酷く幸せそうな顔で突っ立っていた。
休み時間の最中、教室から戻ったオーギュスティンは軽く愚痴を呟いていた。向かい合う席のヴェスカは「んあ?」と顔を上げる。
「ほー、珍しく困ってんすか?」
普段平然としていて生徒らの問題は我関せずというようなイメージが付いてきそうなオーギュスティンだが、意外に生徒の事で頭を抱えるのが新鮮な気がした。
いや、我関せずというのは語弊があるかもしれない。
彼は常に穏やかで、冷静に判断出来る性質だ。生徒らの悩みにもある程度的確に判断してアドバイスを与えるのだろう。彼の悪い話はまず耳にしなかった。
「そういう訳では無いんですけど。言い争っていた生徒が真面目な子達なので意外で」
先程のリシェとスティレンの取っ組み合いの喧嘩を思い出し、彼は椅子に腰を掛けて一息吐いた。
「はは…まぁ、そんなもんですよ。…で、誰と誰がやってたんすか?」
「転校生の二人ですよ。リシェとスティレンの従兄弟同士で…本当に何してるんだか」
大喧嘩なんてするのか…と二人の顔を思い出す。どちらかと言えばスティレンの方は神経質そうで口煩そうな印象だが、一方のリシェは大人しく静かな印象があるだけに取っ組み合いの喧嘩をするなどとは想像し難かった。
従兄弟同士ならばお互い気兼ね無く接する事が出来るのだろう。
「何が原因なんすか?」
オーギュスティンとヴェスカが会話している中、職員室へ戻って来た保健医のロシュは二人の会話に思わず立ち止まった。彼らはそれぞれタイプが違うものの、妙に息が合っている。
元の世界でもお互いそうだったのだから、どうしても噛み合ってしまうのは無理も無いかもしれない。
「リシェが自分で買ってきた新発売のガムを落として探していた目の前で、スティレンがそのガムを勝手に食べていたっていう事から喧嘩が始まったようで」
「ガム!!」
何とくだらない事で喧嘩をしているのか。
それでも本人達は必死なのだろう。大人の世界と違い、子供の世界は狭い。その狭い中での出来事なのだから彼らもムキになってしまう。
「それを止めて来たって事っすか。はぁ、お疲れ様」
「理由を聞いて脱力しましたよ。ガム如きでこんなに大騒ぎするなんて…全く」
ある程度話を盗み聞きし内容を把握したロシュは、それとなくそそっとオーギュスティンの席に近付いた。ぐったりして頭を抱えていた彼は、ロシュの存在に気が付く。
「…何ですか?」
「え?いや…その、あの子の話を耳にしてしまったものですから」
「………」
担任であるオーギュスティンの頭の中では既にロシュは変質者リストのトップに降臨している。リシェの事に関しては特に敏感な彼の手から引き剥がしてやらないとならない。
「特に何も無いので大丈夫ですよ…何か気になる事でも?」
「ガムを従兄弟同士でお互い取り合ってたって位っすけど…どうしたんですか、ロシュ先生?」
続けてヴェスカもロシュに問い掛ける。
「はぁ、ガムですか…」
変に意味深に呟くロシュ。どうしたんすか?と不思議そうなヴェスカに、オーギュスティンは「放っておきなさい」と冷たく返す。
「どうせこの人の事だから、その取り合っているガムになりたいって思ってるに決まってるんです。特定の生徒に対して異常なまでに執着している危険人物なんですから」
長い付き合いの為に嫌というほど彼の性癖が分かるのだ。
「そんな事ありませんけど…」
とは言うものの、そんな彼の表情はどこか恍惚感に満ち溢れていた。
確実に、そのガムの立場になって妄想している顔である。
「えぇ…何か引くんだけど…」
その様子に、正直なヴェスカは自分の気持ちを隠す事なく顰めっ面になった。一方のオーギュスティンは至って普通の顔だ。
「そのうち嫌でも慣れますよ。これでこの人は普通なんですから」
人から羨ましがられるレベルの美形なのに勿体無い。神様は完璧な者を作りたがらないのだろうか。ここまで中身がおかしいのも無いと思う。
「はぁあ…ガムになりたい…」
ガムになってリシェに噛まれ、うっかり飲み込まれてみたい。
そしたらあの子の一部になれるだろうに。
ロシュはその場でぼんやりと妄想しながら、酷く幸せそうな顔で突っ立っていた。
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