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そのきゅうじゅうさん

紙おむつとローション

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 ああ、つまらない。
 スティレンは学生寮の中にある食堂でむしゃくしゃしながら紅茶を嗜んでいた。
 リシェの部屋に行けばラスが出て、もう先輩は寝てるよと門前払いされてしまい、おちょくる相手が居なくなってしまったのだ。
 …大体寝るの早過ぎない!?まだ夜の九時なんだけど!
 温くなってきた紅茶を啜り、彼は苛々とカップを置く。
 食堂で付けっぱなしにしているテレビは大して面白くもないバラエティ番組を垂れ流していて、数人テレビを眺めながら話をしていたがスティレンはそれに参加する気にもなれなかった。
 何が楽しいんだか、と冷静に彼らの様子を見る。
 部屋に戻って本でも読もうかなと思っていると、不意に肩にぽすんと手を置かれた。
「………?」
 気安く触らないでよ、と言いたげにスティレンは背後を見上げる。
「やあ、また会ったね。なかなか顔を見ないからどうしたものかと心配していたよ」
「いっ……!!」
 スティレンはその正体を見るなり思いっきり拒否感を顔に出してしまう。
 無理も無かった。初めて会った際には暇そうだからという理由で好きでもないホラー系やスプラッタ系の映画を強制的に見せられたのだから。
 極めて無表情の青年…ソレイユはスティレンの姿を見るなりすぐに近付いていた。
「暇かい?暇なら僕の部屋で映画でも」
「じっ…冗談じゃないよ!!何で趣味でもない怖いのを見なきゃいけないのさ!?大体あんた職員でしょ!?何で学生寮の中を仕事中でもないのにウロウロしてるんだよ!」
 時間外だろうよ!とスティレンはカッカしながらソレイユに怒鳴った。
 彼はふっと口元に笑みを形作りながら「今日は寮内の巡回の役割が振られているんだ」と返す。
 そして目は笑っていない。
 スティレンはひくひくと顔を引きつらせながら「なら仕事しろ!!」と後退りした。
「もう役割は終わるんだよ」
「うるっさいなあ!だからって俺に声をかけてこないでよ、どうせしょうもない映画を見せられるのは分かってるんだからさあ!!」
「折角新作を借りてきたのに。血みどろジャーキー、戦慄の紙おむつとか」
 ソレイユは真顔で新作のホラー映画のタイトルを告げるが、そのタイトルでは全く中身の予想がつかない。それでもスティレンは嫌だと怒鳴る。
 首を振りながら全然興味が無いよ!と嫌がった。
「何そのタイトル!意味が全然分かんない!一人で見たら!?」
 むしろギャグなのかと聞きたくなるが、それを聞いたら引っ張られそうだ。
「紙おむつが手足を生やして街中を闊歩する話だよ」
「ふざけないでよ!!」
 ソレイユは気に入らないか、と残念そうな顔をした。
「それなら毛虫の行進とかどうかな」
「タイトルからして気持ち悪い!!」
 赤い髪の大男が気絶しそうな映画なのだろう。
 まともなのを見る気は無いの!?と呆れながらスティレンはソレイユを突き離した。
「そうだね…ああ、オススメだと言われて借りたのが一本だけあったね。カティル君がどうしてもとね」
「………」
 他から勧められたものなら、ソレイユが選んだものよりは数倍マシな中身の映画だろう。そうに違いない。
 スティレンは何さと問う。
「絶品濃厚ローション、快楽のうなぎ魔神・穴の奥までチラリズム」
 それは明らかにスティレンの年齢にはそぐわないタイトルと中身だろう。聞くだけ無駄だった。
 真顔でそう告げるソレイユに対し、スティレンは素直に笑みを浮かべながら告げた。
「帰ったら?」
 これも駄目か、と彼は残念そうに肩を落としていた。
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