上 下
87 / 101
そのはちじゅうろく

トップレベルナルシスト

しおりを挟む
 ラスは屋上に持ち寄った雑誌を穴が開く程無言のままで熟読していた。
 一緒に居たスティレンは紙パックのお茶を飲みながら、いつもは退屈そうな顔でパラパラとページをめくっている程度の彼が何故そんなに夢中になっているのかと興味を持つ。
 それまでフェンス越しに下校する生徒らを見下ろしていたのを止め、地べたであぐらをかいているラスに「何か面白い記事でもあった?」と聞いてみた。
 そこでラスはようやく顔を上げると、ふにゃりと表情を緩めた。幼さがまだ残る彼の顔は、大人になりかけた少年の雰囲気をはっきりと振り撒いている。
「好きな相手を効率良く振り向かせる方法だって!」
「へえ…」
 彼の事だからリシェをどう落とすか考えているのだろうが、そうはいかない。一番彼を知っているのは従兄弟である自分なのだ。
 内心スティレンは鼻で笑いながら、彼が真面目に見ている雑誌の項目を覗き込む。
「悩める男子に捧ぐ、気になる女子へのアピり方。…ねぇ、ラス。初っ端から多分間違ってると思うよ」
「えっ」
「どうせあんたの事だからリシェに対してのあれだと思うけどさ。女子でもないし」
 対象が女子ならリシェ相手には効きそうもない。
 しかもゲーセンデートで彼女が欲しいぬいぐるみを取ってあげよう、とか映えるスポットでツーショットで写真を撮るとか、リシェは絶対喜んだりしない。
「あいつが好きな事、良く理解してる?あいつは生まれつきのしょうもない根暗で隠キャ属性なんだよ。他人が賑わう場所はあまり好きじゃない性格さ。じめじめして苔むした奴なんだから、華やかな場所に行くと蒸発するレベルなのさ。あいつへのプレゼントなんて、ペットボトルのキャップとかちり紙でもいい位だよ」
 あまりのぼろくそ加減に、ラスは困惑した顔をした。
「スティレン」
「何さ」
「ほんとに、先輩が好きなの…?」
 ずず、と彼はパックの中のお茶を吸い上げる。
「好きとかじゃなくてさ。あいつは俺が居ないと駄目なんだよ。俺が世話してやらなきゃいけないの。昔からそう決まってるからね。何ていうかな、手元に置いて離しちゃいけないタイプ」
 それは十分分かっているが。
 別にリシェはスティレンが居なくても自分の事は自分でやるだろう。
「じゃあさ、スティレンは世界で誰が一番好きなのさ?」
 その質問に、彼は決まってるでしょ?とさも当たり前のような顔をした。
「そんなの、この俺に決まってるでしょ?見てよ、この美貌。完全に王子様みたいな外見だろ?体型もすらっとしてて細身だし。俺以外に魅力に満ち溢れる人間なんてそうそう居ないと思うよ」
 先程のリシェと比較すれば、何故ここまで明らかに違いが出るのだろう。リシェは落とすだけ落として、自分は自画自賛のレベルをかなり超えている。
 とにかく彼は自分が大好きなのは理解出来た。
 ラスは聞くだけ野暮な気がして、「そっか」とにっこり笑うと、再び雑誌に視線を落とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ヒロインの兄は悪役令嬢推し

西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

処理中です...