82 / 101
そのはちじゅういち
変態・II
しおりを挟む
よろめき、壁際で苦悶の表情を浮かべるロシュを見つけた教師のカティルは、彼の姿を見るなり「ややっ」と驚いて近くまで駆け寄っていた。
「ろ、ロシュ先生!?大丈夫ですか!?」
ロシュは胸を押さえながらカティルに「ええ、まあ」と返事をする。
「具合でも悪くなったのですか?」
「いや、そうじゃないのです。私は至って元気ですよ」
それならどうしてそんなに苦しそうな顔をしているのか、とカティルは不思議そうな顔を向ける。
「随分と苦しげですが…」
「ある意味苦しいのは正解ですけどね…こう、目の前に欲しいものがあるのに手を出せないという状態なので」
その意味深な発言に、カティルはそうかと納得する。
ええ、ええ、分かりますよと彼は頷いた。
「今のあなたは相当な欲求不満と見える」
「まあ、そんな感じですが…」
間違いではない。
「あっ、そうだ。この前渡したドリンク飲みましたぁ?」
今頃思い出したように彼は苦しげなロシュに問う。ドリンクと言われ、頭の中で何だっけと考えていた後にああ、と閃いた。
性欲剤の事だ。
ニコニコと邪気の無い笑みを見ながら、ロシュは首を振った。
「学校では流石に飲めませんよ」
「でしょうねぇ」
でしょうねぇ、じゃない。
ドリンクの正体を理解した上で自分に渡してきたのかとロシュは恨みがましく思った。
確認しておいて良かったと心底思う。元の世界で身につけていた司祭の法衣ならば下はうまく隠されているが、こちらではスーツだと元気になってしまうのがバレてしまうかもしれない。
リシェが目の前に居れば尚更だ。
カティルはよろめいているロシュに対し、何か悩みでもあるのかと問う。
悩みがあっても彼は話を聞くだけで、結果的には何の解決にもならない気がする。ロシュはその親切心はありがたく受け入れながらも、「大丈夫ですよ」と返した。
「簡単に言うと恋煩いのようなものですから」
「恋煩い!!!」
ロシュの言葉を聞き、カティルは素っ頓狂な声を上げて驚いた。そしてずいっと身を乗り出すようにして話を聞きたがる。
「生徒達に人気のあるロシュ先生が、恋煩いですか!」
「人気だなんて…そんな驚くような事でも」
「いやあ、ほら。分かりますよぉ。分かる分かる。私もね、アプローチはするんですがどうも相手が素っ気ないというかね。こちらが仕掛けると倍以上になって返ってくるんですよぉ。困ったものです」
照れ笑いをするカティルに、ロシュは意外そうな顔であなたも誰か好きな相手が居るんですねと問う。
だが仕掛けると倍以上になるとはどういう事なのだろうか。
「倍以上とは?」
「いやあ、例えばですよ。軽くお尻を触ると全力で裏拳してくるとか、何もしないからって言いながらホテルで休もうとしたらエレベーター前で思いっきり蹴飛ばされたりとか。キスをせがもうとすればそのまま頭突きを食らったりとか色々です」
してきた事をスラスラと話す内容が、ことごとく犯罪紛いな行動ばかりでロシュは脱力しそうになった。
いくら自分でもそこまではしない。
相手に同情したくなる行為だ。
「露骨すぎて草も生えませんね」
「そうですかぁ?うーん、私なりに全力で求愛してるんですがねぇ…」
彼は何かがズレているのだろう。
内心困惑しているロシュに対し、カティルは目を輝かせながら「どうですかね?」と話を切り出した。
「私でよければあなたの恋路の相談相手に」
相談相手、と聞いた瞬間。
ロシュは首を振りながら断った。
「いや、お気持ちは嬉しいですが大丈夫です。結構ですよ」
彼のアドバイス通りにすると、むしろ逆効果になる。
ええ…と残念がるカティル。
ロシュは困惑の色を隠せない様子で、だってと返した。
「あなたの求愛方法は完全に変質者のそれですし…」
さすがにまだ若過ぎるリシェに対してやる行動では無い。
…校舎内で事案が発生してしまうのはあまりよろしくはないだろう。
「ろ、ロシュ先生!?大丈夫ですか!?」
ロシュは胸を押さえながらカティルに「ええ、まあ」と返事をする。
「具合でも悪くなったのですか?」
「いや、そうじゃないのです。私は至って元気ですよ」
それならどうしてそんなに苦しそうな顔をしているのか、とカティルは不思議そうな顔を向ける。
「随分と苦しげですが…」
「ある意味苦しいのは正解ですけどね…こう、目の前に欲しいものがあるのに手を出せないという状態なので」
その意味深な発言に、カティルはそうかと納得する。
ええ、ええ、分かりますよと彼は頷いた。
「今のあなたは相当な欲求不満と見える」
「まあ、そんな感じですが…」
間違いではない。
「あっ、そうだ。この前渡したドリンク飲みましたぁ?」
今頃思い出したように彼は苦しげなロシュに問う。ドリンクと言われ、頭の中で何だっけと考えていた後にああ、と閃いた。
性欲剤の事だ。
ニコニコと邪気の無い笑みを見ながら、ロシュは首を振った。
「学校では流石に飲めませんよ」
「でしょうねぇ」
でしょうねぇ、じゃない。
ドリンクの正体を理解した上で自分に渡してきたのかとロシュは恨みがましく思った。
確認しておいて良かったと心底思う。元の世界で身につけていた司祭の法衣ならば下はうまく隠されているが、こちらではスーツだと元気になってしまうのがバレてしまうかもしれない。
リシェが目の前に居れば尚更だ。
カティルはよろめいているロシュに対し、何か悩みでもあるのかと問う。
悩みがあっても彼は話を聞くだけで、結果的には何の解決にもならない気がする。ロシュはその親切心はありがたく受け入れながらも、「大丈夫ですよ」と返した。
「簡単に言うと恋煩いのようなものですから」
「恋煩い!!!」
ロシュの言葉を聞き、カティルは素っ頓狂な声を上げて驚いた。そしてずいっと身を乗り出すようにして話を聞きたがる。
「生徒達に人気のあるロシュ先生が、恋煩いですか!」
「人気だなんて…そんな驚くような事でも」
「いやあ、ほら。分かりますよぉ。分かる分かる。私もね、アプローチはするんですがどうも相手が素っ気ないというかね。こちらが仕掛けると倍以上になって返ってくるんですよぉ。困ったものです」
照れ笑いをするカティルに、ロシュは意外そうな顔であなたも誰か好きな相手が居るんですねと問う。
だが仕掛けると倍以上になるとはどういう事なのだろうか。
「倍以上とは?」
「いやあ、例えばですよ。軽くお尻を触ると全力で裏拳してくるとか、何もしないからって言いながらホテルで休もうとしたらエレベーター前で思いっきり蹴飛ばされたりとか。キスをせがもうとすればそのまま頭突きを食らったりとか色々です」
してきた事をスラスラと話す内容が、ことごとく犯罪紛いな行動ばかりでロシュは脱力しそうになった。
いくら自分でもそこまではしない。
相手に同情したくなる行為だ。
「露骨すぎて草も生えませんね」
「そうですかぁ?うーん、私なりに全力で求愛してるんですがねぇ…」
彼は何かがズレているのだろう。
内心困惑しているロシュに対し、カティルは目を輝かせながら「どうですかね?」と話を切り出した。
「私でよければあなたの恋路の相談相手に」
相談相手、と聞いた瞬間。
ロシュは首を振りながら断った。
「いや、お気持ちは嬉しいですが大丈夫です。結構ですよ」
彼のアドバイス通りにすると、むしろ逆効果になる。
ええ…と残念がるカティル。
ロシュは困惑の色を隠せない様子で、だってと返した。
「あなたの求愛方法は完全に変質者のそれですし…」
さすがにまだ若過ぎるリシェに対してやる行動では無い。
…校舎内で事案が発生してしまうのはあまりよろしくはないだろう。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる