上 下
71 / 101
そのななじゅう

ドゥフッ

しおりを挟む
 一緒に焼肉食べに行くって言ったじゃないですかあああ!!と夜分遅くに部屋に戻ったリシェはラスに泣きつかれていた。
 満足そうなリシェは「お前、ずっとロシュ様と喋ってるから」と完全に定着してしまったロシュの名前を引き出して言い訳をする。
 そこは先生ではないのか。
 ラスは半泣きになりながら「様って何ですか、様って!」と小柄なリシェの体を揺さぶる。
「…?俺、様とか言ったか?」
「言いました!!まるで完全に体に染み付いたようにすらっすらとロシュ様って!」
 何故様付けになったのか、リシェにも自覚が全く無い。
「スティレンに電話しても出ないし!先輩の電話番号知らないし!!」
「だって面倒だから…同じ部屋だし」
 もし教えたりすれば延々と連絡が来そうだった。
 そうなればとにかく面倒になる。
「お、俺って面倒なんですか!」
「面倒」
 連絡する相手はなるべく最小限にしておきたいリシェは、誰でも連絡を取れるようにしたいというラスの気持ちは全く分からないようだ。
 頻繁に無駄話をするのは時間の無駄だと思う彼は「お前にそこまで付き合えないよ」とそっけなく言った。
「そんなあ、先輩!!」
「同じ部屋なんだからいいだろう」
「同じ部屋だからこそ必要でしょう!」
 あれこれ言いあっていると、リシェの制服のポケットから呼び出し音が鳴り響いた。ラスはええっと何故か悲鳴を上げる。
 先輩の番号を知ってるのは誰ですか!と喚くラスを無視し、リシェは携帯電話の画面を眺めた。
「…はい」
 心底面倒そうに応対した後、スピーカーモードに切り替えた。その瞬間、おかしげな会話が部屋中に響き渡る。
 やけに鼻息が荒い。
『やっと繋がったー!!ドゥフッ!俺の可愛いリシェ!!何回電話したと思っていたと思うのでござるかー!』
 ラスはその変な口調に思考が停止した。
『リシェ!?聞いているのですかリシェ!俺に何の断りも無くっ、学び舎を変えるのでは無いのでござるよ!ゴゥフッ』
 どうやら噎せたらしい。
 リシェはうんざりしたように迷惑そうな溜息をついた。しかし電話の声は続く。
『折角リシェの為に可愛いコスプレ衣装を見立てたのに!!家に居ないとはどういうつもりですか!!お兄ちゃんお怒りですよ!もう、プンプン!』
 そのあまりの内容と腹の立つ言い方に、リシェはたちまち機嫌が悪そうな表情を見せていた。
 お兄ちゃん?とラスは呟く。
『今どこに居るのか教えなさーい!見つけ次第お尻ペンペンの刑です!その後用意したコスプレ衣装を着るのです!分かりましたか!!分かったら返事を…』
 忌々しそうにリシェは電話を握り締め、相手側に対して憎しみを込めた口調で返事をした。
「うるさい、死ね!!!」
『お兄ちゃんに向かって死ねは無いです!!それはいくら何でも悲しみますよ!!ちゃんとお兄ちゃんを敬いなさ…』
 ぶちりとそこで電話を切ってしまう。
 はあはあと肩を震わせるリシェに対し、ラスはあまり連絡を取りたがらない理由が分かってきた気がした。
 さすがにこれは連絡したくなくなる。
「…うん…なんか、もういいです。先輩、無理に番号、聞きませんから…」
 ラスはリシェに対して、妙な同情心が湧いてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ヒロインの兄は悪役令嬢推し

西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

処理中です...