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そのごじゅうきゅう

スティレン、キャラメイクだけをする

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 じゃあ自分に作らせて、とスティレンはラスに懇願しゲーム機を引ったくった。キャラメイクは一データにつき三枠作れるが、元々はリシェのゲームなので埋まると彼のサブキャラが作れない。
 そんな事を気にする訳でも無く、スティレンはゲームを動かし始めた。
「自分の名前を使うの?」
「当たり前でしょ!」
「多分、俺が使ってるから使えないよ?重複すると番号とか付いちゃうかも」
 勝手に使っておいて!とスティレンは隣のラスを軽く睨むと「試してみる」と続けた。

『この名前は使われております』
『この中から選びますか?』
『スティレン①』
『スティレン000531』
『スティレンA』

 二人は無言になる。
「ちょっと!何なの、記号とか数字入るとめちゃくちゃダサい!」
 スティレンは文句を垂れた。
「スティレンAって錠剤の胃薬の名前みたいだよね、ふふふ」
「笑わないでよ!」
 自分で言いながら何故かツボに入るラスは、怒るスティレンの隣で腹を抱えながらぶるぶる震えていた。
 もう!と怒りながらスティレンはあだ名ではなく正式の自分の名前を入力した。これは流石にいけるよねと登録する。
「あっは、出来た出来た」
「…っく、ふふふっ…胃に優しい…」
「いつまで笑ってんだよ!!」
 相当ツボにハマったらしい。
 彼はラスを無視し、本名であるウィスティーレで作成したキャラクターの外見登録に進んだ。
 ラスはようやく落ち着き、キャラメイクを楽しむスティレンの操作をチラ見する。
「こだわるねぇ」
「当然でしょ。自分なんだからありったけ美しくしないと」
 試行錯誤を繰り返し、ようやく完成したキャラはリシェやラスが作成したものよりもかなり立派なものが出来上がった。
 完全な美少年が画面に映されているのを見たラスは、へえ…と感心する。
「いいねえ」
「でしょ!」
「で、ここからゲーム進めるんでしょ?」
 ラスの普通の質問にスティレンは「え?」ときょとんとした目でこちらを見返してきた。
「進める?」
「いや、それ単にキャラ作成しただけだし。ゲーム進めていくんじゃないの?」
「やんないよ?」
 当然のように答えた。
「それ、キャラメイクだけのゲームじゃないよ?」
「そうなんだ?でも満足したからいいや」
 どうやらキャラクターだけを作っただけで彼は満足したらしく、ゲーム進行に対して興味が無いようだった。
 そっかあ、とラスは残念そうな顔をする。
「なら俺、このキャラで動かしてみようかなあ」
 勿体ないし、と言う。スティレンはいいよとだけ返した。
「じゃあこの美形キャラ使って、中身がおっさんの美少女をナンパして騙しまくってやろうっと!」
 にこにこしながらラスは陽気に言いだした。
「はああっ!?俺が作ったキャラでそんな事しないでよ!」
 その時ようやくリシェがパン屋の袋を手に部屋に戻ってくる。
「………」
 こちらに全く気付かない様子。
 二人がゲーム機を奪い合う様子を眺めながら、お前ら仲がいいなと無表情のままで呟いていた。
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