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そのさんじゅうなな
薄い本
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豪華な内装に彩られたリムジンの中で、スティレンはサキトにべたべたとくっつかれていた。
運転席と後部座席の間は壁があり、こちら側の様子は小さな小窓からしか確認が出来ない仕様となっているので目線を気にする必要は無い。それを熟知しているのか、サキトはスティレンの足を妙な手つきで優しく触っていた。
「もうっ…何なのさっ、触らないでよ!」
「だってぇ、スティレンと一緒なんだもん…」
「変な事したら速攻で帰るって言ったでしょ!」
「僕にとっては変な事じゃないよ!」
彼には普通の事らしい。
スティレンはうんざりしながら少し彼から離れた。しかしそれに合わせるようにサキトも密着してくる。
…邪魔過ぎる!
罵ってやりたいのを必死に耐えていると、サキトはスティレンを抱きしめ胸元に頬ずりをしていた。
「んん、スティレン…好きぃ…」
俺は嫌だと言えば、彼はどんな反応をするのか。
まるで猫のように甘えるサキト。
「何故俺に目をつけたんですか。俺が美しいからですか」
「んふ。それもあるよぉ」
真っ白く、レースをあしらった特注の制服が良く似合うサキトは可愛らしいドールのような姿で微笑んだ。服のボタンですら刻印入りの物で、かなりのお金をかけて作っているのが分かる。
彼が動くと、ふわりと甘酸っぱい香水の匂いが鼻をつき、こちらにも香りが移りそうだった。
「君と僕は似てると思うの」
「…はあ?」
俺のように魂も気高い人間と、欲望だらけのこいつとどう似てるって言うのさとスティレンは不愉快そうな顔をする。
サキトはぽうっと頰を赤らめながら「似てるんだよぉ」と繰り返した。
「だからねっ、僕は自意識過剰過ぎる君をね、あんな事やこんな事で打ち崩してみたいの…ぼ、僕の手でさぁっ、君がどう乱れちゃうのかっ、はあっ…はあっ、どうしても見たいんだぁ…えっとね、僕はそうっ、攻の立場で行くからっ、君は受の方ね?ああ、早く可愛がってあげたい!」
にじり寄るサキトの体を両腕を使って引き剥がそうとするスティレンは、何の話だよと苛立つ。
とにかく鬱陶しくて堪らない。
「んもうっ、分かるくせにっ。将来エッチな事をする場合の役割に決まってるじゃない!大丈夫、優しくほぐしてあげるから!その前にもちゃあんと勉強しておくからねっ」
ぞわわっ!!とスティレンは背筋が凍りついた。
何故自分がこいつなんかとしなければならないのか。
しかも何故受け手側なのか。
「いっ、嫌です!!何で俺が受ける立場!?痛いの嫌なんだけど!大体、俺の美しい体を傷付けるなんて世界が許すはず無いでしょ!」
普通に世界規模の話に持っていくあたり、スティレンも大概だったが、このような大袈裟な話をしてもサキトは無反応だった。
逆に余計おかしくなってきたのだ。
「いいじゃない。君の美しい体を僕が汚すのさぁ。はあっ、はあっ…んんっ、凄い。凄く滾るものを感じちゃう。今でもしたくなっちゃう」
「ひ…っ!!何だよこの変態!!俺はねぇっ、受ける方は絶対嫌だからね!!痛いのは嫌!!」
「僕だって痛いの嫌だもん。君は大人しく僕の下で組み敷かれて悔しそうによがる姿を見せてくれたらそれでいいのさ。その方が絵的に萌えると思うの。スティレンが涎を垂らしながらひいひい言うのを見たいの!」
彼はそう言うと、席の下から箱を引っ張り出してくる。
スティレンは眉を顰め、何それ…と聞いた。まさか大人の玩具とか、おかしげな道具類を持ち出すのかと戦々恐々とする。
車の中で変態的な行為なんて絶対嫌だ。
ひくひくと身を捩らせていると、サキトはほら!と箱の中身を出して見せてきた。
「…は?」
それは色鮮やかで美しい絵で飾られた冊子の数々。
誰が作ったのかは知らないが、様々な絵柄で作成された、いわゆる【薄い本】だった。
脱力しそうになりつつ、その絵をまじまじと見た。
「君と僕がカップリングになった本なの」
「ああ?」
ついガラの悪い返事をしてしまった。
何で本?と。
「誰が作るんです」
「僕を慕ってくれる人たち!」
そう言いながら中身を開くサキト。その中身はとんでもなくえげつない描写ばかりだった。何故それを本人に作ってよこすのか。
いや、むしろ自分がリシェに対して妄想する内容のままで、何とも言えぬ気分になってしまった。
「実際こうなるのか試してみたいの!」
こいつは本気で馬鹿なのか。馬鹿なのだろう。
スティレンは顔を真っ赤にしながら「いや、無理です」と返す。
「えっ?」
完全なフィクション。妄想の世界。
それを現実にしようなど愚の骨頂だ。
「それ…所詮、絵ですから」
大体、何のつもりで描いたのか。
「え?」
聞き返すサキトに、スティレンは繰り返した。
「絵じゃん…」
所詮、絵なのだ。
運転席と後部座席の間は壁があり、こちら側の様子は小さな小窓からしか確認が出来ない仕様となっているので目線を気にする必要は無い。それを熟知しているのか、サキトはスティレンの足を妙な手つきで優しく触っていた。
「もうっ…何なのさっ、触らないでよ!」
「だってぇ、スティレンと一緒なんだもん…」
「変な事したら速攻で帰るって言ったでしょ!」
「僕にとっては変な事じゃないよ!」
彼には普通の事らしい。
スティレンはうんざりしながら少し彼から離れた。しかしそれに合わせるようにサキトも密着してくる。
…邪魔過ぎる!
罵ってやりたいのを必死に耐えていると、サキトはスティレンを抱きしめ胸元に頬ずりをしていた。
「んん、スティレン…好きぃ…」
俺は嫌だと言えば、彼はどんな反応をするのか。
まるで猫のように甘えるサキト。
「何故俺に目をつけたんですか。俺が美しいからですか」
「んふ。それもあるよぉ」
真っ白く、レースをあしらった特注の制服が良く似合うサキトは可愛らしいドールのような姿で微笑んだ。服のボタンですら刻印入りの物で、かなりのお金をかけて作っているのが分かる。
彼が動くと、ふわりと甘酸っぱい香水の匂いが鼻をつき、こちらにも香りが移りそうだった。
「君と僕は似てると思うの」
「…はあ?」
俺のように魂も気高い人間と、欲望だらけのこいつとどう似てるって言うのさとスティレンは不愉快そうな顔をする。
サキトはぽうっと頰を赤らめながら「似てるんだよぉ」と繰り返した。
「だからねっ、僕は自意識過剰過ぎる君をね、あんな事やこんな事で打ち崩してみたいの…ぼ、僕の手でさぁっ、君がどう乱れちゃうのかっ、はあっ…はあっ、どうしても見たいんだぁ…えっとね、僕はそうっ、攻の立場で行くからっ、君は受の方ね?ああ、早く可愛がってあげたい!」
にじり寄るサキトの体を両腕を使って引き剥がそうとするスティレンは、何の話だよと苛立つ。
とにかく鬱陶しくて堪らない。
「んもうっ、分かるくせにっ。将来エッチな事をする場合の役割に決まってるじゃない!大丈夫、優しくほぐしてあげるから!その前にもちゃあんと勉強しておくからねっ」
ぞわわっ!!とスティレンは背筋が凍りついた。
何故自分がこいつなんかとしなければならないのか。
しかも何故受け手側なのか。
「いっ、嫌です!!何で俺が受ける立場!?痛いの嫌なんだけど!大体、俺の美しい体を傷付けるなんて世界が許すはず無いでしょ!」
普通に世界規模の話に持っていくあたり、スティレンも大概だったが、このような大袈裟な話をしてもサキトは無反応だった。
逆に余計おかしくなってきたのだ。
「いいじゃない。君の美しい体を僕が汚すのさぁ。はあっ、はあっ…んんっ、凄い。凄く滾るものを感じちゃう。今でもしたくなっちゃう」
「ひ…っ!!何だよこの変態!!俺はねぇっ、受ける方は絶対嫌だからね!!痛いのは嫌!!」
「僕だって痛いの嫌だもん。君は大人しく僕の下で組み敷かれて悔しそうによがる姿を見せてくれたらそれでいいのさ。その方が絵的に萌えると思うの。スティレンが涎を垂らしながらひいひい言うのを見たいの!」
彼はそう言うと、席の下から箱を引っ張り出してくる。
スティレンは眉を顰め、何それ…と聞いた。まさか大人の玩具とか、おかしげな道具類を持ち出すのかと戦々恐々とする。
車の中で変態的な行為なんて絶対嫌だ。
ひくひくと身を捩らせていると、サキトはほら!と箱の中身を出して見せてきた。
「…は?」
それは色鮮やかで美しい絵で飾られた冊子の数々。
誰が作ったのかは知らないが、様々な絵柄で作成された、いわゆる【薄い本】だった。
脱力しそうになりつつ、その絵をまじまじと見た。
「君と僕がカップリングになった本なの」
「ああ?」
ついガラの悪い返事をしてしまった。
何で本?と。
「誰が作るんです」
「僕を慕ってくれる人たち!」
そう言いながら中身を開くサキト。その中身はとんでもなくえげつない描写ばかりだった。何故それを本人に作ってよこすのか。
いや、むしろ自分がリシェに対して妄想する内容のままで、何とも言えぬ気分になってしまった。
「実際こうなるのか試してみたいの!」
こいつは本気で馬鹿なのか。馬鹿なのだろう。
スティレンは顔を真っ赤にしながら「いや、無理です」と返す。
「えっ?」
完全なフィクション。妄想の世界。
それを現実にしようなど愚の骨頂だ。
「それ…所詮、絵ですから」
大体、何のつもりで描いたのか。
「え?」
聞き返すサキトに、スティレンは繰り返した。
「絵じゃん…」
所詮、絵なのだ。
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