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そのよんじゅうさん
レナンシェ、応援する
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部屋の扉がノックされる。
ラスが返事をすると、お邪魔しますと言う声と同時に薄い扉が開かれた。最初は職員。続いてあのラスにとっては忌まわしく思う保健医のロシュと、何故かもう一人の教師が入って来た。
「先生方を連れて来たよ」
ラスは不思議そうな面持ちで職員に問う。
「んん?何でレナンシェ先生が?」
ベッドの上に居るリシェは熱でぼんやりしながら、レナンシェ先生という名前に誰だっけと反芻していた。
ああ、そうだ。ナマコ野郎が散々レナンシェ先生とか言っていたな…と思い出す。だが何故彼が全く接点の無い自分の所へ来たのだろうか。
「ロシュ先生の応援で同行したんだよ。だけど居ないものだとして見てくれれば有難いな」
「そ…そうなんですか」
「彼はリシェ君に偉くご執心だ。まさか診察と言いながら如何わしい事をしたりしないかと心配になったんだよ。仮に彼が変な事をしたら止めるつもりだ。彼は美しい外見ながら、中身は歩く顔面性器だからね」
凄まじい言われようだ。
「顔面性器…」
そのパワーワードにラスはつい隣のロシュに目を向ける。
「…あの、そんな事を言われるとひどくやりにくいのでやめて貰えませんかね…とりあえず様子を見ないと症状が分からないので」
荷物を手にロシュはリシェのベッドに近付いた。
「まずは手を洗わせて下さい。洗面所はどちらに?」
「…こっちです」
ライバル視しているロシュに、ラスは室内を案内する。変な感覚だった。彼はこの部屋に向けて吸盤付きの矢文も飛ばしてきた事もあった。そして自分は彼にリシェのものだと偽り未使用の下着を投げ返した事もあるのだ。
流石に、今はどさくさに紛れて部屋を荒らしたりはしないだろうがやはり不安だった。しかしロシュは普通に手洗いをし、手を清潔にした後再びリシェの枕元で膝をつく。
「…リシェ」
ロシュは優しく声をかけた。
リシェはうっすらと瞼を動かし、ロシュを見上げる。
「少し寒いでしょうが、我慢して下さいね」
そう言うと、鞄の中から聴診器を取り出して体の内部の確認を始めた。リシェは直接肌に触れてくるのかと身構えていたが、シャツの上から当てられたので少し安心する。
外気が布団の中に入ると寒気に身震いするが、ひたすら我慢した。同時にジャラジャラと変な音が聞こえてくる。うるさいな…とリシェは思った。
「少し重めの風邪のようですね。熱も解熱剤を渡しておきます。口を開いてみて」
リシェの様子を見続けていたロシュだったが、やたら背後が喧しかった。あまり気にしないようにしていたが、一体何なのだろう。
「…ロシュの、診察が、無事に、終わり、ます、よう、に!!ロシュの、診察が、無事に終わり、ます、よう、にー!!!」
低めのイケボが部屋に響く。
ロシュはぐるりと背後を振り返った。
「何してるんですかあんたは!!」
いきなり祈祷しだすレナンシェ。ラスは反射的にうるさい!と怒鳴った。リシェが休んでいるというのに何をしてくれているのかと。
「いや、彼が無事に生徒の診察を終えてくれるように応援していたんだが…」
「そんな必要無いですよね!てかやかましいですよ!!」
応援ってそういう意味か…とロシュは溜息をつく。
「熱が下がれば次第に回復していきますから、とりあえず解熱剤を数日分渡しておきますね。あと喉が腫れていますから喉の炎症を抑える薬と胃薬も渡しておきます」
普通に診察しているにも関わらず、レナンシェの応援は止まらなかった。
「無事、に、終わり、ます、よう、に!!」
「マジでうるさいから止めて下さい!」
室内に応援が響く中、滞り無く診察は終了する。
ロシュは妙に疲れ切った様子で再び手洗いを済ませると、「帰りますよ」とレナンシェを促した。あれだけ喧しいと変な気も失せてしまった。
先程の必死感はどこへ消えたのか、彼はスッと表情を戻す。
「無事に終わったのかい」
「終わりましたよ。もう恥ずかしくなるから早く帰りましょう」
どうやらロシュも恥の概念を持ち合わせていたようだ。
あれだけ騒いでいたのだから無理も無い。
「…ありがとうございました」
一応、診てくれたのでラスは礼を告げる。リシェも少しは落ち着くだろう。
「じゃあ、安静にしているんだよリシェ君」
職員は二人を連れて部屋から出て行った。まるで嵐が起きた後のような静けさが戻ってくる。ラスはリシェの側に近付くと、大丈夫ですか?と話しかけた。
まだ熱があるリシェは、ぼんやりとラスを見上げながら一言呟く。
「うるさかった…」
…うん。確かにね…。
ラスは黙ってこくりと頷いていた。
ラスが返事をすると、お邪魔しますと言う声と同時に薄い扉が開かれた。最初は職員。続いてあのラスにとっては忌まわしく思う保健医のロシュと、何故かもう一人の教師が入って来た。
「先生方を連れて来たよ」
ラスは不思議そうな面持ちで職員に問う。
「んん?何でレナンシェ先生が?」
ベッドの上に居るリシェは熱でぼんやりしながら、レナンシェ先生という名前に誰だっけと反芻していた。
ああ、そうだ。ナマコ野郎が散々レナンシェ先生とか言っていたな…と思い出す。だが何故彼が全く接点の無い自分の所へ来たのだろうか。
「ロシュ先生の応援で同行したんだよ。だけど居ないものだとして見てくれれば有難いな」
「そ…そうなんですか」
「彼はリシェ君に偉くご執心だ。まさか診察と言いながら如何わしい事をしたりしないかと心配になったんだよ。仮に彼が変な事をしたら止めるつもりだ。彼は美しい外見ながら、中身は歩く顔面性器だからね」
凄まじい言われようだ。
「顔面性器…」
そのパワーワードにラスはつい隣のロシュに目を向ける。
「…あの、そんな事を言われるとひどくやりにくいのでやめて貰えませんかね…とりあえず様子を見ないと症状が分からないので」
荷物を手にロシュはリシェのベッドに近付いた。
「まずは手を洗わせて下さい。洗面所はどちらに?」
「…こっちです」
ライバル視しているロシュに、ラスは室内を案内する。変な感覚だった。彼はこの部屋に向けて吸盤付きの矢文も飛ばしてきた事もあった。そして自分は彼にリシェのものだと偽り未使用の下着を投げ返した事もあるのだ。
流石に、今はどさくさに紛れて部屋を荒らしたりはしないだろうがやはり不安だった。しかしロシュは普通に手洗いをし、手を清潔にした後再びリシェの枕元で膝をつく。
「…リシェ」
ロシュは優しく声をかけた。
リシェはうっすらと瞼を動かし、ロシュを見上げる。
「少し寒いでしょうが、我慢して下さいね」
そう言うと、鞄の中から聴診器を取り出して体の内部の確認を始めた。リシェは直接肌に触れてくるのかと身構えていたが、シャツの上から当てられたので少し安心する。
外気が布団の中に入ると寒気に身震いするが、ひたすら我慢した。同時にジャラジャラと変な音が聞こえてくる。うるさいな…とリシェは思った。
「少し重めの風邪のようですね。熱も解熱剤を渡しておきます。口を開いてみて」
リシェの様子を見続けていたロシュだったが、やたら背後が喧しかった。あまり気にしないようにしていたが、一体何なのだろう。
「…ロシュの、診察が、無事に、終わり、ます、よう、に!!ロシュの、診察が、無事に終わり、ます、よう、にー!!!」
低めのイケボが部屋に響く。
ロシュはぐるりと背後を振り返った。
「何してるんですかあんたは!!」
いきなり祈祷しだすレナンシェ。ラスは反射的にうるさい!と怒鳴った。リシェが休んでいるというのに何をしてくれているのかと。
「いや、彼が無事に生徒の診察を終えてくれるように応援していたんだが…」
「そんな必要無いですよね!てかやかましいですよ!!」
応援ってそういう意味か…とロシュは溜息をつく。
「熱が下がれば次第に回復していきますから、とりあえず解熱剤を数日分渡しておきますね。あと喉が腫れていますから喉の炎症を抑える薬と胃薬も渡しておきます」
普通に診察しているにも関わらず、レナンシェの応援は止まらなかった。
「無事、に、終わり、ます、よう、に!!」
「マジでうるさいから止めて下さい!」
室内に応援が響く中、滞り無く診察は終了する。
ロシュは妙に疲れ切った様子で再び手洗いを済ませると、「帰りますよ」とレナンシェを促した。あれだけ喧しいと変な気も失せてしまった。
先程の必死感はどこへ消えたのか、彼はスッと表情を戻す。
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どうやらロシュも恥の概念を持ち合わせていたようだ。
あれだけ騒いでいたのだから無理も無い。
「…ありがとうございました」
一応、診てくれたのでラスは礼を告げる。リシェも少しは落ち着くだろう。
「じゃあ、安静にしているんだよリシェ君」
職員は二人を連れて部屋から出て行った。まるで嵐が起きた後のような静けさが戻ってくる。ラスはリシェの側に近付くと、大丈夫ですか?と話しかけた。
まだ熱があるリシェは、ぼんやりとラスを見上げながら一言呟く。
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