12 / 101
そのじゅういち
リシェ、騙される
しおりを挟む
ある日の放課後。
個人的に用があり、リシェはラスが迎えに来る前にさっさと教室を抜け出すと単独で街に繰り出していた。
欲しいものがあったのだ。
あらかじめ検索して店の場所を把握していたので大体の道は分かる。あとは無事に目的の物を探すだけだ。
行き交う人々の中をかい潜り、大通りに出る。
交通量も多いだけあり、歩道ですら人だらけだ。路上で品物を広げて商売をする猛者も居る程。
出来るだけぶつからないように気を使いながら歩いていると、不意に誰かにがっつりと腕を掴まれてしまった。
「お前さん」
かくり、と傾く小さな体。
「うわ」
何だ何だ!?とリシェは振り返る。
背後にはフードを被った謎の老婆。
「誰だあんた?」
「私は占い師。お前さん、変なものに憑かれているよ」
低く嗄れた声音がやけに信憑性を増してくる。変なもの、の心当たりがあり過ぎてリシェはぐぐっと返す言葉を失った。
「な、何で分かる?」
びくびくと怯えながら老婆に問うと、彼女はフードの下の口の端を上げて分かるともと言った。
「お前の背後に色んなものが渦巻いているよ」
「い、色んなもの!?」
がーんとショックを受けるリシェ。
ハトに攻撃されたり、変態に懐かれたりするのもそのせいなのだろうか。
「何やら業を持って生まれたようだねぇ…」
「ご、業!?」
よく分からないが、リシェには妙な恐怖感を感じてしまったようだ。老婆は更に続ける。
「お前さんは知らないうちに余計な物を引きつけるタイプなのさ。自分でも分かるだろう?自覚はあるはずさ」
「そりゃ…」
「このままでは大蛇にも好かれてしまうかもしれない」
何故かいきなり大蛇。
胡散臭さが半端無いが、色んなものに懐かれやすい彼には衝撃的な発言だったらしくひいいいと叫びだす。
「大蛇!!!」
「そして見知らぬ者に壺を買わされる羽目になるだろう」
「つ、壺!!!」
そんなものいらない、と涙目になる。
リシェはどうしたらいいのだと老婆に聞いた。
「ふ、そいつは簡単さ」
「な、何だ?」
彼女は背負っていた荷物を下ろすと、リュックの中から小さめの茶色い壺を取り出した。
そしてそれをリシェの前に突き出す。
「!?」
「哀れなお前さんにこの壺を安値で売ってやろう。まだ子供だからね。これがあれば邪気を払ってくれるぞ。どうだ、ん?」
「本当にこれで鬱陶しいのを払ってくれるのか?」
ほぼ涙目のリシェに、老婆はそうだと答えた。
「じゃあ買う。いくらだ?」
「五百で売ってやろう。花でも飾るといい」
「分かった。買う」
これで邪気を払ってくれるのなら安いものである。
お金と壺と交換し、リシェはほっと一安心した。
「良かった。これでいらないものとは別れられるぞ」
その夜。
寮に帰り、リシェはラスに買い物中の出来事を得意げに話していた。それまで黙って聞いていた彼は、苦笑いしながら「先輩」と話を切り出す。
「ん?」
「何で見知らぬ相手から壺を買わされるって脅されたのに、その人から壺を買ったんですか?」
リシェは目が点になった。
「え?」
「いや、壺買ってるじゃないですか。いらないって言ったのに。…先輩騙されてませんか?」
しばらく無言になる。手にしていた壺に目線を落とすと、だらだらと冷や汗を流し始めた。
「かっ…花瓶を買ったんだ」
「さっき壺って言ったじゃないですか」
「壺じゃない」
「いや、壺ですって」
リシェは自分が変な人物にまた引っ掛かってしまった事に気付き、ようやくはらはらと涙を零した。
その様子を見たラスは、可哀想に思いながらも何て可愛いのだろうときゅんとしてしまう。
「ふふ」
つい笑い声を漏らした。
「やっぱり先輩には俺が居ないと駄目なんですよ。俺を出し抜いて街に出ちゃったのが裏目に出ちゃったんですね」
うううとショックで沈み込む彼を、ラスは優しく抱き締める。
…結局リシェが老婆に買わされた怪しい壺は、花瓶として活用する事になった。
個人的に用があり、リシェはラスが迎えに来る前にさっさと教室を抜け出すと単独で街に繰り出していた。
欲しいものがあったのだ。
あらかじめ検索して店の場所を把握していたので大体の道は分かる。あとは無事に目的の物を探すだけだ。
行き交う人々の中をかい潜り、大通りに出る。
交通量も多いだけあり、歩道ですら人だらけだ。路上で品物を広げて商売をする猛者も居る程。
出来るだけぶつからないように気を使いながら歩いていると、不意に誰かにがっつりと腕を掴まれてしまった。
「お前さん」
かくり、と傾く小さな体。
「うわ」
何だ何だ!?とリシェは振り返る。
背後にはフードを被った謎の老婆。
「誰だあんた?」
「私は占い師。お前さん、変なものに憑かれているよ」
低く嗄れた声音がやけに信憑性を増してくる。変なもの、の心当たりがあり過ぎてリシェはぐぐっと返す言葉を失った。
「な、何で分かる?」
びくびくと怯えながら老婆に問うと、彼女はフードの下の口の端を上げて分かるともと言った。
「お前の背後に色んなものが渦巻いているよ」
「い、色んなもの!?」
がーんとショックを受けるリシェ。
ハトに攻撃されたり、変態に懐かれたりするのもそのせいなのだろうか。
「何やら業を持って生まれたようだねぇ…」
「ご、業!?」
よく分からないが、リシェには妙な恐怖感を感じてしまったようだ。老婆は更に続ける。
「お前さんは知らないうちに余計な物を引きつけるタイプなのさ。自分でも分かるだろう?自覚はあるはずさ」
「そりゃ…」
「このままでは大蛇にも好かれてしまうかもしれない」
何故かいきなり大蛇。
胡散臭さが半端無いが、色んなものに懐かれやすい彼には衝撃的な発言だったらしくひいいいと叫びだす。
「大蛇!!!」
「そして見知らぬ者に壺を買わされる羽目になるだろう」
「つ、壺!!!」
そんなものいらない、と涙目になる。
リシェはどうしたらいいのだと老婆に聞いた。
「ふ、そいつは簡単さ」
「な、何だ?」
彼女は背負っていた荷物を下ろすと、リュックの中から小さめの茶色い壺を取り出した。
そしてそれをリシェの前に突き出す。
「!?」
「哀れなお前さんにこの壺を安値で売ってやろう。まだ子供だからね。これがあれば邪気を払ってくれるぞ。どうだ、ん?」
「本当にこれで鬱陶しいのを払ってくれるのか?」
ほぼ涙目のリシェに、老婆はそうだと答えた。
「じゃあ買う。いくらだ?」
「五百で売ってやろう。花でも飾るといい」
「分かった。買う」
これで邪気を払ってくれるのなら安いものである。
お金と壺と交換し、リシェはほっと一安心した。
「良かった。これでいらないものとは別れられるぞ」
その夜。
寮に帰り、リシェはラスに買い物中の出来事を得意げに話していた。それまで黙って聞いていた彼は、苦笑いしながら「先輩」と話を切り出す。
「ん?」
「何で見知らぬ相手から壺を買わされるって脅されたのに、その人から壺を買ったんですか?」
リシェは目が点になった。
「え?」
「いや、壺買ってるじゃないですか。いらないって言ったのに。…先輩騙されてませんか?」
しばらく無言になる。手にしていた壺に目線を落とすと、だらだらと冷や汗を流し始めた。
「かっ…花瓶を買ったんだ」
「さっき壺って言ったじゃないですか」
「壺じゃない」
「いや、壺ですって」
リシェは自分が変な人物にまた引っ掛かってしまった事に気付き、ようやくはらはらと涙を零した。
その様子を見たラスは、可哀想に思いながらも何て可愛いのだろうときゅんとしてしまう。
「ふふ」
つい笑い声を漏らした。
「やっぱり先輩には俺が居ないと駄目なんですよ。俺を出し抜いて街に出ちゃったのが裏目に出ちゃったんですね」
うううとショックで沈み込む彼を、ラスは優しく抱き締める。
…結局リシェが老婆に買わされた怪しい壺は、花瓶として活用する事になった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
異世界学園の中の変な仲間たち3
ひしご
BL
司祭の国の変な仲間たち
https://www.alphapolis.co.jp/novel/791443323/775194431の番外編の3となっています。
本編を読まなくても大丈夫な中身です。
突発的に書いてるので不定期な更新。
前回までのは↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/791443323/347326197です。
中高一貫のアストレーゼン学園。 何故かいつものファンタジーな世界での記憶を持たずに全く色合いが違う世界に飛ばされたキャラクター達。
ただ、向こうの記憶を持ちながら飛ばされた者も居た。
司祭ロシュをこよなく愛する剣士リシェが、全くその記憶が無いまま異質な世界に飛ばされたのをいいことに、彼に憧れる後輩剣士のラスは自分はリシェの恋人だと嘘をつき必死にアピールする。
記憶が無いリシェを、ラスは落とす事が出来るだろうか。
それはもう一つの別の世界の、『アストレーゼン』の話。
元の世界では年上ながらも後輩剣士だったラスが、ひたすらいちゃいちゃと先輩剣士だったリシェを甘やかす話です。ちなみに本編ではラスは稀にしか出ません。
同じ内容でエブリスタでも更新しています。
表紙はヨネヤクモ様です(*´ω`*)
有難うございます!!
尚、画像の無断使用は一切お断りしております
独占欲
誠奈
BL
僕だけを見て欲しいのに……
僕だけを想って欲しいのに……
僕だけのあなたでいて欲しいのに……
※この作品は、前サイトにて公開していたものを、作者名の変更及び、加筆修正して公開しております。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
守護霊は吸血鬼❤
凪子
BL
ごく普通の男子高校生・楠木聖(くすのき・ひじり)は、紅い月の夜に不思議な声に導かれ、祠(ほこら)の封印を解いてしまう。
目の前に現れた青年は、驚く聖にこう告げた。「自分は吸血鬼だ」――と。
冷酷な美貌の吸血鬼はヴァンと名乗り、二百年前の「血の契約」に基づき、いかなるときも好きなだけ聖の血を吸うことができると宣言した。
憑りつかれたままでは、殺されてしまう……!何とかして、この恐ろしい吸血鬼を祓ってしまわないと。
クラスメイトの笹倉由宇(ささくら・ゆう)、除霊師の月代遥(つきしろ・はるか)の協力を得て、聖はヴァンを追い払おうとするが……?
ツンデレ男子高校生と、ドS吸血鬼の物語。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる