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その44 誰も読まないスピンオフ
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『マドモアゼル×マドモアゼル』はぶっちゃけ今までの夕凪くれあ作品と比べると、そう人気は出なかった。でも、『月刊リコリス』のターゲット層以上の年齢に読まれたり、コラボしたコスメやファッションは【まど売れ】と呼ばれるほどに売れたためハイ・キャッスルも少なからず恩恵を受け、『夕凪くれあ史』があれば新境地とか転機と言われるだろう作品にはなった。
アプリは連載終了から半年以上経った今でもこまめにアップデートされ、最新のかわいくなる方法を読者さんたちに届けている。夕凪センセイが応援したかった読者さんにも届いているだろう。
僕に捧げられた“最初で最後のアシスタント”云々の手紙は紙面には掲載されていない。文映舎には送ってない・・からだと思う。うん、そう思いたい。
夕凪センセイが僕の影響を多分に受けたと言いやがる作品なので、散々な結果だと妙に責任を感じてしまうが、これもまあ許される範囲、と思いたい。
夕凪センセイは現在どこにも連載はしていない。引退もしていない。
ついでに言うなら引っ越しもしていない、というか元に戻した。引っ越し屋さんには気の毒としか言いようがない。
プライベートサロン的な美容室等々はレンタルスペースで夕凪センセイが頼んだときだけ使っていたということで、オーナーさん達にはそれぞれ自分の店舗があるという。今度はこちらから行くことになるはずだ。
でも、相変わらず原稿は描いている。
『マドモアゼル×マドモアゼル』は今までとは違って周囲の人全員が幸せになっていない。
穂乃果と岳はせっかくのお近づきになるチャンスを潰されている。
翔真に至ってはれいらと芹那どちらにも振られた上に、兄と芹那がくっついた。芹那が家に来たりとか、2人と街中でばったり会ったりしたら気まずさしかないと思う。
あと、テイラーは意図せずわざとではないけど、弟から芹那を取った形になってることに気が付いたらどうなんだか。
夕凪センセイはそれを気にしていて、発表する場すら全く決まっていない、穂乃果と岳そして翔真をメインとした後日談スピンオフをせっせと描いている。当然、3人は幸せになるはず。夕凪センセイにとって、登場人物は読者さんであり、家族だから応援し、幸せにしないと気がすまないんだよね。
夕凪センセイは読者さんと家族には徹底的に愛を持って接するから。
そして僕は、登場人物は報われてもお金の面では全く報われない気がするその原稿のアシスタントをしている。
まあ、連載時より安いけど橘さんが僕にはごはんつきのバイト料も払ってくれてるし。
『マドモアゼル×マドモアゼル』は僕たちの共同制作作品だしね。
僕以外のアシスタントはありえない。
「…れいら、頼む。」
以前の僕の作業室で、夕凪センセイと机向かい合わせでお仕事。だからもうチャットはなし。センセイの頼みの後すぐ、共有フォルダに新しい原稿が現れる。
「はーいはい。」
適当感満載で答えて、僕は原稿を開こうとした。でもなんか視線を感じて顔を上げる。
じっ、と目の前に座っている夕凪センセイがこっちを見てる。
「なんでしょう?」
ちょっとすました声でしれっと言ってみると、モゴモゴ口を動かすもののはっきりとした言葉は発しない。
へへっ。イケメンのもどかしそうな顔って、見ていて実に良き。
「・・・返事、雑。」
なんとかこれだけ返してきたけど相変わらず短いし、ぶっきらぼう。
アプリではあんなにすらすら、執事みたいに優しく語りかけてくれてたのにな。目の前にいる生身な人間はダメというのは悲しいところ。
まどまどアプリで読者さんを励まし、慰め、一緒に理想の自分になるための道程を同行しているくせに。
アプリのテイラーの声は夕凪センセイなのだ。橘さんとケンカしたセンセイの声を聞いたとき、もしかしてと思ったのだけど、やっぱりそうだった。
1人か長い付き合いでないとああはならないようで、道程は遠い。
「失礼しました、ゴメンナサイ。」
今度はてへっと可愛く愛想よく。
すると夕凪センセイは慌てて執筆に戻る。
これは能力ちからというよりは、現実における経験値の少なさ故な気がするのだけど、夕凪センセイは僕のちょっとした仕草にひとつひとつ反応する。
マンガの世界では恋するキャラたちの運命を握る神的存在なのに、僕以上に恋愛慣れしていないところがかわいい。
僕は頼り甲斐のあるオトナな男の人が好きだったはずなんだけどなあ。
センセイへの気持ちは恋です、って叫んだものの、ちょっとばかり謎は残る。
どう考えたって榎本さんといる方が、なにかと安定した、そう、ココロ穏やかでキラキラした毎日を過ごせる気がするのに。
でも、こんな計算だの周囲との調和だのに構ってられないのが恋なのかもしれない。
テイラーと芹那だって、自分達は思いが叶っていいんだろうけど、他の人達はこの2人の行動のせいで地味に困ってるよね。
自分のことを棚にあげて言うのもなんだけど。
「頑張って描きます。」
ご褒美のように最高の笑顔を、夕凪センセイに向けて最高の角度で見せる。
夕凪センセイはちらりと僕を見て。
こほん、とわざとらしい咳をした。
アプリは連載終了から半年以上経った今でもこまめにアップデートされ、最新のかわいくなる方法を読者さんたちに届けている。夕凪センセイが応援したかった読者さんにも届いているだろう。
僕に捧げられた“最初で最後のアシスタント”云々の手紙は紙面には掲載されていない。文映舎には送ってない・・からだと思う。うん、そう思いたい。
夕凪センセイが僕の影響を多分に受けたと言いやがる作品なので、散々な結果だと妙に責任を感じてしまうが、これもまあ許される範囲、と思いたい。
夕凪センセイは現在どこにも連載はしていない。引退もしていない。
ついでに言うなら引っ越しもしていない、というか元に戻した。引っ越し屋さんには気の毒としか言いようがない。
プライベートサロン的な美容室等々はレンタルスペースで夕凪センセイが頼んだときだけ使っていたということで、オーナーさん達にはそれぞれ自分の店舗があるという。今度はこちらから行くことになるはずだ。
でも、相変わらず原稿は描いている。
『マドモアゼル×マドモアゼル』は今までとは違って周囲の人全員が幸せになっていない。
穂乃果と岳はせっかくのお近づきになるチャンスを潰されている。
翔真に至ってはれいらと芹那どちらにも振られた上に、兄と芹那がくっついた。芹那が家に来たりとか、2人と街中でばったり会ったりしたら気まずさしかないと思う。
あと、テイラーは意図せずわざとではないけど、弟から芹那を取った形になってることに気が付いたらどうなんだか。
夕凪センセイはそれを気にしていて、発表する場すら全く決まっていない、穂乃果と岳そして翔真をメインとした後日談スピンオフをせっせと描いている。当然、3人は幸せになるはず。夕凪センセイにとって、登場人物は読者さんであり、家族だから応援し、幸せにしないと気がすまないんだよね。
夕凪センセイは読者さんと家族には徹底的に愛を持って接するから。
そして僕は、登場人物は報われてもお金の面では全く報われない気がするその原稿のアシスタントをしている。
まあ、連載時より安いけど橘さんが僕にはごはんつきのバイト料も払ってくれてるし。
『マドモアゼル×マドモアゼル』は僕たちの共同制作作品だしね。
僕以外のアシスタントはありえない。
「…れいら、頼む。」
以前の僕の作業室で、夕凪センセイと机向かい合わせでお仕事。だからもうチャットはなし。センセイの頼みの後すぐ、共有フォルダに新しい原稿が現れる。
「はーいはい。」
適当感満載で答えて、僕は原稿を開こうとした。でもなんか視線を感じて顔を上げる。
じっ、と目の前に座っている夕凪センセイがこっちを見てる。
「なんでしょう?」
ちょっとすました声でしれっと言ってみると、モゴモゴ口を動かすもののはっきりとした言葉は発しない。
へへっ。イケメンのもどかしそうな顔って、見ていて実に良き。
「・・・返事、雑。」
なんとかこれだけ返してきたけど相変わらず短いし、ぶっきらぼう。
アプリではあんなにすらすら、執事みたいに優しく語りかけてくれてたのにな。目の前にいる生身な人間はダメというのは悲しいところ。
まどまどアプリで読者さんを励まし、慰め、一緒に理想の自分になるための道程を同行しているくせに。
アプリのテイラーの声は夕凪センセイなのだ。橘さんとケンカしたセンセイの声を聞いたとき、もしかしてと思ったのだけど、やっぱりそうだった。
1人か長い付き合いでないとああはならないようで、道程は遠い。
「失礼しました、ゴメンナサイ。」
今度はてへっと可愛く愛想よく。
すると夕凪センセイは慌てて執筆に戻る。
これは能力ちからというよりは、現実における経験値の少なさ故な気がするのだけど、夕凪センセイは僕のちょっとした仕草にひとつひとつ反応する。
マンガの世界では恋するキャラたちの運命を握る神的存在なのに、僕以上に恋愛慣れしていないところがかわいい。
僕は頼り甲斐のあるオトナな男の人が好きだったはずなんだけどなあ。
センセイへの気持ちは恋です、って叫んだものの、ちょっとばかり謎は残る。
どう考えたって榎本さんといる方が、なにかと安定した、そう、ココロ穏やかでキラキラした毎日を過ごせる気がするのに。
でも、こんな計算だの周囲との調和だのに構ってられないのが恋なのかもしれない。
テイラーと芹那だって、自分達は思いが叶っていいんだろうけど、他の人達はこの2人の行動のせいで地味に困ってるよね。
自分のことを棚にあげて言うのもなんだけど。
「頑張って描きます。」
ご褒美のように最高の笑顔を、夕凪センセイに向けて最高の角度で見せる。
夕凪センセイはちらりと僕を見て。
こほん、とわざとらしい咳をした。
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