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第一章 初心者冒険者編
29話 スラムに起きた一つの奇跡
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「マリアちゃ~ん!」
スラムにロゼの声が響く。
シルトたちがスライムの森から全速力で帰ってきたのである。
すでにスラムへと入っており、マリアたちがいるところまでは後僅かだ。
ロゼの呼びかけでマリアがひょこっと顔をのぞかせ、ロゼたちの姿を確認してパァっと笑顔になる。
これから母親が元気になることを想像しているのだろう。
「おねえちゃん!」
マリアが帰ってきたばかりのロゼに抱き着いた。
嬉しさが抑えきれないようで、目をキラキラと輝かせる。
早くお母さんを元気にしてと言わんばかりだ。
「ただいま、マリアちゃん! 今からお母さんの病気を良くするからね!」
「おかあさんげんきになる?」
「大丈夫よ!」
マリアを一撫でしてから、ロゼはマリアの母親の下へ行く。
容体は相変わらず良くないようで、地面に敷かれた布の上に横たわっている。
早く治療しなければ手遅れになってしまうかもしれない。
ロゼはさっそく作業に取り掛かった。
「今から治療しますから!」
「ありがとう。あなた方には感謝の言葉もありません……」
涙を流し始めるマリアの母。
スラムという環境で心も体も弱ってしまっていたのだろう。
人の優しさに触れたことで、堰を切ったように涙が流れ落ちていく。
「まだ、お礼を言うには早いですよ。元気になってから、マリアちゃんを抱きしめてあげてください。あの子が行動しなければ、私たちもここにはいませんから」
「そう……ですね。ごめんなさい、こんな姿を見せてしまって」
ロゼはマリアの母の涙をハンカチで拭き取ると、メディーカから教わった通りに作業を進めていく。
まずは、睡眠草を用いたお香の準備だ。
治療には痛みが伴うとのことなので、いわゆる麻酔のようなものだろう。
徐々に睡眠草を焚いて、眠りにつきやすい環境を整える。
ある程度、環境が整ったところで、小瓶に入った命の泉から汲んだ水を取り出し、マリアの母に少しずつ飲ませていく。
水が全てマリアの母の喉を通ったころ、ばっちりのタイミングで眠りについたようだ。
後はこのまま時間が経つのを待つだけ……らしいが、本当に効果が出ているのかが見た目からは判断できない。
ただ、眠っているようにしか見えないのだ。
「本当に効いてるのかしら……」
心配になったロゼがマリアの母の体に触れると、
「あつっ……!」
体が燃えるように熱くなっていた。
魔瘴の浄化が始まっているのだろう。
効果は出ているようなので後は、このまま見守るしかない。
命の泉の効果と、マリアの母の体力にかけるだけだ。
ロゼはマリアの母の横に腰かけ、汗を拭きながら、時折水分補給をさせながら目覚める時を待ち続ける。
そのころ、シルトたちは少し離れたところでマリアと遊んでいた。
「おかあさん、だいじょうぶかな?」
「大丈夫だぞ! ロゼに任せておけば必ず元気になるからな!」
そういうとシルトはマリアを抱き上げて高い高いをする。
「きゃー! たかーい!」
『ピィピィ』
はしゃぐマリアの近くをジルが飛び回る。
「わたしもおそらとんでるよ!」
『ピィ』
仲良しな姿を見ると微笑ましい。
シルトたちが森へ行っている間にすっかり意気投合していたみたいだ。
笑顔のマリアを見て、シルトとリヒトは決心する。
ロゼが治療をしている間、マリアに不安な思いをさせないようにすることを。
そして、今後もこの笑顔を護って行けるような冒険者になることを。
それから数時間の時が流れる。
その場にいる誰もが望んだ結末が訪れた瞬間だ。
不治の病が治るという奇跡が、街の一角にあるスラムで起きたのである。
「マリア!」
ロゼに体を支えられながら、マリアの母がシルトたちの下へやってきた。
病み上がりの影響でまだ上手く体が動かせないようだが、時間が解決してくれることだろう。
元気になった母親の姿を見たマリアは、一心不乱に駆けだす。
「おかあさん!」
そして、母親に抱き着いた。
その目からは涙を流している。
ずっと気丈に振る舞っていたマリアだが、ようやく年相応の姿を見せたのだ。
マリアの母も体を屈めてしっかりとマリアを抱きとめる。
ギュッとマリアを抱きしめながら、その目には涙が浮かぶ。
「寂しい思いさせてごめんね……」
「おかあ……さん……」
親子が涙を流して抱きしめ合っている姿はシルトたちの涙腺をも刺激したようだ。
シルトは鼻をすすりながら目頭を手で押さえ、ロゼはハンカチで目元を拭っている。
シルトも服の袖で涙を拭いながら、自分たちの行いが間違いじゃなかったと考えているようだ。
しばらくの間、スラムにはマリアの泣き声が響いていた。
スラムにロゼの声が響く。
シルトたちがスライムの森から全速力で帰ってきたのである。
すでにスラムへと入っており、マリアたちがいるところまでは後僅かだ。
ロゼの呼びかけでマリアがひょこっと顔をのぞかせ、ロゼたちの姿を確認してパァっと笑顔になる。
これから母親が元気になることを想像しているのだろう。
「おねえちゃん!」
マリアが帰ってきたばかりのロゼに抱き着いた。
嬉しさが抑えきれないようで、目をキラキラと輝かせる。
早くお母さんを元気にしてと言わんばかりだ。
「ただいま、マリアちゃん! 今からお母さんの病気を良くするからね!」
「おかあさんげんきになる?」
「大丈夫よ!」
マリアを一撫でしてから、ロゼはマリアの母親の下へ行く。
容体は相変わらず良くないようで、地面に敷かれた布の上に横たわっている。
早く治療しなければ手遅れになってしまうかもしれない。
ロゼはさっそく作業に取り掛かった。
「今から治療しますから!」
「ありがとう。あなた方には感謝の言葉もありません……」
涙を流し始めるマリアの母。
スラムという環境で心も体も弱ってしまっていたのだろう。
人の優しさに触れたことで、堰を切ったように涙が流れ落ちていく。
「まだ、お礼を言うには早いですよ。元気になってから、マリアちゃんを抱きしめてあげてください。あの子が行動しなければ、私たちもここにはいませんから」
「そう……ですね。ごめんなさい、こんな姿を見せてしまって」
ロゼはマリアの母の涙をハンカチで拭き取ると、メディーカから教わった通りに作業を進めていく。
まずは、睡眠草を用いたお香の準備だ。
治療には痛みが伴うとのことなので、いわゆる麻酔のようなものだろう。
徐々に睡眠草を焚いて、眠りにつきやすい環境を整える。
ある程度、環境が整ったところで、小瓶に入った命の泉から汲んだ水を取り出し、マリアの母に少しずつ飲ませていく。
水が全てマリアの母の喉を通ったころ、ばっちりのタイミングで眠りについたようだ。
後はこのまま時間が経つのを待つだけ……らしいが、本当に効果が出ているのかが見た目からは判断できない。
ただ、眠っているようにしか見えないのだ。
「本当に効いてるのかしら……」
心配になったロゼがマリアの母の体に触れると、
「あつっ……!」
体が燃えるように熱くなっていた。
魔瘴の浄化が始まっているのだろう。
効果は出ているようなので後は、このまま見守るしかない。
命の泉の効果と、マリアの母の体力にかけるだけだ。
ロゼはマリアの母の横に腰かけ、汗を拭きながら、時折水分補給をさせながら目覚める時を待ち続ける。
そのころ、シルトたちは少し離れたところでマリアと遊んでいた。
「おかあさん、だいじょうぶかな?」
「大丈夫だぞ! ロゼに任せておけば必ず元気になるからな!」
そういうとシルトはマリアを抱き上げて高い高いをする。
「きゃー! たかーい!」
『ピィピィ』
はしゃぐマリアの近くをジルが飛び回る。
「わたしもおそらとんでるよ!」
『ピィ』
仲良しな姿を見ると微笑ましい。
シルトたちが森へ行っている間にすっかり意気投合していたみたいだ。
笑顔のマリアを見て、シルトとリヒトは決心する。
ロゼが治療をしている間、マリアに不安な思いをさせないようにすることを。
そして、今後もこの笑顔を護って行けるような冒険者になることを。
それから数時間の時が流れる。
その場にいる誰もが望んだ結末が訪れた瞬間だ。
不治の病が治るという奇跡が、街の一角にあるスラムで起きたのである。
「マリア!」
ロゼに体を支えられながら、マリアの母がシルトたちの下へやってきた。
病み上がりの影響でまだ上手く体が動かせないようだが、時間が解決してくれることだろう。
元気になった母親の姿を見たマリアは、一心不乱に駆けだす。
「おかあさん!」
そして、母親に抱き着いた。
その目からは涙を流している。
ずっと気丈に振る舞っていたマリアだが、ようやく年相応の姿を見せたのだ。
マリアの母も体を屈めてしっかりとマリアを抱きとめる。
ギュッとマリアを抱きしめながら、その目には涙が浮かぶ。
「寂しい思いさせてごめんね……」
「おかあ……さん……」
親子が涙を流して抱きしめ合っている姿はシルトたちの涙腺をも刺激したようだ。
シルトは鼻をすすりながら目頭を手で押さえ、ロゼはハンカチで目元を拭っている。
シルトも服の袖で涙を拭いながら、自分たちの行いが間違いじゃなかったと考えているようだ。
しばらくの間、スラムにはマリアの泣き声が響いていた。
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