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お約束

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 翌朝、「黄金の獅子亭」のカイトの部屋に「明けの空」のメンバーが集まっている、当然僕もいる。
 毎朝こうして集まって今日の予定の確認やメンバーの体調確認などするらしい。どこのパーティーもそうというわけではなく、カイトがマメなだけというのはミラルドの言葉である。
 今日のメンバーの予定はカイトとツキヨが昨日の依頼で狩った魔物の素材を売りに、ケインズとミラルド、ハンガンはオフらしい。そしてノルン、ビリオン、フォノム、僕は――

「観光する予定がなんで依頼受けることになったんだ……」
「仕方ない、イヴは昨日の驕り分払ってない」

 昨日、素材を汚して値を下げた罰としてメンバー全員に驕りのはずが払うことが出来なくてノルンにお金を借りている状態にある。しかし決してお金を持っていなかったわけではない。
 インベントリの中にはちゃんとゲーム内通貨が存在した。異世界データベースにも硬貨は「オルファナオンライン」時代と変わっていないとなっていたのでそれを使おうと思っていた、しかし――

「わ、わたし、聖金貨なんて初めてみました」
「俺も……やっぱトンデモナイっすね、イヴさん」

 古参ガチ勢である僕の持つ硬貨は、1枚で街1つの年間運営予算の半分になる聖金貨しかなかったのである。
 会計時、それを出そうとするとカイトとフォノムから全力で止められ、どうするか悩んでいる間にノルンが会計を済ませてしまっていた。
 ちなみに硬貨の種類は価値の高い順に、聖金貨、白金貨、金貨、銀貨、銅貨で、昨日の会計は個室代込みで銀貨25枚に銅貨33枚だった。

「釣りはいらないからこれで何とかならない?」
「持ってるだけで狙われるような硬貨持ちたくないわよ」
「じゃあギルドで両替とか――」
「どこのギルドが事前の予約もなく聖金貨なんて両替してくれるの? イヴ、あなたそういう世間の常識がないんだから、持っているお金はないもとして一から稼ぎなさい」

 そんなやり取りをしながらギルドへと向かった。
 ギルドに着くと昨日は見かけなかった多くの人が受付に並んでいる。
 そして掲示板にはもう数えれるほどしか依頼用紙が残されていなかった。
 残された依頼を四人で物色していると後ろから声がかかる。

「おっすビリオン。明けの空は二日連続出遅れかよ」
「ユースタさんちわーっす。うちは今日ほとんどのメンバーがオフなんで残り物でいいんすよ」
「そーかい……。そっちの人形みたいな美人ちゃんは新人か?」
「昨日入った新人のイヴさんっすよ。こう見えてちゃんとついてる・・・・人なんで気を付けた方がいいっすよ。俺も昨日騙されて泣きみましたから」
「マジかよ。神様は勿体ないことするよなぁ……。まぁがんばれよ、じゃあなカイトによろしく」
「うっす」

 ビリオンが話ていたユースタと呼ばれるターバンを巻いた男は、パーティー「風の竪琴」のリーダーだとノルンが教えてくれた。この街をホームにしているパーティーで、カイトがこの街のパーティーへの挨拶周りをした際、いまどき珍しいやつだと気に入ってそれ以来「明けの空」を目にかけてくれているそうだ。

 しばらくの間残された依頼を見比べていた僕達だったが、外部からの依頼は割に合わないものしか残っていないかったのもあってギルドからの依頼の野草の収集依頼を受けることにした。
 ビリオンとフォノムは昨日も野草収集をしていたらしく、ビリオンは「今日も草むしりかよ……」と小声で嘆いていた。
 ランクの一番高いノルンが代表して受付に向かう。先ほどの長い列はもうないがそれでも多少時間がかかるようだ。
 フォノムはその間に収集袋と人数分の鎌を借りてくると受付と別にある窓口に向かって行き、ビリオンは使い捨ての手袋買うと言って奥にある売店に向かった。
 一人残された僕が三人の向かった先をそれぞれ見ていると、突然背中に勢いよくなにかがぶつかってきた。
 振り返るとそこには――

「そんなとこに突っ立ってたらあぶねぇじゃねぇか! てめぇ俺様が誰かわかってんのか!? あぁ?」

 顔を赤くして怒鳴ってきた無精ひげの男、そしてそれをニヤニヤしながら見ている縦にも横にも大きなスキンヘッドの男と身長の低いガリガリの出っ歯の男。
 三人組でこのパターンは間違いなく、お約束というやつだ。
 昨日のカイト達の反応を見るに今の僕はそこそこ強いはずだ、ならばこの場合相手を圧倒してやった方がいいのだろうか? しかしこのパターンで相手の方が強かったら恥ずかしいよな……などと考えていると、三人組が僕を囲み距離を詰めてくる。

「てめぇ、兄貴にぶつかっておいてなに無視してくれてんだよ」
「あ、兄貴。こいつめっちゃくちゃ美人ですぜ」
「なにぃ? ほんとだコイツは上玉だ。なぁ嬢ちゃん、人様にぶつかっておいてダンマリってのはないだろう? 俺様が礼儀ってやつを教えてやるよ、一日かけてたっぷりとな」

 そう言って、無精ひげの男がゆっくりと僕に手を伸ばしてくる。
 避けるのは簡単だ。キャスターなら必修である回避術は習得している、魔封じの服を着ていても油断しきった汚い手を躱すくらい問題ない。
 しかし、僕はさっきから気になっていることがある。それは、この三人組が示し合わせたかのように会話を淡々進めていくこと、三人組の棒読み口調とわざとらしすぎる身振り、そして少し離れたところに見える三人組がぶつかってくる前から・・・介入するタイミングを計っている金髪ロン毛の男。
 僕は残念さのあまりに一つ深いため息をついてから無精ひげの男の伸ばしてくる手を握手するように握って一言だけ言った。

「後ろの方にいる貴方の仲間なのか雇い主の人なのかはわかりませんが伝えて下さい、僕は男です、と」

 握手は少しだけお約束感を味わえたことへの感謝だ。
 そして僕は呆然とする三人組の間を抜けて、いつの間にか揃っていたノルン、フォノム、ビリオンに合流してギルドを出発した。
 扉のところで一度振り返ると、金髪ロン毛の男は先ほどの三人組になにかを聞いて大げさに驚いているのが見えた。
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