39 / 39
38 最終回
しおりを挟む
今日は待ちに待った結婚式。
ロイドが学院を卒業して、六か月。長かった。
ちなみに魔石列車はまだ走っていない。魔石だと高価なので石炭を使う話も出ているらしいけど、石炭だと空気が悪くなるとか、顔が真っ黒になるとか問題が山積みらしい。
でもエドと兄が力を合わせているから、私とロイドが暮らすことになる領地で魔石列車を目にする日も近いだろう。
両親から贈られたティアラを頭にのせて、白いドレスを着た私は一番の幸せ者だ。
このティアラは私のために作られた一点もの。私を見つけた日に急いで作らせたとか。貴族では女の子が生まれたら両親が作るらしい。アンナのために作らせたものはどうなったのかは聞くことができなかった。
妖精のアオは今朝も私の部屋に来て、『私のおかげよ。感謝しなさい!』とのたまっていたけど、兄の姿を見た途端にいつものように消えてしまった。どうも兄のことが苦手みたいで笑ってしまう。
アオの慌てた姿を思い出して笑っているとロイドが不思議な顔をした。
「どうかした?」
「ううん。みんなが祝ってくれているのがうれしいなって思って」
私たちの結婚を祝福してくれる家族や友人たちを見ながら言った。
「そうだね。アネットは庶民の家族も呼びたかったんじゃない?」
「それはないわ。この場に呼んだりしたらかえって困らせてしまうもの」
貴族しかいないこの場で、庶民の家族は浮くだけだ。
「そうか」
「そうよ」
庶民の時の家族のことは今でも大事だけど、今の家族も大事に思っている。どちらかなんて選べない。これはアンナも同じだと思う。私が結婚したことはアンナから聞いているだろうから、前の家族もきっと喜んでくれているだろう。
一度だけ父さんが謝りに来た。学院の門で待っていたのだ。
「すまなかった」
父さんが発した言葉は一言だけだった。私は父さんを見ることなく迎えに来ていた馬車に乗った。
馬車の中で私は泣いた。父さんのことを許せるかと聞かれたら、許すことなどないと言える。父さんだって被害者だったのだから。一生懸命、家族になろうと努力していたことも知っている。でも私は言葉を掛けることができなかった。父さんとはそれっきり会っていない。
もっと時が過ぎたら、手紙でも書こうかなって思う。
「さあ、行こう」
「ええ」
今から集まってくれた皆に挨拶をするのだ。
差し伸べられたロイドの手に自分の手をのせて歩き出す。未来へ向かって……。
ロイドが学院を卒業して、六か月。長かった。
ちなみに魔石列車はまだ走っていない。魔石だと高価なので石炭を使う話も出ているらしいけど、石炭だと空気が悪くなるとか、顔が真っ黒になるとか問題が山積みらしい。
でもエドと兄が力を合わせているから、私とロイドが暮らすことになる領地で魔石列車を目にする日も近いだろう。
両親から贈られたティアラを頭にのせて、白いドレスを着た私は一番の幸せ者だ。
このティアラは私のために作られた一点もの。私を見つけた日に急いで作らせたとか。貴族では女の子が生まれたら両親が作るらしい。アンナのために作らせたものはどうなったのかは聞くことができなかった。
妖精のアオは今朝も私の部屋に来て、『私のおかげよ。感謝しなさい!』とのたまっていたけど、兄の姿を見た途端にいつものように消えてしまった。どうも兄のことが苦手みたいで笑ってしまう。
アオの慌てた姿を思い出して笑っているとロイドが不思議な顔をした。
「どうかした?」
「ううん。みんなが祝ってくれているのがうれしいなって思って」
私たちの結婚を祝福してくれる家族や友人たちを見ながら言った。
「そうだね。アネットは庶民の家族も呼びたかったんじゃない?」
「それはないわ。この場に呼んだりしたらかえって困らせてしまうもの」
貴族しかいないこの場で、庶民の家族は浮くだけだ。
「そうか」
「そうよ」
庶民の時の家族のことは今でも大事だけど、今の家族も大事に思っている。どちらかなんて選べない。これはアンナも同じだと思う。私が結婚したことはアンナから聞いているだろうから、前の家族もきっと喜んでくれているだろう。
一度だけ父さんが謝りに来た。学院の門で待っていたのだ。
「すまなかった」
父さんが発した言葉は一言だけだった。私は父さんを見ることなく迎えに来ていた馬車に乗った。
馬車の中で私は泣いた。父さんのことを許せるかと聞かれたら、許すことなどないと言える。父さんだって被害者だったのだから。一生懸命、家族になろうと努力していたことも知っている。でも私は言葉を掛けることができなかった。父さんとはそれっきり会っていない。
もっと時が過ぎたら、手紙でも書こうかなって思う。
「さあ、行こう」
「ええ」
今から集まってくれた皆に挨拶をするのだ。
差し伸べられたロイドの手に自分の手をのせて歩き出す。未来へ向かって……。
0
お気に入りに追加
136
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
逃がす気は更々ない
棗
恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。
リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。
※なろうさんにも公開中。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】
Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。
でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?!
感謝を込めて別世界で転生することに!
めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外?
しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?!
どうなる?私の人生!
※R15は保険です。
※しれっと改正することがあります。
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる