上 下
33 / 39

32 ロイドside 2

しおりを挟む
「別れるってどういうことですか?」

 アネットの話ではヘンリー様は僕たちの見方だと言っていたのに、全く話が違うではないか。でも内心ではやっぱりと思っていた。侯爵家が子爵家の三男との結婚を賛成するはずがないのだ。

「そのままの意味だ。別れてくれるのなら何でも用意しよう。お金でも地位でも望みのままだ」
「こんなことアネットが知れば悲しみますよ」
「アネットに知られなければ問題なかろう。君と会えなくなればしばらくは悲しむだろうが、時が経てば忘れるだろう。君だってそうだ。駆け落ちなんて若気の至りでするものではない。いつか後悔するようなことをする前に私からの提案に乗ったほうが得だと少し考えればわかることだ」

 確かに僕は若い。もしかしたら彼の言うように将来このことを後悔するかもしれない。でもそれは僕がアネットを幸せにできなかった時だ。僕と別れることが彼女の本当の幸せだってどうしてわかる? そんなのは神様にしかわからないことだ。

「金も名誉も彼女の代わりにはなりません。あなたが反対しても僕は諦めません」
「就職先がなくなるかもしれないぞ」
「他を探します。この国で無理なら他国に行っても良い」
「アネットの力をあてにしているのか?」
「僕たちは二人で協力して生活していきますよ。彼女だって僕一人に任せるような人ではないから自分も働くと言うでしょう。でもそれが悪いとは思いませんし、あてにしているわけでもないですよ」

 ヘンリー様は笑った。上品な取り澄ましたような笑いではない。心の底から笑っているようだ。

「君はおかしな奴だな。貴族として育ったとは思えないほどだ。アネットが選んだだけある。先ほどの話君を試しただけだ。悪かった。調べた限りアネットを騙しているようではなかったが、それでも念には念をいれておかないとね」
「えっと…」

 話が見えない。

「合格だということだ。君をアネットの婿としてセネット家の嫡男である私が認めたということだ」

 なにがなんだかわからない。けれど先ほどまでとは違って友好的な表情のヘンリー様を見て僕の方も力を抜くことができた。
 彼に認められたということはアネットとの未来が開けたということだ。もう駆け落ちなんてしなくても良いってことか?
 でもとにかくお礼だけは言っておいたほうがいいよな。

「あ、ありがとうございます」
「まあ、両親を説得できるかどうかは運次第だがな」

 あっ、やっぱりそうですよね。はぁ、一難去ってまた一難かぁ。

「心配するな。私も手を貸してやるから」
「はい、お願いします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する貴方はいつもあの子の元へと駆け付けてしまう~私を愛しているというのは嘘だったの?~

恋愛
熱烈なアプローチを受け、アッシュと付き合う事になったシェリー。 今日もアッシュとのデートのはずが、待ち合わせに現れたのはアッシュと幼馴染のミレル。 いつもそうよ。 アッシュ。あんなに私を愛していると言ってくれたのは嘘だったの?

【完結】苦しく身を焦がす思いの果て

猫石
恋愛
アルフレッド王太子殿下の正妃として3年。 私達は政略結婚という垣根を越え、仲睦まじく暮らしてきたつもりだった。 しかし彼は王太子であるがため、側妃が迎え入れられることになった。 愛しているのは私だけ。 そう言ってくださる殿下の愛を疑ったことはない。 けれど、私の心は……。 ★作者の息抜き作品です。 ★ゆる・ふわ設定ですので気楽にお読みください。 ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様にも公開しています。

虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「オリビア・クリフォード子爵令嬢。おめでとうございます。竜魔王の生贄に選ばれました!」亡国の令嬢オリビアは隣国のエレジア国に保護され、王太子クリストファと婚約者を結んでいたが、叔父夫婦に虐げられ奴隷のように働かされていた。仕事の目途が付きそうになった矢先、突如グラシェ国の竜魔王の生贄として放り出されてしまう。死を覚悟してグラシェ国に赴いたのだが、そこで待っていたのは竜魔王代行、王弟セドリックだった。出会った瞬間に熱烈な求婚、さらに城の総出で歓迎ムードに。困惑するオリビアは、グラシェ国の使用人や侍女、城の者たちの優しさに裏があるのではないかと警戒するのだが、セドリックの溺愛ぶりに少しずつ心を開いていく。そんな中、エレジア国はオリビアの有能さに気付き、取り戻せないか画策するのだが。 これは「誰からも愛されていない」と絶望しかけた令嬢が、甘え上手の王弟に愛されまくって幸せになるまでのお話。 ※甘々展開のハッピーエンドです(糖分高めミルクティーにハチミツたっぷり+お砂糖五杯ぐらい)。※ざまあ要素在り。※全26話想定(一話分の文章量が多いので話数を修正しました)。※R15は保険です。 《主な登場人物》 オリビア(19) フィデス王国(亡国)の令嬢。エレジア国クリストファ殿下と婚約。 付与魔法と錬金術が使える。 クリストファ  エレジア国王太子 オリビアと婚約をしていた。 セドリック  グラシェ国竜魔王代行、王弟。オリビアに求愛。  オリビア<<<<<<<<<<<<セドリック 聖女エレノア  エレジア国の聖女。異世界の知識がある?

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう

凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。 私は、恋に夢中で何も見えていなかった。 だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か なかったの。 ※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。 2022/9/5 隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。 お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

(完結)妹に婚約者を譲れと言われた。まあ、色ボケ婚約者だったので構わないのですが、このままでは先が不安なので、私は他国へ逃げます

にがりの少なかった豆腐
恋愛
※後半に追加していた閑話を本来の位置へ移動させました ―――――――――― 私の婚約が正式に決まる前日の夜。何かにつけて私の物を欲しがる妹が私の婚約者が欲しいと言い放った。 さすがに婚約について私がどうこう言う権利はないので、私に言われても無理と返す。 しかし、要領がいい妹は何をしたのか、私から婚約者を奪うことに成功してしまった。 元より婚約に乗り気でなかった私は内面では喜びで溢れていた。何せ相手は色ボケで有名な第2王子だったのだから。 そして、第2王子と妹の婚約が正式に発表された後、私に関する根も葉もない悪い噂が流れ始めました。 このままでは、私がこの国で暮していけばどうあっても先は暗いでしょう。親も助ける気は無いようですし、ならばさっさとどこかへ逃げ出した方が良いかもしれませんね。 そうして私は他国の知人を頼りに、人知れず国を出ることにしました。 ※この世界には魔法が存在します ※人物紹介を追加しました。

処理中です...