32 / 39
31 ロイドside 1
しおりを挟む
アネットが乗った馬車を見送るとその馬車を追うように走らせている馬車を見てため息をついた。
やはりアネットには監視がついていたようだ。何故僕との逢瀬の邪魔をしなかったのか気になるところだ。本当に彼女の兄であるヘンリー様は僕との結婚に賛成だというのだろうか。
とてもアネットのことを可愛がっているという噂は嘘だったのか。いや可愛がりすぎて妹のわがままを何でも聞いているということもあるのか。
(まあ、いいか。もしダメだったとしても駆け落ちという手もある)
先ほどはアネットに駆け落ちだけは駄目だと言ったけど、僕は三男だし家のことさえ気にしなければ、学院を卒業と同時に決行すれば就職先である先輩の家にも迷惑をかけないですむだろう。
アネットが僕を選んでくれるというのなら遠慮はしない。
アネットの幸せを考えて諦めていたけど、僕はやっぱり彼女が好きだ。いつだって、前向きで明るい彼女とならどこでだって暮らしていける。
アネットの『癒しの魔法』があればお金の心配はないけど、あれを使う気はない。あれを使えばすぐに居場所がばれてしまう。となるとやっぱり冒険者にでもなるか。いや、冒険者は命の危険があるからアネットが危険だ。
あれこれと悩んでいたら声を掛けられた。
「ロイド君、話をしたいのだが時間は構わないかい?」
アネットの兄であるヘンリー様が目の前にいた。あれ? もしかしてこの兄も監視している人と一緒にいたのかな。全部見られていたのか?
「か、構いません」
「そうか、ならこの馬車に乗ってくれ」
ヘンリー様に促されるままに馬車に乗り込む。
「いつもアネットが世話になっている」
「いえ、世話になんて…」
「いや、アネットから聞いているよ。庶民時代のことは。弟が死にそうなときに助けてくれたのは君だけだったと。そして君のおかげで魔法を学べたし『癒しの魔法』も使えるようになったと」
「それは全部アネットのド努力の結果です。アネットが神殿の門番に必死に頭を下げている場面を見なかったら、僕は動かなかった。貴重なポーションを提供しようと思わせたのはアネットの真摯に弟を想っている姿を見たからです。間所は家族の生活を支えるために魔法を教えてほしいと言いました。自分のことだけしか考えていない周りの友達たちとは違って新鮮でした。僕の方こそアネットに色々なことを教わったと思っています」
「そうか。そう思ってくれているのなら良かった。それなら君はアネットのためになら身を引いてくれるね」
えっ? 兄のヘンリー様は賛成してくれるとアネットは言っていたのに。これはどういうことなんだ。
僕の目の前で微笑んでいる、アネットに似ているのに、感情が全部顔に出るアネットとは全く違うヘンリー様の顔を呆然と見つめていた。
やはりアネットには監視がついていたようだ。何故僕との逢瀬の邪魔をしなかったのか気になるところだ。本当に彼女の兄であるヘンリー様は僕との結婚に賛成だというのだろうか。
とてもアネットのことを可愛がっているという噂は嘘だったのか。いや可愛がりすぎて妹のわがままを何でも聞いているということもあるのか。
(まあ、いいか。もしダメだったとしても駆け落ちという手もある)
先ほどはアネットに駆け落ちだけは駄目だと言ったけど、僕は三男だし家のことさえ気にしなければ、学院を卒業と同時に決行すれば就職先である先輩の家にも迷惑をかけないですむだろう。
アネットが僕を選んでくれるというのなら遠慮はしない。
アネットの幸せを考えて諦めていたけど、僕はやっぱり彼女が好きだ。いつだって、前向きで明るい彼女とならどこでだって暮らしていける。
アネットの『癒しの魔法』があればお金の心配はないけど、あれを使う気はない。あれを使えばすぐに居場所がばれてしまう。となるとやっぱり冒険者にでもなるか。いや、冒険者は命の危険があるからアネットが危険だ。
あれこれと悩んでいたら声を掛けられた。
「ロイド君、話をしたいのだが時間は構わないかい?」
アネットの兄であるヘンリー様が目の前にいた。あれ? もしかしてこの兄も監視している人と一緒にいたのかな。全部見られていたのか?
「か、構いません」
「そうか、ならこの馬車に乗ってくれ」
ヘンリー様に促されるままに馬車に乗り込む。
「いつもアネットが世話になっている」
「いえ、世話になんて…」
「いや、アネットから聞いているよ。庶民時代のことは。弟が死にそうなときに助けてくれたのは君だけだったと。そして君のおかげで魔法を学べたし『癒しの魔法』も使えるようになったと」
「それは全部アネットのド努力の結果です。アネットが神殿の門番に必死に頭を下げている場面を見なかったら、僕は動かなかった。貴重なポーションを提供しようと思わせたのはアネットの真摯に弟を想っている姿を見たからです。間所は家族の生活を支えるために魔法を教えてほしいと言いました。自分のことだけしか考えていない周りの友達たちとは違って新鮮でした。僕の方こそアネットに色々なことを教わったと思っています」
「そうか。そう思ってくれているのなら良かった。それなら君はアネットのためになら身を引いてくれるね」
えっ? 兄のヘンリー様は賛成してくれるとアネットは言っていたのに。これはどういうことなんだ。
僕の目の前で微笑んでいる、アネットに似ているのに、感情が全部顔に出るアネットとは全く違うヘンリー様の顔を呆然と見つめていた。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
愛する貴方はいつもあの子の元へと駆け付けてしまう~私を愛しているというのは嘘だったの?~
乙
恋愛
熱烈なアプローチを受け、アッシュと付き合う事になったシェリー。
今日もアッシュとのデートのはずが、待ち合わせに現れたのはアッシュと幼馴染のミレル。
いつもそうよ。
アッシュ。あんなに私を愛していると言ってくれたのは嘘だったの?
【完結】苦しく身を焦がす思いの果て
猫石
恋愛
アルフレッド王太子殿下の正妃として3年。
私達は政略結婚という垣根を越え、仲睦まじく暮らしてきたつもりだった。
しかし彼は王太子であるがため、側妃が迎え入れられることになった。
愛しているのは私だけ。
そう言ってくださる殿下の愛を疑ったことはない。
けれど、私の心は……。
★作者の息抜き作品です。
★ゆる・ふわ設定ですので気楽にお読みください。
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様にも公開しています。
虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「オリビア・クリフォード子爵令嬢。おめでとうございます。竜魔王の生贄に選ばれました!」亡国の令嬢オリビアは隣国のエレジア国に保護され、王太子クリストファと婚約者を結んでいたが、叔父夫婦に虐げられ奴隷のように働かされていた。仕事の目途が付きそうになった矢先、突如グラシェ国の竜魔王の生贄として放り出されてしまう。死を覚悟してグラシェ国に赴いたのだが、そこで待っていたのは竜魔王代行、王弟セドリックだった。出会った瞬間に熱烈な求婚、さらに城の総出で歓迎ムードに。困惑するオリビアは、グラシェ国の使用人や侍女、城の者たちの優しさに裏があるのではないかと警戒するのだが、セドリックの溺愛ぶりに少しずつ心を開いていく。そんな中、エレジア国はオリビアの有能さに気付き、取り戻せないか画策するのだが。
これは「誰からも愛されていない」と絶望しかけた令嬢が、甘え上手の王弟に愛されまくって幸せになるまでのお話。
※甘々展開のハッピーエンドです(糖分高めミルクティーにハチミツたっぷり+お砂糖五杯ぐらい)。※ざまあ要素在り。※全26話想定(一話分の文章量が多いので話数を修正しました)。※R15は保険です。
《主な登場人物》
オリビア(19)
フィデス王国(亡国)の令嬢。エレジア国クリストファ殿下と婚約。
付与魔法と錬金術が使える。
クリストファ
エレジア国王太子 オリビアと婚約をしていた。
セドリック
グラシェ国竜魔王代行、王弟。オリビアに求愛。
オリビア<<<<<<<<<<<<セドリック
聖女エレノア
エレジア国の聖女。異世界の知識がある?
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう
凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。
私は、恋に夢中で何も見えていなかった。
だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か
なかったの。
※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。
2022/9/5
隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。
お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
(完結)妹に婚約者を譲れと言われた。まあ、色ボケ婚約者だったので構わないのですが、このままでは先が不安なので、私は他国へ逃げます
にがりの少なかった豆腐
恋愛
※後半に追加していた閑話を本来の位置へ移動させました
――――――――――
私の婚約が正式に決まる前日の夜。何かにつけて私の物を欲しがる妹が私の婚約者が欲しいと言い放った。
さすがに婚約について私がどうこう言う権利はないので、私に言われても無理と返す。
しかし、要領がいい妹は何をしたのか、私から婚約者を奪うことに成功してしまった。
元より婚約に乗り気でなかった私は内面では喜びで溢れていた。何せ相手は色ボケで有名な第2王子だったのだから。
そして、第2王子と妹の婚約が正式に発表された後、私に関する根も葉もない悪い噂が流れ始めました。
このままでは、私がこの国で暮していけばどうあっても先は暗いでしょう。親も助ける気は無いようですし、ならばさっさとどこかへ逃げ出した方が良いかもしれませんね。
そうして私は他国の知人を頼りに、人知れず国を出ることにしました。
※この世界には魔法が存在します
※人物紹介を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる