31 / 39
30
しおりを挟む
私とロイドは久しぶりに敬語も使わず、本音で語り合うことができた。
ロイドには妖精からセネット家の子供だと言われてから、これまでのことを全部話した。
どれほど貴族としての教育が厳しかったかとか、庶民の家族のことが今でも気になっていることとか、あと初めて本当の母親に会ったときに抱きしめられたことが嬉しかったことなど話が尽きることはなかった。
ほとんど私ばかりが話していたような気がする。ロイドのことも聞きたかったけど時間が足りなかった。
そう本題はこれからどうするかだった。
ロイドは全てを聞いた後、腕を組んで考え込んでしまった。
そして息を吐きだすと鋭い目で私を見た。
「アネット、僕と暮らす勇気は本当にあるの?」
「勇気? そんなものいらないわ。私はずっと一緒に歩きたいって思ってるもの」
「本当に大丈夫? 今みたいな生活はできないよ。服だって一年に何着買えることかわからない。そんな生活になると思う」
ふふふ、ロイドはわかっていないのね。私は元庶民よ。服が何着も買える今の生活の方が無駄遣いをしているようで罪悪感を感じていたのよね。
「私は一着で十分よ。それだって自分で仕立ててもいいわ。お母さん譲りの私の腕を見せてあげるわ」
庶民の時の母親は裁縫上手だった。それを見て育った私も裁縫の腕だけは自信がある。
「そうだった。今の君を見ていると忘れそうになるけど、庶民だったな。じゃあその心配はないのか」
「他にも何かあるの?」
まさか有名な嫁姑問題? うっ、ロイドの母親に認めてもらえるかしら。庶民として育ったってだけで敬遠されたらどうしよう。
「何かって、一番の問題は君の家族だろう? 君はエドと婚約しているし、僕との結婚なんて許してもらえるとは思えないよ」
「う~ん。多分だけど兄さまが何とかしてくれると思うのわ。もしダメだったら駆け落ちしてもいいじゃない」
「それは駄目だ。君は長いこと両親と離れ離れになっていたんだし、けんか別れは一番してはいけないことだ」
「それに……」
私は駆け落ちもいいかなとか思ってたけど、冷静なロイドに却下された。私の家族のことまで考えてくれるロイドには頭が下がる思いだ。
「それに?」
「貴族同士のつながりもあるから、駆け落ちなんかしたら今決まっている就職は駄目になると思うよ」
そうだった。私の家は侯爵家。ロイドの就職先は伯爵家だった。駆け落ちは却下だ。それではアオだけを喜ばすことになってしまう。あの妖精はトラブルが大好きだから私が駆け落ちなんかしたらきっと大喜びしてしまう。
「ロイドは今の就職先で本当にいいの? 王都で働きたいとは思わないの?」
「初めは君とエドモンド様の婚約を聞いて、近くで幸せな二人を見ていられないなって思って王都から離れた場所で就職できないかって探していたんだけど、あの領地は空気が美味しくて領民も親切な人ばかりで気に入っているよ」
「そう、じゃあ私も行くのが楽しみよ」
結局私の両親を説得できる内容が決まらないまま時間が過ぎて行ってしまった。
それでもまた会う約束ができたから良しとしよう。
あとは兄さまとエドに相談ね。二人ならきっと良い案を見つけてくれるわ。
ロイドには妖精からセネット家の子供だと言われてから、これまでのことを全部話した。
どれほど貴族としての教育が厳しかったかとか、庶民の家族のことが今でも気になっていることとか、あと初めて本当の母親に会ったときに抱きしめられたことが嬉しかったことなど話が尽きることはなかった。
ほとんど私ばかりが話していたような気がする。ロイドのことも聞きたかったけど時間が足りなかった。
そう本題はこれからどうするかだった。
ロイドは全てを聞いた後、腕を組んで考え込んでしまった。
そして息を吐きだすと鋭い目で私を見た。
「アネット、僕と暮らす勇気は本当にあるの?」
「勇気? そんなものいらないわ。私はずっと一緒に歩きたいって思ってるもの」
「本当に大丈夫? 今みたいな生活はできないよ。服だって一年に何着買えることかわからない。そんな生活になると思う」
ふふふ、ロイドはわかっていないのね。私は元庶民よ。服が何着も買える今の生活の方が無駄遣いをしているようで罪悪感を感じていたのよね。
「私は一着で十分よ。それだって自分で仕立ててもいいわ。お母さん譲りの私の腕を見せてあげるわ」
庶民の時の母親は裁縫上手だった。それを見て育った私も裁縫の腕だけは自信がある。
「そうだった。今の君を見ていると忘れそうになるけど、庶民だったな。じゃあその心配はないのか」
「他にも何かあるの?」
まさか有名な嫁姑問題? うっ、ロイドの母親に認めてもらえるかしら。庶民として育ったってだけで敬遠されたらどうしよう。
「何かって、一番の問題は君の家族だろう? 君はエドと婚約しているし、僕との結婚なんて許してもらえるとは思えないよ」
「う~ん。多分だけど兄さまが何とかしてくれると思うのわ。もしダメだったら駆け落ちしてもいいじゃない」
「それは駄目だ。君は長いこと両親と離れ離れになっていたんだし、けんか別れは一番してはいけないことだ」
「それに……」
私は駆け落ちもいいかなとか思ってたけど、冷静なロイドに却下された。私の家族のことまで考えてくれるロイドには頭が下がる思いだ。
「それに?」
「貴族同士のつながりもあるから、駆け落ちなんかしたら今決まっている就職は駄目になると思うよ」
そうだった。私の家は侯爵家。ロイドの就職先は伯爵家だった。駆け落ちは却下だ。それではアオだけを喜ばすことになってしまう。あの妖精はトラブルが大好きだから私が駆け落ちなんかしたらきっと大喜びしてしまう。
「ロイドは今の就職先で本当にいいの? 王都で働きたいとは思わないの?」
「初めは君とエドモンド様の婚約を聞いて、近くで幸せな二人を見ていられないなって思って王都から離れた場所で就職できないかって探していたんだけど、あの領地は空気が美味しくて領民も親切な人ばかりで気に入っているよ」
「そう、じゃあ私も行くのが楽しみよ」
結局私の両親を説得できる内容が決まらないまま時間が過ぎて行ってしまった。
それでもまた会う約束ができたから良しとしよう。
あとは兄さまとエドに相談ね。二人ならきっと良い案を見つけてくれるわ。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
逃がす気は更々ない
棗
恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。
リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。
※なろうさんにも公開中。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】
Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。
でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?!
感謝を込めて別世界で転生することに!
めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外?
しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?!
どうなる?私の人生!
※R15は保険です。
※しれっと改正することがあります。
我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。
和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる