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「なんてことかしら、まさかパーティーにも来てくれないなんて」

 私とエドモンドとの婚約パーティーは無事に終わった。ただ一つ不満だったのは招待していたロイドが現れなかったことだ。
 私とエドとの婚約する姿を見て嫉妬させる作戦は失敗に終わった。最近流行りの恋愛小説を参考にしたのに何がいけなかったのかしら。

「だから言っただろう。嫉妬させるとかいうのは相手が君のことを好きな場合にしか無理なんだって。ロイドは本当に君のことを好きなのか?」
「うっ。でも小説の本ではうまくいってたのよ。婚約する二人の姿を見て初めて彼女のことを愛していることに気づくの。素敵でしょ」
「だから、それは男の方が女を想っていたから…、まあ、いいか。それで二人はそのあとどうなるんだ?」
「婚約パーティーを二人で抜け出してハッピーエンドよ」
「残された男はどうなるんだ?」

 ん? 残された男のことなんて気にしなかったわ。どうなったのかしら。

「……さあ? そこまでは書かれていなかったわ」
「残酷な話だな。残された男は笑いものになる。それに勝手なことをした二人だって幸せが待っているとは思えない」

 エドは頭を振って否定するけど、私しには彼の言うことが分からない。

「どうして? 愛し合っている二人が一緒になったほうが幸せでしょ」
「婚約パーティーをするのだから貴族の話だろう? 貴族同士の婚約は家と家との契約だ。その婚約パーティーを違う男と抜け出すなんてこと許されるわけないだろう」

 確かに。でもこれは小説なのだ。そこまで深く考えなくてもいいじゃない。

「いいじゃない、許されなくたって」

 そうよ。貴族として許されないのなら庶民になれんばいいわ。

「貴族の身分を捨てて、庶民になるか?」

 エドには私の思っていることが分かったみたいだ。

「ええ、そうよ。庶民になればいいのよ。あなただって本当い好きなら今すぐにでもアンナのところに行けばいいじゃない」
「それで幸せになれるとでも?」
「ええ、二人一緒なら幸せになれるわ」
「意外だな」
「何が?」
「君は貧乏一番知っているのに。薬を買うことが出来なくて神殿で蹲っているところをロイドが助けてくれたんだろう? 彼がいなかったら弟は亡くなっていたかもしれないって言ったのは君だよ。そんな苦労を君は彼や彼との子供に強いるのか? 私は嫌だ。庶民になるにしても家族には賛成してもらいたいし、お金の苦労だけはさせないつもりだ」

 エドの言うように貧乏は人の心まで貧しくする。でもロイドと一緒なら貧乏にだって耐えることができると思っているのは本当だ。それに私だって働ける。今はあの頃の私とは違うの。学院で魔法の勉強だってしているし『癒しの魔法』だって使えるのだから、二人で働けばそんなに貧乏な暮らしにはならないはずだ。

「その顔だと君は大丈夫だと言いたそうだな」
「ええ、私は大丈夫よ」
「でもロイドは? 彼は貴族だ。彼も大丈夫なのか?」

 彼が私のことをどう思っているのかってことばかり考えていたけど、ロイドが庶民として生活できるかなんて考えたこともなかったわ。
 庶民の暮らしってそんなに大変かしら? 
 貴族より楽だと思うんだけどな。
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