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「あ~、こんなはずじゃあなかったのに。どうしてこうなるのよ」

 ベッドの上でゴロゴロと転がりながら喚く。お行儀が悪いとかそんなのはどうでも良かった。庶民の頃と同じようにゴロゴロしていると良いアイデアが浮かんでくるような気がするのだ。
 でもちっとも浮かんでこない。母さまの考えを変えるなんて、あの腹黒の兄さまにしかできないのに。
 そうだ。父さまは?
 駄目よ、アネット。父さまは兄さま以上にわかりづらい人だもの。
 私はこの家に来て父さまと会話らしい会話をしていない。
 「そうか」「そうだな」「ん」、挨拶以外ではこの単語しか聞いたことがない。初めは私のことが気に入らないのかなとか思っていたけど、兄さまに言わせるとアンナにも同じような感じだったらしいから気にしないことにしている。
 私が悩んでいると、どこからか笑い声が聞こえてきた。

「その声は、アオね。姿を隠していないで出てきなさいよ」
『いやよ、姿を現すとあの嫌な奴が来るんだもの』
「大丈夫よ。兄さまは夜会に出かけたもの」
『あら、ほんと。気配がないわ』

 ポンっと私の目の前に青い髪をした妖精が現れた。
 この妖精が現れるのはいつだって突然なので驚かなくなっている気がする。不思議な出来事も何度も起こると麻痺してくるみたい。

「アオはこうなることを知っていたのね。そうでしょう?」
『まあね』
「酷いじゃないの。どっちに転んでも身分違いだなんて」

 庶民の時は私の身分が低すぎてロイドとは釣り合わなかった。貴族になれたから釣り合うようになったのだとばかり思っていたら、今度は私の身分が高すぎて釣り合わないなんて。

『身分違いの恋は燃えるっていう話よ。普通の恋よりもきっと楽しいわよ』
「他人事だと思って。私は燃えるような恋よりも普通の恋がしたいのよ」
『馬鹿ね。普通の恋は退屈なのよ。私に任せてくれたら忘れられない恋にして見せるわ』
「忘れられない来いって、なんだか最後は悲恋で終わるような気がするわ」
『その通りよ。悲恋の方がドキドキがいっぱいで、見ている私も楽しめるもの』

 やっぱりこの妖精は魔王の化身だわ。

「悲恋だなんて冗談じゃないわ。私の望みはロイドのそばにいたいだけなのに」
『う~ん。どうしてそこまでロイドっていうのにこだわるの? 今のあなたならあんな小物よりずっと素敵な男性を捕まえることができるのよ』
「素敵な男性ね。確かにロイドよりカッコよくて、将来も安定している男性はいるのかもしれない。でも彼らは庶民だった私のことを助けてはくれなかった。同情されたことはあるわ。かわいそうにって声を掛けられたことも。でも親身になって助けてくれる人なんていなかった。だからロイドは私にとって特別なの」

 アオは不満そうな顔をしている。でも私の心を変えることは誰にもできない。

 
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