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本日はいつもより念入りに着飾って母とお出かけである。母もいつもより宝石の数が多い気がする。気合が入っているって感じだったので、いわゆるお茶会にでも行かされるのかと思っていたら、なんと聖女様に私を紹介するために神殿に行くというから驚いた。直接聖女様に会うなんて、庶民だった時には考えられないことだった。
あれはいつだったっけ。門番から追い返されて泣きそうになっていたのは。それほど神殿の門は敷居の高い場所だったのに、その門を馬車に乗ったまま通り過ぎてしまった。
「どうしたのですか?そのようにお口を開けて…、何かありましたか?」
母の声にハッとして口を閉じる。母に門番に追い返された時の話なんてできない。庶民の頃のことだって言っても、門番を首にしてしまうかもしれないもの。
「いえ、あまりにも大きな門なので驚いてしまって…」
適当なことを言って誤魔化す。
「聖女様と言ってもあなたの叔母です。とても優しい方ですから緊張しなくても大丈夫ですよ」
そういえば聖女様は母の妹だって兄が言ってた。母もセネット家の血が流れているし『癒しの魔法』が使えるが聖女様にはなれなかった。妹の『癒しの魔法』の方が圧倒的に力があったので仕方のないことだったらしい。
この聖女様はいまだに独身だと聞くし、ほとんどをこの神殿で暮らしていると聞くから女の幸せでいえば母の方が幸せではないかしら。名誉なんてあっても幸せとは限らないもの。
「まあ、あなたがわたくしの姪なのですね。ふふ、あの偽物とは違ってメアリー姉さんにそっくりね』
優しい方? 確かに微笑んでいる顔からは意地悪を言っているようには聞こえないけど、どこか歪んでいるような気がする。アンナのことを偽物って…、確かにセネット家の娘ではなかったけれどそんな言い方をしなくてもいいのに。
「初めまして、聖女様。お会いできて光栄です」
「わたくしも嬉しいですわ。とても強い癒しの力を持っているそうね。やっと後継者になれる方が現れたようでホッとしてるの」
後継者? 何を言ってるのかしら。
「聖女様、まだアネットにはそのことは話していませんの。やっと家族として暮らしていけるようになったのにすぐに手放すなんてできません」
「まあ、それではいつになるのかしら。こちらでの生活にも慣れていただかないといけませんのに」
「こちらには優秀な聖女候補が沢山いるのでしょう? アネットでなくても構わないのではないかしら」
「あら? 不思議? メアリー姉さんはアンナを聖女にしたかったのではなかったの? まあ、あの娘には『癒しの魔法』が使えなかったからわたくしも力にはなれなかったわ。でもこのアネットは違う。この娘ならわたくしが推薦できるし、後ろ盾にだってなってあげられるのよ」
「昔の話よ。今はそれほど聖女様にしたいとは思っていないの。私も今度のことで色々と考えさせられたの」
なんとなくこれは私の将来に関する大事なことだというのはわかるんだけど、口をはさむことができないほど、二人の間に流れている雰囲気がそれを許し手はくれない。
二人はそのあとも話を続けていたが、結局最後まで母の考えが変わることはなかった。
「わかったわ。でもわたくしが諦めたところで、その娘はここへ来ることになるかもしれなくてよ。それだけその娘の『癒しの魔法』は他の聖女候補たちとは比べ物にならないの。神殿の力を甘く見ないことね」
帰る私たちに聖女様がくれたのは冷たい言葉だった。
あれはいつだったっけ。門番から追い返されて泣きそうになっていたのは。それほど神殿の門は敷居の高い場所だったのに、その門を馬車に乗ったまま通り過ぎてしまった。
「どうしたのですか?そのようにお口を開けて…、何かありましたか?」
母の声にハッとして口を閉じる。母に門番に追い返された時の話なんてできない。庶民の頃のことだって言っても、門番を首にしてしまうかもしれないもの。
「いえ、あまりにも大きな門なので驚いてしまって…」
適当なことを言って誤魔化す。
「聖女様と言ってもあなたの叔母です。とても優しい方ですから緊張しなくても大丈夫ですよ」
そういえば聖女様は母の妹だって兄が言ってた。母もセネット家の血が流れているし『癒しの魔法』が使えるが聖女様にはなれなかった。妹の『癒しの魔法』の方が圧倒的に力があったので仕方のないことだったらしい。
この聖女様はいまだに独身だと聞くし、ほとんどをこの神殿で暮らしていると聞くから女の幸せでいえば母の方が幸せではないかしら。名誉なんてあっても幸せとは限らないもの。
「まあ、あなたがわたくしの姪なのですね。ふふ、あの偽物とは違ってメアリー姉さんにそっくりね』
優しい方? 確かに微笑んでいる顔からは意地悪を言っているようには聞こえないけど、どこか歪んでいるような気がする。アンナのことを偽物って…、確かにセネット家の娘ではなかったけれどそんな言い方をしなくてもいいのに。
「初めまして、聖女様。お会いできて光栄です」
「わたくしも嬉しいですわ。とても強い癒しの力を持っているそうね。やっと後継者になれる方が現れたようでホッとしてるの」
後継者? 何を言ってるのかしら。
「聖女様、まだアネットにはそのことは話していませんの。やっと家族として暮らしていけるようになったのにすぐに手放すなんてできません」
「まあ、それではいつになるのかしら。こちらでの生活にも慣れていただかないといけませんのに」
「こちらには優秀な聖女候補が沢山いるのでしょう? アネットでなくても構わないのではないかしら」
「あら? 不思議? メアリー姉さんはアンナを聖女にしたかったのではなかったの? まあ、あの娘には『癒しの魔法』が使えなかったからわたくしも力にはなれなかったわ。でもこのアネットは違う。この娘ならわたくしが推薦できるし、後ろ盾にだってなってあげられるのよ」
「昔の話よ。今はそれほど聖女様にしたいとは思っていないの。私も今度のことで色々と考えさせられたの」
なんとなくこれは私の将来に関する大事なことだというのはわかるんだけど、口をはさむことができないほど、二人の間に流れている雰囲気がそれを許し手はくれない。
二人はそのあとも話を続けていたが、結局最後まで母の考えが変わることはなかった。
「わかったわ。でもわたくしが諦めたところで、その娘はここへ来ることになるかもしれなくてよ。それだけその娘の『癒しの魔法』は他の聖女候補たちとは比べ物にならないの。神殿の力を甘く見ないことね」
帰る私たちに聖女様がくれたのは冷たい言葉だった。
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