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ノートンの言葉に私は驚いた。
生まれ変わりだって知っている? でもどうしてノートンが知っているの?
「十年位前に旦那様が口にしたことがあります。生まれ変わりを信じるかと。もちろん信じていると答えましたが、実際は信じてはいなかった。おそらくミスラ教信者のほとんどが私と同じ考えでしょう。人は目に見えないものを心から信じることなどできないものです」
「でも、それならどうしてわたくしがサーシャの生まれ変わりだと思ったの?」
輪廻転生を信じていなかったのに私が生まれ変わりだと疑うのはおかしい。
「旦那様はその時『私もサーシャが生まれ変わってくるまでは信じていなかったから、普通はそんなものだよな』と呟いたのです。おそらく私に聞かせるというより独り言のつもりだったのでしょう。私は動揺を隠すのに必死でした。サーシャ様が生まれ変わってくるなど考えたこともありませんでしたから、私の罪を長い年月の間に忘れていたのです」
カイルって迂闊すぎる。いくら信頼しているかれって、ノートンの前でそんなことを呟くなんて。それともカイルはそんなことすら考えることが出来ないほど動揺していたのだろうか。
「ノートンの罪とは、この扉から聞こえる声を無視したこと?」
「私だと気付いておられたのですね」
「足音で気付いたの。その靴の音は昔と変わらないわ」
ノートンは自分の靴を見て苦笑した。
「これは大奥様からいただいた靴です。今も誕生日が近付くと贈られてきます。そうですか、この足音で……、それならどうして旦那様に報告されなかったのですか?」
「わたくしはサーシャではないわ。サーシャは死ぬ前に貴方のこともハウスキーパーのこともカイルに言わなかった。それが質問に対する答えよ」
「サーシャ様は私のことを恨んではいなかったのでしょうか?」
「サーシャが最後に思っていたのはカイルのことだけ。彼の幸せだけを願っていた……」
私の言葉を聞いたノートンは不思議そうな顔をして私を見る。
「旦那様の幸せを? ですがサーシャ様は『生まれ変わっても一緒にはならない』という言葉を残して亡くなりました。とても幸せを願っていたようには思えません」
「サーシャにとっては彼を思っての言葉だったの。残されたカイルが他の人と幸せになれることを願って残した言葉だったみたい。カイルには全く通じていなかったみたいだけれど…」
「そうだったのですか…」
「ノートンはどうして私をここへ連れてきたの? 貴方のしたことは忘れるつもりだったのよ」
ノートンは悲しそうな顔で首を振った。
「もう限界だったのです。サーシャ様の生まれ変わりであるリリアナ様と過ごすことは楽ではありません。それに懺悔したかったのです。私の罪を裁いて欲しかった。私はあの日とんでもないことをしてしまった」
「どうしてサーシャの助けを無視したの? 貴方もお義母様に頼まれていたの?」
「直接頼まれたわけではありません。それに私は離婚もできないのにサーシャ様を追い出してどうするつもりなのかわかりませんでしたので、いじめに参加するつもりはありませんでした」
「それならどうして?」
「鍵を持っている者は限られているので、閉じ込めたのが誰かすぐにわかりました。私はハウスキーパーを逃がすための時間を稼ぎたかった。まさか助けが遅れることでサーシャ様が亡くなるとは思わなかったのです」
「ハウスキーパーのためでしたの?」
「彼女のためでもあり、大奥様や旦那様のためです。大奥様が関わっていることがわかれば旦那様がどれほど傷つくか、そのことばかり考えていました」
結局サーシャが病弱だったのがいけなかったのだろう。
サーシャが健康だったら閉じ込められたくらいで、高熱を出して亡くなることはなかった。
サーシャが健康だったらお義母様も追い出そうなんて思わなかっただろう。
でも? サーシャが健康だったらカイルと結婚していただろうか? サーシャが長く生きられないことに同情したカイルが結婚してくれたとサーシャは思っていた。
「わたくしは貴方がしたことを責めたりしないわ。だってわたくしはサーシャではないから。でも聞きたいことがあるの。お義母様のことを知りたいわ」
生まれ変わりだって知っている? でもどうしてノートンが知っているの?
「十年位前に旦那様が口にしたことがあります。生まれ変わりを信じるかと。もちろん信じていると答えましたが、実際は信じてはいなかった。おそらくミスラ教信者のほとんどが私と同じ考えでしょう。人は目に見えないものを心から信じることなどできないものです」
「でも、それならどうしてわたくしがサーシャの生まれ変わりだと思ったの?」
輪廻転生を信じていなかったのに私が生まれ変わりだと疑うのはおかしい。
「旦那様はその時『私もサーシャが生まれ変わってくるまでは信じていなかったから、普通はそんなものだよな』と呟いたのです。おそらく私に聞かせるというより独り言のつもりだったのでしょう。私は動揺を隠すのに必死でした。サーシャ様が生まれ変わってくるなど考えたこともありませんでしたから、私の罪を長い年月の間に忘れていたのです」
カイルって迂闊すぎる。いくら信頼しているかれって、ノートンの前でそんなことを呟くなんて。それともカイルはそんなことすら考えることが出来ないほど動揺していたのだろうか。
「ノートンの罪とは、この扉から聞こえる声を無視したこと?」
「私だと気付いておられたのですね」
「足音で気付いたの。その靴の音は昔と変わらないわ」
ノートンは自分の靴を見て苦笑した。
「これは大奥様からいただいた靴です。今も誕生日が近付くと贈られてきます。そうですか、この足音で……、それならどうして旦那様に報告されなかったのですか?」
「わたくしはサーシャではないわ。サーシャは死ぬ前に貴方のこともハウスキーパーのこともカイルに言わなかった。それが質問に対する答えよ」
「サーシャ様は私のことを恨んではいなかったのでしょうか?」
「サーシャが最後に思っていたのはカイルのことだけ。彼の幸せだけを願っていた……」
私の言葉を聞いたノートンは不思議そうな顔をして私を見る。
「旦那様の幸せを? ですがサーシャ様は『生まれ変わっても一緒にはならない』という言葉を残して亡くなりました。とても幸せを願っていたようには思えません」
「サーシャにとっては彼を思っての言葉だったの。残されたカイルが他の人と幸せになれることを願って残した言葉だったみたい。カイルには全く通じていなかったみたいだけれど…」
「そうだったのですか…」
「ノートンはどうして私をここへ連れてきたの? 貴方のしたことは忘れるつもりだったのよ」
ノートンは悲しそうな顔で首を振った。
「もう限界だったのです。サーシャ様の生まれ変わりであるリリアナ様と過ごすことは楽ではありません。それに懺悔したかったのです。私の罪を裁いて欲しかった。私はあの日とんでもないことをしてしまった」
「どうしてサーシャの助けを無視したの? 貴方もお義母様に頼まれていたの?」
「直接頼まれたわけではありません。それに私は離婚もできないのにサーシャ様を追い出してどうするつもりなのかわかりませんでしたので、いじめに参加するつもりはありませんでした」
「それならどうして?」
「鍵を持っている者は限られているので、閉じ込めたのが誰かすぐにわかりました。私はハウスキーパーを逃がすための時間を稼ぎたかった。まさか助けが遅れることでサーシャ様が亡くなるとは思わなかったのです」
「ハウスキーパーのためでしたの?」
「彼女のためでもあり、大奥様や旦那様のためです。大奥様が関わっていることがわかれば旦那様がどれほど傷つくか、そのことばかり考えていました」
結局サーシャが病弱だったのがいけなかったのだろう。
サーシャが健康だったら閉じ込められたくらいで、高熱を出して亡くなることはなかった。
サーシャが健康だったらお義母様も追い出そうなんて思わなかっただろう。
でも? サーシャが健康だったらカイルと結婚していただろうか? サーシャが長く生きられないことに同情したカイルが結婚してくれたとサーシャは思っていた。
「わたくしは貴方がしたことを責めたりしないわ。だってわたくしはサーシャではないから。でも聞きたいことがあるの。お義母様のことを知りたいわ」
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