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「え? ケイトっていいました?」

 思わずクラリス夫人の話を遮っていた。カイルの顔もこわばっている。
 間違いない、あの時の女性の名前だ。そうか、部下だったのね。もしかして結婚しても分かれていなかったのだろうか。

「ええ、ケイト・マーチンの話はこの後でも聞かされたから間違いないです」

 クラリス夫人は非難するような目でカイルの方を一瞥して、断言する。

「カイルはこのことにつて申し開きはないの?」

 グレース王女がカイルに尋ねたけれど首を横に振る。言い訳をしないことが男らしいって勘違いしている人が多いって聞くけど、全然男らしくないからね。

「サーシャはこのことにつて何か聞かなかったのかしら」

 私もカイルに尋ねるが、彼は首を横に振るだけだ。本当に覚えがないみたい。
 サーシャは何も尋ねなかったのかな。でもどうして? 

「物が隠されていたというのは本当にあったことだと思う。サーシャがワインを置いてある部屋で見つかった時、彼女の手には指輪などが握られていた。その他にもいろいろと彼女の傍に落ちていた。何故そんなものがこの部屋にあるのかとずっと疑問だった」

 カイルはポツリポツリと話してくれる。サーシャの周りに落ちていたということはその品を使ってサーシャをおびき寄せて部屋に閉じ込めたのだろうか。でも明らかにおびき寄せられているとわかるのに、そんな手に乗るなんてあり得ない。今の私なら反対に犯人を罠にかけるのに。

「それを使っておびき寄せられたようにしかみえないわね」

 グレース王女がそう言うとクラリス夫人も頷いた。

「ええ、ソールもそう考えたようです」
「え? ソールはサーシャが閉じ込められたことも、その周りになくなったと言ってたものが落ちていたことも知っているのか?」

「ソールはサーシャが亡くなってすぐに調べたので、大抵のことは知っています。ですから貴方に殺されたと言ってるのです。もっと早くに誰が盗んだのか調べるべきだったと後悔しています」
「そうだ。ソールが一言でも私に話してくれていれば……」
「それは違うわ、カイル。ソールはサーシャの願いを聞いただけ。彼を責めるのは間違っているわ」

 私がカイルを諫めるとクラリス夫人が不思議そうな顔をした。急に私がどういう存在なのか気になったようだ。
 でもそのことには気づかないふりで誤魔化すしかない。生まれ変わりの話なんて当事者でなければ信じられないだろうからソールにだって話せない。

「だけどそれだけでサーシャの死をカイルに押し付けるのは無理がある。他にも何かあるのでしょう?」

 グレース王女が尋ねるとクラリス夫人は諦めたように頷く。

「ええ、あります。……でも本当に話していいのかしら。ここには関係ない方がいるみたいですし、場所を変えたほうが…」

 私の方を見てクラリス夫人が決まずそうな顔をした。

「ああ、彼女は関係者だから気にしなくていいのよ。この場で会ったことは他言無用だってことはわかっているわよね。もちろんソール伯爵にも内緒ですよ」

 グレース王女が念を押すとクラリス夫人はこくりと頷いた。

「で、ですが何か聞かれたときはどう答えればいいのか…」
「それなら大丈夫よ。娘さんの縁談について話をしていたと答えればいいわ。ここに絵姿と身上書があるから、後で見るといいわ。娘さんが気にいれば話を進めるわ」
「まあ、ありがとうございます」

 クラリス夫人は娘の婿になる人がいないことが相当気がかりだったらしく、ホッと息をついている。クラリス夫人の娘は私と同い年。結婚なんてまだ早いと思うけど、跡取りのこととか考えると仕方がないのだろうか。
 カイルはこんな話には興味がないのかムスッとして座っている。
  もしかしてケイトっていう女性のことを考えているのだろうか。今はケイトっていう人はどこにいるのだろう。
  どうしてカイルはサーシャが亡くなった後にケイトと結婚しなかったのだろう。子爵家の娘なら結婚相手として悪くはない。片方が亡くなっていれば、真名に縛られることなくいくらでも結婚できるのに。
 娘の結婚問題が解決したことで気が楽になったのか、クラリス夫人の口は滑らかになった。クラリス夫人は知っていることを何もかも話してくれた。
 でもそれは私にとっては知りたくない事も含められていた。彼女の話を聞いていた私は、頭がガンガンと痛み気を失ってしまった。


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