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27 ソールside

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今日はとても屋敷の中が騒がしい。久しぶりにサーシャが里帰りしてくるからだ。
 私は彼女が嫁に行ってすぐにこの家の養子になった。以前から決められていたことなのですんなりとこの屋敷の人間になれたと思っている。
 それでもせっかくの家族との水入らずに自分が邪魔をするのも悪いと思い、部屋で執務に励んでいる。

「ソール兄さま? いらっしゃるのでしょう?」

 ノックの音と入ってくるのは同時だった。ノックをする意味があるのかと聞きたいくらいだ。

「ふふふ、絶対にここだと思ったわ。どうして迎えてくださらないの?」
「せっかくだから家族と水入らずの方がいいだろう」
「まあ、ソール兄さまは昔から家族の一人ですわ」

 クスクスと笑うサーシャは昔と変わらない。いつだって私を立ててくれる。
 だが少し瘦せたように見える。環境の変わったせいだろうか。

「少し痩せたようだな。食欲がないのか?」
「この時期はいつも痩せるの。でもそうね、少し気になることがあって睡眠不足なの」
「なんだって、カイルは知っているのか?」
「いいえ、今彼はとても忙しいから迷惑をかけたくないの。ソール兄さまも黙っててね」

 サーシャの旦那なったカイルは陛下の親友ということもあって、とても忙しくしていることは聞いている。そのせいで新婚旅行にも行けなかったくらいだ。サーシャは身体が弱いから旅行なんて無理だから丁度良かったと言ってたが、本当は新婚旅行先で有名な隣国へ行きたがっていたことを知っている。なんとか行かせてやりたいと今でも私は思っているのだが、こうして彼女に黙っててねと言われるとカイルに言うことができずにいる。

「また内緒なのか。旦那に隠し事ばかりするのは良くないぞ」
「わかってるけど……、これは言いたくないの。使用人を使えるようにならなければ女主人として失格だもの。わたしは頑張るわ」

 彼女の言葉で使用人とうまくいってないことが分かった。身体が弱いせいで馬鹿にされているのだろうか。

「お義母さまには相談したのか?」
「ええ、こういうことは時間がかかるものよって言われたわ。気にしたらダメだって慰めてくれるの。でも…」

 カイルの母親であるダリア夫人とは仲良くやっているようでホッとした。姑と仲良くできなくて苦労する話はよく聞くので心配していたのだ。ダリア夫人と仲良くしていれば自然と使用人とも上手くいくようになるだろう。時間が解決してくれるはずだ。

「でもって何か気になることがあるのか?」
「ううん、いいの。たぶん私の気のせいだから。それより最近物がなくなるの」
「え? 泥棒か? すぐにカイルに相談したほうがいい」

 使用人の中に物を盗むものでもいるのだろうか。

「それが、私も気になって一度お義母様に相談したの。でもその時は、後ですぐに私の部屋から見つかってしまって。それもあって使用人からの風当たりが悪くなったの。だからもう相談したくないのよ。誰だって疑わられるのは嫌でしょ」

 明らかに嫌がらせだ。だが問題にしてまた自分の部屋から見つかればと思うと強く出れないようだ。せめて犯人が誰かわかればいいのだが。嫌がらせなら、盗ったものを売ったりしないだろうから足が出ないので見つけることは不可能だ。

「それは困ったな。カイルに相談するのが一番だが問題を大きくしたくないんだよな」
「私は新参者だもの。波風を立てたくないの」
「波風を立てたくないのならダリア夫人が言うように時間がたつのを待つほうがいいのかもしれないな」
「ええ、ソール兄さまに話したら気が楽になった気がするわ。盗られたものも大したものではないし放っておくことにするわ」

 その後はメイドが昼食だと呼びに来るまでカイルがどれだけ優しいのかという惚気をたくさん聞かされた。部屋を一緒に出るときサーシャが立ち止まった。

「どうかしたのか?」
「ソール兄さまは、カイルの部下の名前を知っていて?」
「部下の名前? いつも一緒にいる秘書官はケイト・マーチンだったな。子爵家の娘だが学院を卒業していてとても頭の良い女性だ」
「そ、そう。女性でも活躍できる職場なのはいいことね」

 サーシャは少し動揺しているようだった。身体が弱くなければ彼女も学院に通いたかったのだ。本が好きで学ぶことも好きなのに。
 私は慰めるようにサーシャの頭をいつものように撫でることしかできなかった。
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