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8 カイルside
しおりを挟む国立図書館。そこで彼女に会ったのは偶然だったのか。私は彼女がこの国立図書館が好きだった事を知っていたから、会えるかもしれないとどこかで思っていたのかもしれない。
彼女が座る席はいつも決まっている。前世の時と同じ席だ。
彼女の名前はリリアナ・ミラー。ミラー公爵家の令嬢だ。公爵家で開かれたパーティーで彼女を初めて見た時、すぐにわかった。彼女がサーシャ・マドリードの生まれ変わりだと。彼女の目を見て、彼女も気付いたことがわかった。彼女の目はいつも、口よりも正直に彼女の考えていることを私に教えてくれた。
でもリリアナはあまりにも幼くて、彼女を手に入れるにはもう少し待たなければならなかった。それでも会いたくて、一目だけでも見たくてこの図書館に来たのだ。まさか本当にいてくれるとは思わなかった。
この国立図書館はサーシャ好きだった場所だが、彼女は王都に暮らしてはいなかったからここに来たのは私が連れて来た時だけだと思う。彼女はいつも同じ席に座って静かに本を読んでいた。あの頃の私はこの図書館に連れてくれば、ほとんど彼女の相手をしなくてもすむから、ホッとしていた。
婚約者として年の離れた子供の相手をしなければならないことが苦痛だった。そのおかげで、今までと同じ生活が送れているのに感謝よりもどうしてという気持ちが大きかったのだ。今考えてもあの頃の自分は自分勝手で嫌な奴だった。本当に嫌なら落ちぶれる事になっても、マドリード伯爵の手を借りなければ良かったのだ。手を借りていながら、サーシャの相手をするのを嫌っていたのだから情けない。
でもサーシャは物分かりがいいのか、私にわがままを言ったことがない。私が彼女をこの図書館に放って、どこかに行っても責めたことがなかった。だからサーシャを蔑ろにしてることに罪悪感がなくなっていた。
サーシャという婚約者がいるのに大っぴらに女と付き合っても気にならなくなっていた。それでもサーシャの十六歳の誕生日に彼女が訪ねて来て、女と鉢合わせのようになった時はさすがに焦った。けれど自分が悪いのに正当化したくて最悪のことをした。婚約を解消すると言い、女のことで図星を指されて叩いてしまった。サーシャの白い頰に自分の手の跡が赤くなって浮かびあがっていた。それを見た私はどうしたらいいかわからなくなって部屋からサーシャを追い出した。どうしたらいいかわからなかった。サーシャの父親からの援助がなくなれば、どうなるのか。利己的なことばかり考えていた。サーシャのことを思い出したのはしばらく経ってからだった。鞄がある事に気付き、サーシャが何も手に持っていなかった事を思い出す。慌てて外に出るとサーシャが廊下に倒れていた。すごい熱だった。部屋にはまだ女がいたので連れて入れない。医術の先生の所に連れて行き、薬を処方してもらい、馬車で隣町の彼女の屋敷まで送って行く。サーシャは何度か目を覚ましたが、目の焦点が合っていなかった。サーシャを抱き上げた時、彼女がもう子供ではない事に初めての気がついた。赤く腫れた頰を氷で冷やしながら、公爵になんと詫びればいいのか考えていた。
あの頃の自分は最低だった。そんな自分を許してくれたサーシャはあまりにもあっけなく私を残して死んでしまった。
生まれかわってくるのをずっと待っていたが、半分くらいは諦めていた。そのサーシャの生まれ代わりが、目の前にいる。まだ声はかけられない。彼女が大人になるまでは、そっと見守る。だが逃さない。必ず一緒になると決まっているのだから。
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