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どうしてこうなった?
キッパリと呪いは専門外だって断ったから、そのまま帰るものと思っていたのに。
あの男は未だに私の店にいる。そして何故か『魔女のラーメン』を美味しそうに食べている。
男は私の返事に残念そうな顔をしながらも、
「そうか」
と呟き、テーブル席の方へ歩いて行く。思わず出口はそこじゃないですよって言いそうになった。
「それは美味しいのか?」
『魔女のラーメン』のスープを飲んでいた冒険者の男は身なりの良い男を見て慌てて飲むのをやめた。
「ああ、ここにところ毎日食べに来ている、ですよ」
「そうか」
ジッと見つめられて居心地が悪いのか、
「良かったら食べますか?」
とあれくれの冒険者らしくもなく丁寧な言葉を返している。
貴族ってだけでなく、なんとなく威厳があるんだよねこの男。冒険者もそういうのを敏感に感じているから、この男を無視できなかったんだと思う。
「いいのか?」
「たくさん買ってあるから大丈夫です。この『魔女のラーメン』は保存食にもなるからダンジョンにもぐる時にも持って行こうと思って大量に買ったんです」
確かに大量に買ってくれた。でもここはうちの売り上げに協力して欲しかったよね。自分の買った物をわざわざ出さなくってもいいのに。
冒険者の男は鞄の中から先ほど買ったラーメンを取り出して、作り方まで教えている。ここで食べるのは2回目からは100エール必要だって事も説明している。私が口出しする必要もないくらいの丁寧さだ。
でもね、考えてほしい。確かにこの男は初めてうちでラーメンを食べるかもしれないけど、『魔女のラーメン』買ってないからね。無料で食べるのはどうかと思うよ。
色々と言いたい事あるけど、なんとなく口が出せずに、黙って二人のやり取りを見守っていた。
「3分経ったら蓋を開けて食べてください」
「ありがとう。助かったよ。ラーメン代だ。受け取ってくれ」
えッ? それ、金貨ですよ。間違ってますよ。
「一袋200エールですから多いですよ。ああ、金貨しか持ってないのかな。今お釣り出しますよ」
「いや、教えてもらったんだから講習料込みの値段だ。受け取ってくれ」
えーーーー! 黙って見てないで私が教えれば良かったよー。
冒険者の男は私の方をチラッと見て、視線を逸らすとそそくさと出て行った。
金貨一枚が10000エールだから、『魔女のラーメン』が50食分は買えるよ。
ラーメン一杯に10000エールも使うなんて、この男何ものなんだろう。
3分経つのをジッと待っていた男は箸を上手に使いながらスルスルッと麺を食べ、ゴクゴクッとスープを飲む。
「美味いな」
小さな呟きだったけど、ちょっと嬉しい。貴族様にも美味しいって言ってもらえた。ラーメンはやっぱり誰もが認める味だよね。
男は食べ終えるとやっと帰る気になったようで出口へと向かう。
ホッと息をついた時、男は振り返って私を見た。
「ああ、忘れるところだった。受け取ってくれ」
男は私の方へコインを投げてよこした。
エッ? 金貨? 金貨なの?
私は慌ててコインを受け止めた。
「また来る」
ドアから出て行った男を見送った後、手の中のコインを見る。
「二度と来るなって~の!」
手の中のコインは鈍い輝きを放つ銅貨だった。
キッパリと呪いは専門外だって断ったから、そのまま帰るものと思っていたのに。
あの男は未だに私の店にいる。そして何故か『魔女のラーメン』を美味しそうに食べている。
男は私の返事に残念そうな顔をしながらも、
「そうか」
と呟き、テーブル席の方へ歩いて行く。思わず出口はそこじゃないですよって言いそうになった。
「それは美味しいのか?」
『魔女のラーメン』のスープを飲んでいた冒険者の男は身なりの良い男を見て慌てて飲むのをやめた。
「ああ、ここにところ毎日食べに来ている、ですよ」
「そうか」
ジッと見つめられて居心地が悪いのか、
「良かったら食べますか?」
とあれくれの冒険者らしくもなく丁寧な言葉を返している。
貴族ってだけでなく、なんとなく威厳があるんだよねこの男。冒険者もそういうのを敏感に感じているから、この男を無視できなかったんだと思う。
「いいのか?」
「たくさん買ってあるから大丈夫です。この『魔女のラーメン』は保存食にもなるからダンジョンにもぐる時にも持って行こうと思って大量に買ったんです」
確かに大量に買ってくれた。でもここはうちの売り上げに協力して欲しかったよね。自分の買った物をわざわざ出さなくってもいいのに。
冒険者の男は鞄の中から先ほど買ったラーメンを取り出して、作り方まで教えている。ここで食べるのは2回目からは100エール必要だって事も説明している。私が口出しする必要もないくらいの丁寧さだ。
でもね、考えてほしい。確かにこの男は初めてうちでラーメンを食べるかもしれないけど、『魔女のラーメン』買ってないからね。無料で食べるのはどうかと思うよ。
色々と言いたい事あるけど、なんとなく口が出せずに、黙って二人のやり取りを見守っていた。
「3分経ったら蓋を開けて食べてください」
「ありがとう。助かったよ。ラーメン代だ。受け取ってくれ」
えッ? それ、金貨ですよ。間違ってますよ。
「一袋200エールですから多いですよ。ああ、金貨しか持ってないのかな。今お釣り出しますよ」
「いや、教えてもらったんだから講習料込みの値段だ。受け取ってくれ」
えーーーー! 黙って見てないで私が教えれば良かったよー。
冒険者の男は私の方をチラッと見て、視線を逸らすとそそくさと出て行った。
金貨一枚が10000エールだから、『魔女のラーメン』が50食分は買えるよ。
ラーメン一杯に10000エールも使うなんて、この男何ものなんだろう。
3分経つのをジッと待っていた男は箸を上手に使いながらスルスルッと麺を食べ、ゴクゴクッとスープを飲む。
「美味いな」
小さな呟きだったけど、ちょっと嬉しい。貴族様にも美味しいって言ってもらえた。ラーメンはやっぱり誰もが認める味だよね。
男は食べ終えるとやっと帰る気になったようで出口へと向かう。
ホッと息をついた時、男は振り返って私を見た。
「ああ、忘れるところだった。受け取ってくれ」
男は私の方へコインを投げてよこした。
エッ? 金貨? 金貨なの?
私は慌ててコインを受け止めた。
「また来る」
ドアから出て行った男を見送った後、手の中のコインを見る。
「二度と来るなって~の!」
手の中のコインは鈍い輝きを放つ銅貨だった。
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