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第5話(17)

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「本当っ!? 約束だよ、修助君!」
「ああ。約束」

 それを聞いて、レートの顔にようやくいつもの微笑みが戻った。視線も、再び僕の目へと戻る。

「……ずっと、いつ言えばいいか悩んでたんだけど、逃げずに言えて良かった」
「レート……」
「な、なんだかほっとしたら眠くなっちゃった。ぼ、ボク、先にお休みするね」
「ああ」

 いそいそと窓を閉めて室内に入るレート。
 その姿を見て、僕は誰にも聞こえないように呟いた。

「ホント、優しいな」

 さっきまでの話、あれは一部を除いて嘘だ。自分では気付いてないようだけど、僕にはすぐわかる。
 レートの視線を逸らす仕草は、困っている時や悩んでいる時、いけないことをした時に起こる。
 僕が初めてそれを見たのは、レートが来てくれてから五日目の日曜日。
 当時は、新しい環境への不安から食が細かったレートのために、僕は三食一緒に食べていた。そしてその日の晩ご飯、から揚げを食べていた時、初めてレートが食べ物に興味を示しよだれを出した。でも、ちょっぴり分泌量が多くって地面に置いてた皿にあったから揚げがびしょびしょに。結局、それは食べれなくなっちゃった。

 そんな時、レートが「くぅ~ん」って鳴いて、視線を逸らした。

 僕はおかずが無くなったことより食欲が出てくれた方が嬉しかったから気にしないように撫でてあげたら、僕の目を見て小さく「ワン」って吠えたあと、顔を舐めてくれた。
 その姿がレートの優しさを物語っているようで、すごく印象的で忘れることができなかった。
 ようするに。あの話で真実は、僕とマシマロを大切って言ってくれたことと、悩んでいたけど逃げずに言えて良かったの二つ。
 レートはあえて悪役になって、僕を幻滅させようとしていたんだ。今までの自分の立場を、積みあげてきたモノを捨ててでも、お姉ちゃんを推したかったのだ。

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