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第5話(15)

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「マシマロちゃん、もう行っちゃったんだね」
「うん」
「夜の道って怖いけど、大丈夫かなぁ」
「『漆黒の盾』だから心配ないよ」

 むしろ心配なのは変質者の方。気易く声なんぞかけた日には総攻撃を喰らってズタボロ病院直行確定だ。

「しっこく?」
「ちょっと色々あってね。今から、寝る前にその話でもしよっか」
「……あのね、ボク、なんだか疲れちゃったから、そのまま眠ろうかなって」
「そっか。じゃあ、僕もそうしようかな」

 冷静になって考えたいこともあるしな。
 マシマロが帰ってきて歩きやすいように明かりは点けっぱなしで自室に入り、すっかりお馴染みのポジションでベッドイン。

「おやすみなさい」

 今日は僕の腕を掴まないで、背を向けてお休み。不在のマシマロへの、レートなりの配慮なのだろう。

「おやすみ。レート」

 そう言ってから目を閉じ、さっきのことを考える。
 修助、本当にいいのか?
 すぐにそんな言葉が浮かんできた。
 もちろん、いいはずはない。納得だってできてない。けど……それがマシマロの願い。
 もし、もしも僕がアニメや漫画の主人公だったら、誰の笑顔を奪うこともなく解決できるのに。でも、そうならないのが現実。
 いくら迷い、悩んだところで答えは二つに一つ。最後は僕が決めるしかない。それが、どんな結末になっても。

「……風にでも当たろう」

 救いを求めるようにベランダに出て、手すりに頬杖ついて夜空を眺めた。

「綺麗だな」

 今日は満月。周りに雲もなく、黒の中にぽっかりと丸い光が浮かんでいる。
 僕の心を象徴しているような、スッキリとしない夏特有の湿った風が髪を掻き上げる。
 それが頭に入り記憶を吹き出させたのか、この四日間のことが徐々に蘇ってきた。
 マシマロ、レートと話しが出来た時は、戸惑いもあったけど嬉しかった。
 マシマロ、レートと散歩して楽しかった。
 個別の日では、マシマロ、レートのことを今まで以上に知れて、悩みを共有できて本当に良かった。
 そして今日。学校、買い物、オムライス。
 かけがえのない、思い出ばかり。
 瞳を閉じると、仲が良い女の子と男の子の姿が鮮明に浮かぶ。本当の姉弟のように

「修助君」
「……起こしちゃったかな」

 振り返ると瞼の内側で笑っていた男の子が立っていた。

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