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第5話(12)
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☆
「ふぃ~。気持ちよかった~」
今日は晩ご飯を食べすぎちゃったから、初めて三十分近く長風呂をした。
これは以前に夏子が、お風呂に長時間入ったらお腹が空いた、って言っていたから実践してみた。でも、空くというよりは水圧で胃が圧迫された気がする。どうやら人によって差が出るらしい。
まぁスッキリできたから良しとしよう。風呂上りに鏡を見て……すぐパジャマを着る。貧弱な体を見てるのが辛かった。
軽くへこみながらリビングに戻ると、冷房が火照った全身を冷ましてくれる。これこそ夏の醍醐味で、この瞬間のために熱めのお湯に入ったのだ。
「上がったよー」
ドアを閉めつつそう報告するも、マシマロとレートはテレビに夢中で返事がない。
何を観てるのかな?
テーブルにある麦茶を一杯飲んで確認すると、自慢のペットを紹介する番組がやっていた。
「ねえ、このナレーション間違ってるよ。この子は『ご主人様ありがとう』なんて言ってないのに。どっちかというと、嫌ってるよ」
「飼い主さん、ナデナデしてあげてるのに可哀想」
「あ、レー君はこの子どう思う?」
「お洋服着るのは嫌みたい。でも、弟さんの方は着たがってるよね」
「逆にすれば上手く収まるのにね。なかなか気付いてもらえなくて、見てて歯がゆいね」
なるほど。どうも人間というやつは自分の都合よく解釈するみたいだ。
お楽しみを邪魔したら悪いから、番組が終わるまで待ってから話しかける。
「お先に。次はどっちが入る?」
「あ、おかえりなさい。ボクは最後でいいから」
「ダメだよ。今日はレー君が先。ほらっ、ボーイファーストだよ!」
「ま、待ってよマシマロちゃん」
強引に手を引っ張られお風呂場へと連行されていくレート。譲り合う、微笑ましい光景に体以上に温かい気持ちになる。
「……もー。遠慮しなくていいのに……」
「お疲れ様」
戻ってきたマシマロを、苦笑しつつ労う。
さて、お風呂上りのレートに冷たい麦茶でも出してあげよう。えーと、氷はまだ出来てなかったっけ――
「しゅーすけ君」
「ん? ちょっと待ってね」
冷凍庫を閉めて振り返ると、マシマロはやけに真面目な顔をしていた。
「……あのね、一つ聞いていい?」
「いいけど。急に改まって、どうしたの?」
「……猫側と犬側。どっちを選ぶか決まったのかな?」
「えっ…………まだ、だよ」
それは明日、直前に決めればいいと思ってたからまだ考えてすらなかった。
「そう、なんだ」
「う、うん」
予想外の質問だったけど、それが聞きたいことなのかな。
「それがどうか――わわっ!?」
「しゅーすけ君っ!」
唐突にマシマロに抱きつかれちゃった!?
「な、ななな何してるのっ!」
「ん~」
声が届いていないのか、気持ちよさそうに僕の胸に頬をスリスリ。
「あの……」
「ん~」
なおも継続中。
「えーと……」
「んにゃ~」
まるで、幸福の絶頂がここにある、と言わんばかりの笑顔。
引き離すのも忍びないので、このままの体勢で三分間。ここでようやく終わった。
「はふぅ~。しゅーすけ君エネルギーの蓄え完了だよー」
「も、もぅ。どうしちゃったの?」
「あのね……もう一つ。今度はお願いがあるんだ。どうしても聞いてほしいお願いが」
「? 僕が協力できる範囲ならなんでもするけど、言ってみてよ」
なんだか様子が変だけど、どうしたのかな。
「明日ね……犬側の勝ちって言ってほしいの」
「………………………………」
聞いてすぐは言葉の意味が理解できなくて、口をパクパク動かすのがやっとだった。
「ふぃ~。気持ちよかった~」
今日は晩ご飯を食べすぎちゃったから、初めて三十分近く長風呂をした。
これは以前に夏子が、お風呂に長時間入ったらお腹が空いた、って言っていたから実践してみた。でも、空くというよりは水圧で胃が圧迫された気がする。どうやら人によって差が出るらしい。
まぁスッキリできたから良しとしよう。風呂上りに鏡を見て……すぐパジャマを着る。貧弱な体を見てるのが辛かった。
軽くへこみながらリビングに戻ると、冷房が火照った全身を冷ましてくれる。これこそ夏の醍醐味で、この瞬間のために熱めのお湯に入ったのだ。
「上がったよー」
ドアを閉めつつそう報告するも、マシマロとレートはテレビに夢中で返事がない。
何を観てるのかな?
テーブルにある麦茶を一杯飲んで確認すると、自慢のペットを紹介する番組がやっていた。
「ねえ、このナレーション間違ってるよ。この子は『ご主人様ありがとう』なんて言ってないのに。どっちかというと、嫌ってるよ」
「飼い主さん、ナデナデしてあげてるのに可哀想」
「あ、レー君はこの子どう思う?」
「お洋服着るのは嫌みたい。でも、弟さんの方は着たがってるよね」
「逆にすれば上手く収まるのにね。なかなか気付いてもらえなくて、見てて歯がゆいね」
なるほど。どうも人間というやつは自分の都合よく解釈するみたいだ。
お楽しみを邪魔したら悪いから、番組が終わるまで待ってから話しかける。
「お先に。次はどっちが入る?」
「あ、おかえりなさい。ボクは最後でいいから」
「ダメだよ。今日はレー君が先。ほらっ、ボーイファーストだよ!」
「ま、待ってよマシマロちゃん」
強引に手を引っ張られお風呂場へと連行されていくレート。譲り合う、微笑ましい光景に体以上に温かい気持ちになる。
「……もー。遠慮しなくていいのに……」
「お疲れ様」
戻ってきたマシマロを、苦笑しつつ労う。
さて、お風呂上りのレートに冷たい麦茶でも出してあげよう。えーと、氷はまだ出来てなかったっけ――
「しゅーすけ君」
「ん? ちょっと待ってね」
冷凍庫を閉めて振り返ると、マシマロはやけに真面目な顔をしていた。
「……あのね、一つ聞いていい?」
「いいけど。急に改まって、どうしたの?」
「……猫側と犬側。どっちを選ぶか決まったのかな?」
「えっ…………まだ、だよ」
それは明日、直前に決めればいいと思ってたからまだ考えてすらなかった。
「そう、なんだ」
「う、うん」
予想外の質問だったけど、それが聞きたいことなのかな。
「それがどうか――わわっ!?」
「しゅーすけ君っ!」
唐突にマシマロに抱きつかれちゃった!?
「な、ななな何してるのっ!」
「ん~」
声が届いていないのか、気持ちよさそうに僕の胸に頬をスリスリ。
「あの……」
「ん~」
なおも継続中。
「えーと……」
「んにゃ~」
まるで、幸福の絶頂がここにある、と言わんばかりの笑顔。
引き離すのも忍びないので、このままの体勢で三分間。ここでようやく終わった。
「はふぅ~。しゅーすけ君エネルギーの蓄え完了だよー」
「も、もぅ。どうしちゃったの?」
「あのね……もう一つ。今度はお願いがあるんだ。どうしても聞いてほしいお願いが」
「? 僕が協力できる範囲ならなんでもするけど、言ってみてよ」
なんだか様子が変だけど、どうしたのかな。
「明日ね……犬側の勝ちって言ってほしいの」
「………………………………」
聞いてすぐは言葉の意味が理解できなくて、口をパクパク動かすのがやっとだった。
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