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第4話(10)

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「何度聞いても教えてくれなかったから考えないようにしてたんだけど……やっぱり気になって。でも、昨日と今日で同じことが続いたらしゅーすけ君も迷惑だろうって、ずっと悩んでた。もちろんっ、今は幸せだよ」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。……あのね、僕は迷惑だなんて思わない。気なんて遣わなくていいんだよ」
「で、でも――しゅ、しゅーすけ君っ!?」

 僕はマシマロの手を掴んで走り出した。

「今からその場所へ連れて行ってあげるよ。……よく頑張ったね」
「……しゅーすけ君。ありがとう……」

 僕の手を握る小さな手が、強張っているのがわかった。知りたいけど、知りたくない。矛盾した気持ちに揺れ動いてるんだろう。

「大丈夫だよ」

 そう。何も怖くなんかない。金川が言ったことは、本当なんだから……。
 狭い路地を抜けて、入り組んだ道を進む。角を右に曲がり、まっすぐ、また曲がる。それを繰り返し、着いたのは――二階建ての家の前。築十数年で、庭には一つ犬小屋。表札には『樹坂』の文字。

「え、あれ? 戻ってきちゃった」
「うん」
「あ、あたしが捨てられてた場所は……?」
「ここだよ」

 表札の下を指さす。

「う、嘘だよ。そんなこと……」
「……あれは、三年前のちょうど今の時期だった。父さんが出勤した後に、金川といつもの時間に散歩に出かけたんだ。そしたら――」

 家に視線をやって、一呼吸おいてから続ける。

「ここに、マシマロがいた。嘘じゃない。真実だよ」
「じゃ、じゃあ、ここに、捨てられて」
「それはちょっと違うんだ。その時、マシマロが入っていたのは、風通しが良い綺麗な竹の箱だったんだ。大切に毛布に包まれて、ご丁寧に日傘まであって。一瞬、誰かが置いてるのかと思っちゃったよ」
「どうして……。そんなこと……」
「それは――。マシマロを愛してた、からかな」

 マシマロの不安定な心を落ち着かせるように、ゆっくりと瞳を見つめた。

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