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第4話(9)

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「草十郎さんのお話、ためになったねー」
「うん。マシマロにはね……」

 あの後、三時間ほど素晴らしいお話をお聞かせ頂いた。内容はというと……『旅先で一人の女性に恋をした話』『野良として生きると決めたあの日』などなど。
 実に不毛だった。
 ほんの数秒前に空き地を出たはずなのに、マラソン直後のような倦怠感。
 ふぅ。帰ったら、お風呂に入って疲れでも――おや?
 マシマロがまたあの歩き方になってる。
 てっきり僕はネタが浮かばなくてああなったと思ってたんだけど……違った?
 表情を確認してもニコニコしてるし、迷っている悩んでるようには見えない。さっきまでも楽しそうにはしゃいでた。
 でも、僕はずっとマシマロを見てきてるから、間違えるはずはない。
 う~ん、このまま放っておけないし、なにより心配だ。聞いてみるか。

「ねえマシマロ。迷ってることとか悩みがあるなら、僕でよければ相談に乗るよ?」
「え!? な、悩んでなんかないよっ」

 この焦り方。やっぱり何かある。

「僕に言えないことなのかな?」
「ううん! そんなんじゃないけど……しゅーすけ君はどうして悩んでるって思ったの?」
「それは、歩き方に出てるからだよ」
「歩き方?」
「そっ。自分では気付いてないみたいだけど、マシマロって、今みたいな状態の時はこうやって足を交差させて歩くんだよ」

 こういう場合は明るくした方がいいだろうし、真似してみた。

「そっかぁ……しゅーすけ君にはお見通しなんだね」
「伊達に一緒に居ませんからね」

 ニッと笑ってみる。すると、マシマロも安心したように微笑んでくれた。

「……あのね……しゅーすけ君に聞きたいことがあるんだ」
「いいよ。何でも聞いてよ」
「……あたしが……拾われたのって、どこなのかな?」
「え!?」

 その問いは、僕が少しも予想していないものだった。

「ご、ごめんね。折角の楽しい時間を台無しにするようなこと聞いちゃって」
「それは構わないけど。どうして……?」
「昨日のレー君のことがあって……。また考えるようになっちゃったんだ」
「そっか……。でも、『また』って……」
「あたしを捨てた人って誰なのかな? どこでって。……ずっと前にも考えて、金川(きんかわ)さんに聞いたことあるんだけど、その時は『お前はここで生まれてここで育ったんだ』って」
「金川……。そう、言ったんだ」

 金川さんとは、迷いで来たゴールデンレトリバーで、レートの先代にあたる。
 ちなみに母さんが命名で、理由はレトを取ったらゴールデンリバーじゃん、から始まって、金の川、それで金川。
 しかしこの渋い名前が似合う老犬で、どっしりとしていて威厳と風格は家で一番だった。そして、誰にでも優しかったんだよなぁ。

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