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第4話(5)
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「にゃにゃっ。うにゃー。うにゃにゃにゃにゃっ」
「ではボクは『猫会東地区会長』として、クーが言った『猫は恩を三日で忘れる』について、弁明を兼ねた補足をさせてもらおうかな」
まだその話引っ張るのかい。まあいいけども。
「にゃーにゃーにゃー。にゃっにゃっにゃっー」
「今から四年前……。マシマロちゃんの家のはす向かい、青崎さん宅の前で、一匹の猫が病気で倒れた」
「へぇ、そんなことがあったんだ。初耳だよ」
今日も出てきたな、青崎さん。最近出ずっぱりだ。
「にゃっー。にゃーにゃにゃにゃにゃにゃ」
「その猫は野良だったから、どうすることもできず苦しんでいた。そんな時家の主人が現れ担ぎ上げ、近所の獣医に連れて行ってくれたそうだ。そして、無事助かったよ」
「へぇ。さすが青崎さんだ」
「にゃにゃにゃにゃにゃー。にゃ、にゃー。うにゃ~。にゃにゃ!」
「そして月日は流れて三年前。退職後青崎さんが独りでいる時間が増えたという噂を聞いたボクたちは、あの時の恩を返すため、東地区全員交代制で、24時間365日青崎さんの傍にいるようにしたんだ。一猫は皆のために、皆は一猫のために!」
「ほぉ、それはすごい。『猫は恩を絶対忘れない』に変えるべきだ」
一人暮らしで寂しくならないように、常に一緒なんだね。それは、なかなかできることじゃない。
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
「以上で、ボクの話は終わりです。御清聴ありがとう」
会長らしく、深々としたお辞儀で締めた。
「さてさてっ。マイク君のお話どうだったかなー?」
「予想以上にしっかりしてて驚いた。これはかなりのプラスだよ」
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
マイクが嬉しそうに小躍りを行う。
猫の恩返し。これは僕としても、各所に広めていこう。
「よーっしっ。この調子でナギサちゃん、どうぞ!」
「……にゃぁ」
小さな体をさらに小さくして、静かに前へ出る。結構緊張してるみたいだけど、大丈夫かな。
「……にゃ、にゃぁ……」
「ナギサちゃんはね、猫の身体能力をお見せするみたいだよっ」
「へぇ~。それは興味深いね」
今回は同時通訳じゃなくて、ある程度はマシマロが代弁してあげてるみたい。
猫の運動能力が発達しているのは知ってたけど、実際に間近で見る機会は殆どないからね。これは楽しみだ。
「……にゃあ」
「まずは、あたしがナギサちゃんを仰向けに持ち上げます。そして、その状態のまま落とすと……ナギサちゃんは空中で体勢を立て直して見事着地。屋根から落っこちた時の再現なんだけど、これを披露しまーす」
「ぇ。そんなことして、いいの?」
こういう身体を張った実験を見るのは、ドキドキする。ナギサはおとなしいから、なおさらだ。
「この方法が、一番よくわかってもらえるんだよー。平気だから安心してっ」
「そ、そう? じゃあ、お願いします」
「……にゃ」
ナギサがマシマロの傍まで行って、地面に仰向けになる。そしてそれをマシマロが両手でしっかりと抱きかかえ、準備完了となった。
「……にゃ」
「らじゃーっ。それじゃ、いっくよー。えいっ!」
マシマロの手を放れて自由落下を始めたナギサの体は、まだ地面に背を向けたまま。だが、地面との距離が半分に迫ったところで体をひねり始め、あっという間に体勢制御。見事に足から着地を成し遂げた。
「おおっ! やるねー」
「……にゃ、にゃぁ……」
あらら、恥ずかしそうに俯いちゃった。
「……にゃ」
ナギサは再びマシマロのもとへ。
「あれ? まだ何かするの?」
「……にゃ」
「これが本日のメインだよ。今度はさっきの状態から、ナギサちゃんを斜め前方へ投げます。さてさて、無事に着地できるかな~?」
「ちょい待って! それ危ないでしょ!」
身体能力の高さを披露してくれるのは嬉しいけど、そんな状況は現実にはありえない。怪我でもしたら大変だ。
「あのね、心配しなくても大丈夫。こうみえてナギサちゃんは、ここらではナンバー1の運動神経の持ち主だから」
なんとまあ、猫は見かけによらないものです。
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
「マイクが何か言ってるよ」
「『良い子はマネしないでください。これは鍛えられた猫だから出来るのです』。だって」
誰がするかってんだ。芸人の匂いがプンプンするマイクの相手をしている間に準備は整い、いざその時。
「いっくよー! ていっ!」
勢いよく射出されたナギサは空中に投げ出され――!? なんとっ、くるっと空中で三回転して見事着地。あまりの華麗さに目を奪われてしまった。
「ナギサちゃんの実力はすごいでしょー。どうだったかな?」
「映像や紙媒体では知ってたけど、実際に目の当たりにすると改めて猫のすごさを思い知らされたよ。お疲れ様です」
「……にゃ」
「褒めていただいて、ありがとうございます」
控えめに鳴いてから定位置に戻った。これでナギサはお役御免。
色々と発見があるし、予想以上にためになるなぁ。さすがディスカッション――なのかこれは?
まあいいや。さて、お次は――
「草十郎さん、お願いしまーす」
この人(猫)か。
何をする、話すつもりなのか、想像できない。
「ではボクは『猫会東地区会長』として、クーが言った『猫は恩を三日で忘れる』について、弁明を兼ねた補足をさせてもらおうかな」
まだその話引っ張るのかい。まあいいけども。
「にゃーにゃーにゃー。にゃっにゃっにゃっー」
「今から四年前……。マシマロちゃんの家のはす向かい、青崎さん宅の前で、一匹の猫が病気で倒れた」
「へぇ、そんなことがあったんだ。初耳だよ」
今日も出てきたな、青崎さん。最近出ずっぱりだ。
「にゃっー。にゃーにゃにゃにゃにゃにゃ」
「その猫は野良だったから、どうすることもできず苦しんでいた。そんな時家の主人が現れ担ぎ上げ、近所の獣医に連れて行ってくれたそうだ。そして、無事助かったよ」
「へぇ。さすが青崎さんだ」
「にゃにゃにゃにゃにゃー。にゃ、にゃー。うにゃ~。にゃにゃ!」
「そして月日は流れて三年前。退職後青崎さんが独りでいる時間が増えたという噂を聞いたボクたちは、あの時の恩を返すため、東地区全員交代制で、24時間365日青崎さんの傍にいるようにしたんだ。一猫は皆のために、皆は一猫のために!」
「ほぉ、それはすごい。『猫は恩を絶対忘れない』に変えるべきだ」
一人暮らしで寂しくならないように、常に一緒なんだね。それは、なかなかできることじゃない。
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
「以上で、ボクの話は終わりです。御清聴ありがとう」
会長らしく、深々としたお辞儀で締めた。
「さてさてっ。マイク君のお話どうだったかなー?」
「予想以上にしっかりしてて驚いた。これはかなりのプラスだよ」
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
マイクが嬉しそうに小躍りを行う。
猫の恩返し。これは僕としても、各所に広めていこう。
「よーっしっ。この調子でナギサちゃん、どうぞ!」
「……にゃぁ」
小さな体をさらに小さくして、静かに前へ出る。結構緊張してるみたいだけど、大丈夫かな。
「……にゃ、にゃぁ……」
「ナギサちゃんはね、猫の身体能力をお見せするみたいだよっ」
「へぇ~。それは興味深いね」
今回は同時通訳じゃなくて、ある程度はマシマロが代弁してあげてるみたい。
猫の運動能力が発達しているのは知ってたけど、実際に間近で見る機会は殆どないからね。これは楽しみだ。
「……にゃあ」
「まずは、あたしがナギサちゃんを仰向けに持ち上げます。そして、その状態のまま落とすと……ナギサちゃんは空中で体勢を立て直して見事着地。屋根から落っこちた時の再現なんだけど、これを披露しまーす」
「ぇ。そんなことして、いいの?」
こういう身体を張った実験を見るのは、ドキドキする。ナギサはおとなしいから、なおさらだ。
「この方法が、一番よくわかってもらえるんだよー。平気だから安心してっ」
「そ、そう? じゃあ、お願いします」
「……にゃ」
ナギサがマシマロの傍まで行って、地面に仰向けになる。そしてそれをマシマロが両手でしっかりと抱きかかえ、準備完了となった。
「……にゃ」
「らじゃーっ。それじゃ、いっくよー。えいっ!」
マシマロの手を放れて自由落下を始めたナギサの体は、まだ地面に背を向けたまま。だが、地面との距離が半分に迫ったところで体をひねり始め、あっという間に体勢制御。見事に足から着地を成し遂げた。
「おおっ! やるねー」
「……にゃ、にゃぁ……」
あらら、恥ずかしそうに俯いちゃった。
「……にゃ」
ナギサは再びマシマロのもとへ。
「あれ? まだ何かするの?」
「……にゃ」
「これが本日のメインだよ。今度はさっきの状態から、ナギサちゃんを斜め前方へ投げます。さてさて、無事に着地できるかな~?」
「ちょい待って! それ危ないでしょ!」
身体能力の高さを披露してくれるのは嬉しいけど、そんな状況は現実にはありえない。怪我でもしたら大変だ。
「あのね、心配しなくても大丈夫。こうみえてナギサちゃんは、ここらではナンバー1の運動神経の持ち主だから」
なんとまあ、猫は見かけによらないものです。
「にゃにゃにゃにゃにゃー」
「マイクが何か言ってるよ」
「『良い子はマネしないでください。これは鍛えられた猫だから出来るのです』。だって」
誰がするかってんだ。芸人の匂いがプンプンするマイクの相手をしている間に準備は整い、いざその時。
「いっくよー! ていっ!」
勢いよく射出されたナギサは空中に投げ出され――!? なんとっ、くるっと空中で三回転して見事着地。あまりの華麗さに目を奪われてしまった。
「ナギサちゃんの実力はすごいでしょー。どうだったかな?」
「映像や紙媒体では知ってたけど、実際に目の当たりにすると改めて猫のすごさを思い知らされたよ。お疲れ様です」
「……にゃ」
「褒めていただいて、ありがとうございます」
控えめに鳴いてから定位置に戻った。これでナギサはお役御免。
色々と発見があるし、予想以上にためになるなぁ。さすがディスカッション――なのかこれは?
まあいいや。さて、お次は――
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