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第2話(7)

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「? なーに、なっちゃん?」
「全部っ。帰りに、冷蔵庫にあるサンドイッチを全部あげるからね!」

 幼馴染は、すごく優しい人だった。おもわず涙が零れそうになるくらい、ありがたい反応だった。

「え、でも。そしたら、なっちゃんの分がなくなっちゃうよ?」
「ううん。ぜひともマシマロさんに――レート君にも食べてもらいたいの! 自分の料理で人を幸せにできる、これこそ料理人冥利に尽きるの」

 そうしてマシマロは夏子謹製サンドウィッチをいただけることとなり、ここからは夏子の優しさに満ち満ちた時間が流れていく。
 と、思いきや。
 突然、ピンチがやって来た。

「ずっと気になってたんだけどさ、マシマロさんとレート君って外国の人? 名前もそうだし、髪の毛も染めてないよね?」
「マシマロとレートはアメリカ生まれ! クオーターなんだ!」

 アメリカンショートヘアーだから、アメリカ。ほどよく血が薄まってそうだから、クォーター。我ながら安直だ。

「アメリカ、かぁ。でも、修助の親族に外国の人がいるなんて初耳だ。どうして教えてくれなかったのよ」
「別に言うほどのことでもないでしょ。それに遠い親戚で、殆ど会う機会がなかったんだ。ねえマシマロ」
「うんっ」
「へぇー、そうなんだ。ねぇマシマロさん。修助に会ったのっていつの時?」

 い、いつって。この場合は、どう言えば正解なんだ?
 僕が小学校の時は……夏子は学校の帰りはほとんど家に来てたし……幼稚園も……難しい。てかそれ以前に、マシマロとレートの年齢は教えたっけ? 何歳の設定だっけ?
 それ聞かれたらまずいじゃん!

「ねえねえ。初めて会ったのは、いつ頃?」
「あたしはだいたい、3年前だよ。レー君はその3か月後だねー」

 悪戦苦闘している僕とは真逆で、さらっと答え――それって本当に出会った時間じゃないかっ。い、いけるだろうか?

「そうなんだ。3年前ねぇ」

 僕は夏子が、ニヤリとしたのを見逃さなかった。コイツ……何か企んでやがる……?

「それなら、あれだ。中学より前の修助のことは知らないんだよね?」
「うん。そうだよ」
「そっかそっか」
「? どうしたのなっちゃん?」
「ううん。ちょっと待っててね」

 表情を一切変えないまま、夏子は部屋を出て行った。
 これは今までと様子がまるで違う。中学の時は僕の両親もいたし、家族ぐるみで旅行にも行った。それに外国人の親戚がいるなんて情報を、お喋りの母さんが言わないはずない。

(やはり、無理があったのか……?)

 額に脂汗を浮かべつつ待つこと五、六分。体感にして一時間ほどの時を経て、夏子が再び姿を現した。
 ついに、ついに、ズバッと切り込まれるのだろうか?
 口内に溜まっていた唾を、ゴクリと飲み込む。
 そんな僕の様子を知ってか知らずか、なおも意地悪な笑みを浮かべたままで……。夏子はゆっくりと口を開いて――

「じゃーん。これはね、修助が写ってる卒園、卒業アルバムなんだっ☆」

 背後に隠していたアルバムをテーブルの上に置いた。
 ……うん。危険は跡形もなく去った。もとい、来てすらなかった。
 いや待て。このアルバムには、僕の黒歴史満載だ。初めてのお弁当で弁当箱落っことして泣いてる写真とか、運動会で調子に乗ってコケて泣いてる写真とか。泣いてばっかだ。
 こ、これは、むしろこっちの方が危険なのか!?

「マシマロさん、興味ある?」
「うん! しゅーすけ君の昔のこと、いっぱい知りたいよ!」

 やめて……そんな輝くような笑顔は見せないで……。

「だってさ。〝しゅーすけ〟君?」
「う。や、やめろ! それはパンドラの箱――」
「ではまず、年少。修助、トイレを間違えるの巻~☆」

 パンドラの箱は、無慈悲に開けられてしまったのであった。

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