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第1話(6)
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「安全とはいえ、変身の際はお傍にいないと心配だと思います。私は待っていますので、お先にどうぞ」
「ああどうも。ちょっと失礼しますね」
御言葉に甘えて、スタスタスタ。廊下を進んで玄関に向かい、ドア越しに誰何する。
「お待たせいたしました。どちら様ですか?」
『た、宅配便です……』
耳を澄ましてようやく聞こえるほどの小さな、女の人の声が聞こえた。
なんだ、宅配便か。もしかして、ばあちゃんが新鮮な野菜を送ってくれたのだろうか。
「分かりましたっ。少々お待ちください」
『は、はい。ご、ごめんなさい……』
なぜ、謝罪? まあいいか。
疑問を感じつつ、靴箱の上に置いてある印鑑をとって――おや? 印鑑がないぞ。
「あ、あれ? どこ行った?」
いつもここに置いてあるんだけど……。印鑑さんはいずこへ?
「おーい。印鑑さーん」
落ちてないか靴箱の下を探すも、発見できず。どうやら印鑑さんは、どこかにお散歩中のようだ。
「いないなら、しょうがないな。サインで対応を――」
「にゃー」
これ以上お待たせするワケにもいかないので立ち上がっていると、マシマロが傍に来た。
「ん? どしたの――ぁっ、印鑑だ!」
「にゃっ」
誇らしげにしているマシマロが咥えているのは、印鑑。僕の声を聞いて、わざわざ持って来てくれたようだ。
「ありがとうっ。すごいね、どこにあったの?」
「にゃ。にゃー」
マシマロはゆっくりと、リビングの方を向く。
あ、そうだ。思い出した。昨日通販を受け取った時にうっかり持って行っちゃって、戻すのを忘れてたんだ。
「助かったよ。どうもね」
「うにゃ~」
印鑑をもらってから顎の下を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らした。ニャンコのゴロゴロってとっても可愛い上に人間の骨を強化する効果もあるらしいので、耳にする機会があれば是非満喫しましょう。
「うにゃ。うにゃ~」
「うん、受け取ったら戻るからね。本当にありがとう」
和室へと戻っていくマシマロに手を振り、身体の向きを180度戻す。
宅配業者さん、お待たせしました。ドアをお開けしますね。
「すみません。お待たせしました」
「は、はぃっ」
ドアの向こうに立っていたのは、僅かに俯きがちで、色素の薄いロングヘアーと真っ白な肌が印象的な女の子。
それにしても、随分と華奢だ。失礼だけど、こんな体で激務が務まるのだろうか?
「あ、あのっ…。樹坂修助さんです、よね?」
「はい。そうですが……?」
「わたっ。私、スゥと申します」
「は、はぁ。ど、どうも」
急に、自己紹介始まった。最近は宅配を装う強盗が出没するから、それ対策なのかな?
「あ、あの……」
「えっと。印鑑はどこに捺せばいいんでしょうか?」
この人は手ぶらで、荷物が見当たらない。僕はどうすればいいんだ?
「え、えっと……。その……」
「はぃ?」
「………………すみません。嘘、なんです。実は、別の目的でお訪ねしました……」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、さっきと同じく小さい声でそう口にする。
あれ? 僕は十数分前に、似たような台詞を耳にしたよね?
よく見るとこの人はブレザータイプの制服を着ていて、それはどことなくリリさんのソレに似ている。
これは…………既視感、デジャビュというヤツだといいなぁ。でもよくよく見ると、キャリーバックがあるんだよなぁ。
ということは、つまり――
「き、樹坂さん。あなたは、私たち犬側の演説者に選ばれました」
予想が的中してしまい、おもわず立ち眩みに襲われる。
そうだ。この可能性をすっかり忘れていた。
ウチは代々、猫も同じくらい犬も大好きなんだ。
数ある候補の中から猫の代表に選ばれるのなら、犬の代表に選ばれることだってありうる。むしろ大勢の中から猫側に抜擢されたのだから、犬側にも抜擢されるのは自明の理であり必然だ。
「ああどうも。ちょっと失礼しますね」
御言葉に甘えて、スタスタスタ。廊下を進んで玄関に向かい、ドア越しに誰何する。
「お待たせいたしました。どちら様ですか?」
『た、宅配便です……』
耳を澄ましてようやく聞こえるほどの小さな、女の人の声が聞こえた。
なんだ、宅配便か。もしかして、ばあちゃんが新鮮な野菜を送ってくれたのだろうか。
「分かりましたっ。少々お待ちください」
『は、はい。ご、ごめんなさい……』
なぜ、謝罪? まあいいか。
疑問を感じつつ、靴箱の上に置いてある印鑑をとって――おや? 印鑑がないぞ。
「あ、あれ? どこ行った?」
いつもここに置いてあるんだけど……。印鑑さんはいずこへ?
「おーい。印鑑さーん」
落ちてないか靴箱の下を探すも、発見できず。どうやら印鑑さんは、どこかにお散歩中のようだ。
「いないなら、しょうがないな。サインで対応を――」
「にゃー」
これ以上お待たせするワケにもいかないので立ち上がっていると、マシマロが傍に来た。
「ん? どしたの――ぁっ、印鑑だ!」
「にゃっ」
誇らしげにしているマシマロが咥えているのは、印鑑。僕の声を聞いて、わざわざ持って来てくれたようだ。
「ありがとうっ。すごいね、どこにあったの?」
「にゃ。にゃー」
マシマロはゆっくりと、リビングの方を向く。
あ、そうだ。思い出した。昨日通販を受け取った時にうっかり持って行っちゃって、戻すのを忘れてたんだ。
「助かったよ。どうもね」
「うにゃ~」
印鑑をもらってから顎の下を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らした。ニャンコのゴロゴロってとっても可愛い上に人間の骨を強化する効果もあるらしいので、耳にする機会があれば是非満喫しましょう。
「うにゃ。うにゃ~」
「うん、受け取ったら戻るからね。本当にありがとう」
和室へと戻っていくマシマロに手を振り、身体の向きを180度戻す。
宅配業者さん、お待たせしました。ドアをお開けしますね。
「すみません。お待たせしました」
「は、はぃっ」
ドアの向こうに立っていたのは、僅かに俯きがちで、色素の薄いロングヘアーと真っ白な肌が印象的な女の子。
それにしても、随分と華奢だ。失礼だけど、こんな体で激務が務まるのだろうか?
「あ、あのっ…。樹坂修助さんです、よね?」
「はい。そうですが……?」
「わたっ。私、スゥと申します」
「は、はぁ。ど、どうも」
急に、自己紹介始まった。最近は宅配を装う強盗が出没するから、それ対策なのかな?
「あ、あの……」
「えっと。印鑑はどこに捺せばいいんでしょうか?」
この人は手ぶらで、荷物が見当たらない。僕はどうすればいいんだ?
「え、えっと……。その……」
「はぃ?」
「………………すみません。嘘、なんです。実は、別の目的でお訪ねしました……」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、さっきと同じく小さい声でそう口にする。
あれ? 僕は十数分前に、似たような台詞を耳にしたよね?
よく見るとこの人はブレザータイプの制服を着ていて、それはどことなくリリさんのソレに似ている。
これは…………既視感、デジャビュというヤツだといいなぁ。でもよくよく見ると、キャリーバックがあるんだよなぁ。
ということは、つまり――
「き、樹坂さん。あなたは、私たち犬側の演説者に選ばれました」
予想が的中してしまい、おもわず立ち眩みに襲われる。
そうだ。この可能性をすっかり忘れていた。
ウチは代々、猫も同じくらい犬も大好きなんだ。
数ある候補の中から猫の代表に選ばれるのなら、犬の代表に選ばれることだってありうる。むしろ大勢の中から猫側に抜擢されたのだから、犬側にも抜擢されるのは自明の理であり必然だ。
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